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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三章 王乱

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第27話 百日

 一年ほど前のこと。


(ん? ありゃ先生か?)


 先生が修行しているシーンを見たことがある。

 上裸で、木剣を持って、あの人は背丈ほどの岩に対峙していた。俺はその様を木陰から見ていた。

 先生は木剣で岩に斬りかかった。


(なにやってんだ。木製武器で岩を斬れるわけ……)


 先生は軽く振っていた。なのに、


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!


 数にして100、衝突音が聞こえた――と思ったら、岩が真っ二つに破壊されていた。


「す、すげぇ!!」

「おや?」

「あ……」


 つい声を上げてしまい、先生に居場所がバレる。


「やれやれ、見られてしまいましたか」


 こうなっては仕方ない。と俺は正面から聞くことに決めた。


「今の技……なんだ? どういう理屈で一振りで百回も打ったんだ?」

「理屈は簡単ですよ。目にも止まらぬ速度で剣を引き、目にも止まらぬ速度で振り抜く。それを繰り返しただけです」

「げっ。マジかよ……」

「理屈は簡単、しかし実現するには繊細な体の使い方と、強固な肉体が必要。技の名は――『百日』。私が2400時間で開発したことからそう名付けました」

「開発した、ってことは、これは王流剣術とは違うってことか?」

「ええ。私が使える唯一のオリジナル、我流剣技です」


 どこか誇らしげに先生は語っていた。



 --- 



 寝室の天井が見える。

 鼻には医療用のテープが貼ってある。

 上半身をガバッと起こす。


「よう」


 側に椅子に座ったシグ姉がいた。


「よく寝てたな」

「シグ姉……」

「時間にして9時間、もう夕方さ」

「シグ姉が看病してくれたのか?」

「ああ。昔から、怪我人の看病は私か先生の仕事だっただろ」


 シグ姉は飯が乗ったトレイを俺の膝の上に乗せる。


「食え。体を治すのに栄養摂取は不可欠だ」

「ありがと」


 食事を進めながらシグ姉と話す。


「無茶し過ぎだお前らは。せめて私たちに話を通してから仕掛けろ」

「パライヤの毒薬のことは……」

「クレインから聞いた。内通者がいる、って話もな」

「手合わせ中に先生を倒すって作戦をお前らに伝えれば、当然内通者の耳にもそのことが入るだろ。内通者から先生に伝われば先生が勝負から逃げる可能性があった。だから言えなかった」

「……そういうことか」

「けど、まぁ……どっちみちあの人は勝負を受けただろうけどな」


 先生には真っ向からじゃ勝てない。それは痛感した。

 でも毒薬はもうないし、また作ったところで先生に飲ませるのは難しい。一度手の内はバレちまってるからな。


 内通者の問題もあるし、ガーゴイルのこともある。


 まさに八方塞がりだ。


「頼むから、もう強引な手段はとらないでくれ」


 シグ姉はそのクールフェイスを崩して、心配そうな瞳をする。


「私は……お前らが傷つく姿を見たくない」

「シグ姉は相変わらず優しいな。クールだけど、いつも俺たちを心配してくれる」

「当然だ。お前らは大切な……姉弟だからな」

「誰も傷つきたくはない。誰かが傷つくところも見たくない。だけどさ、やるしかないんだ。俺もみんなが大切だ。影武者(ドッペル)のみんなが大切なんだよ。例え自分がどれだけ傷ついても、みんなを救いたいんだ」

「……結局お前は自分を二の次にするのだな」


 シグ姉は口元を笑わせる。


「カルラ、お前は自分の価値を低く見ている部分がある。もっと自分を大切にしてくれ。――お姉ちゃんからのお願いだ」

「似たようなことを誰かさんにも言われたな。わかったよ」


 シグ姉が見守る中、俺はもう一度、眠りについた。

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