第26話 先生の剣術
小石が地面に落ちると、クレインは一息で先生との距離を詰めた。
交わる剣と斧。熾烈な打ち合いが始まる。
「ふっ!」
「はぁっ!!」
互いに一歩も引かず、無数の衝突音が校庭に響く。
――互角。
先生とクレインの打ち合いは互角だった。
「これほどとは……!」
「カルラ! カナリア!」
クレインの名を呼ぶ声。
それだけで俺とカナリアはクレインが何を求めているか理解した。
「カナリア! 挟み込むぞ!」
「うん!」
左右から俺とカナリアが攻める。
「くっ……!?」
俺とカナリアに先生が意識を割いた隙に、クレインが高速連続突きを繰り出した。
先生は捌き切れず、ガキン! と仮面に斧の一撃を受けた。
「……つっ!」
クレインは連続突きの余韻で動けない。
先生も突きを受けて怯んでいる。
カナリアの足では追撃が間に合わないが、俺なら間に合う。
俺は駆け出し、木剣で先生の腹を殴った。
――どうだ?
手ごたえは、微妙だ。腹を殴ったはずなのに、感触が微妙にずれる。
「ちっ」
よく見ると先生は左手を腹に添えている。左手で俺の一撃は受け流されたようだ。
「甘く見ていたようだ。やりますね、3人共……」
先生はボソリと、何かを呟いた。すると途端に先生の動きが加速した。
「なんだと!?」
「カナリア! 下がって!」
俺とクレインはカナリアの前に出て、先生の猛攻を受ける。が、受けきれず、カナリアごとぶっ飛ばされた。
3人で団子になって地面に転がる。
おかしい。さっきはクレイン一人で先生に対抗できていたのに、俺とクレインの二人がかりで打ち負けるはずがない。明らかに先生の動きが良くなっている。
「なんだってんだ急に!?」
「なにかを呟いてからいきなり強くなったね」
俺たちは立ち上がり、武器を構え直す。
「ゲンガー、って言ってたよ。先生」
「ゲンガー……だと」
まさか、誕生会で乱入してきたあの竜女と同じ……。
「なぁカナリア、先生の影、なんか変な形してなかったか?」
俺は先生と接近戦をしていたから、影にまでは目がいってない。
「し、してた。なんか、鳥籠? みたいな形」
「やっぱりか……」
「カルラ! 集中!」
先生はすぐに攻め込んでくる。
影武者の中でトップレベルの武力を誇る俺とクレイン、その二人でも防御しきれない連打。
「……どうしました? この程度ですか?」
「そうか、そういうことか」
「アンタの目的は……!」
先生は俺らの計画に気付いている。
気づいた上で、俺らを叩き潰すつもりだ。
3対1という圧倒的不利な状況で俺たちを蹴散らし、自分の力を示す。それが、先生の目的。自分には敵わないと影武者たちに知らしめる気だ。より強大な畏怖を抱かせるのが目的。
「「舐めやがって!!」」
俺とクレインは声を重ね、武器を重ねて振る。
先生は剣で俺たちの攻撃も受けるも、衝撃を吸収しきれず後退した。
「ほぅ、まだ粘りますか」
「カナリア、こっから先お前が入る隙間はない。剣を俺に預けて下がってくれ」
「そうだね、私は戦力にならなそう……ごめんね、任せるよ」
カナリアの剣を受け取り、両手に剣を持つ。
「双剣、ですか」
「……カルラ、二本同時に剣を扱ったことあるの?」
「ねぇよ。でも今、これ以外にあの人の手数に対応する方法が思いつかねぇ」
ジリ、ジリ、と互いに間合いを測りながら近づく
「……」
「……」
「……」
素振りの音が聞こえなくなった。
きっと他の影武者たちも手を止め、この戦いに集中しているのだろう。そっちを見る余裕はないがな。
火蓋を切ったのはクレイン。
飛び出し、先ほどと同じく連続突きを繰り出す。先生はその全てを捌き、最後に力強く剣を振る。クレインは斧で攻撃を受けるも後退する。
同時に俺は飛び出し、双剣を振るう。
「おぅら!!」
木剣が弾き合う音が連続して聞こえる。
100を超える打ち合いをした後、鍔迫り合いに強引に持っていく。
「はじめての双剣にしては中々……だけど、上半身に意識がいきすぎです」
先生が足払いする。だが、
「いいや、ちゃんと下も見てるぜ!」
俺は飛び上がり、足払いを回避。
そのまま先生の胸を蹴り飛ばす。
「……足癖の悪い子だ!」
「クレイン!」
「わかってる!!」
クレインが前に出る。
「甘い!」
クレインに剣を振るおうとする先生。
俺は両手に持った剣を先生に向かって投げる。
「ちぃ!!」
「手癖も悪いんだなぁ、それが!」
先生は俺が投げた二本の木剣を一振りで払う。だが、そのせいで、一手遅れた。
「そこだ!!」
クレインの渾身の一撃が先生の腹筋に叩きつけられた。
「がっ!?」
「さっきは狙う場所を間違えた。だけど!」
次にクレインは先生の手を弾き、剣を打ち上げた。
「……!!」
「今度は間違えない!!」
クレインの斧が先生の胸に迫る。
「それを!」
先生は体を捻り、クレインの突きを躱した。
「甘いと言うのです!」
先生がクレインの腹を蹴り飛ばす。クレインは蹴り飛ばされながら俺が投げた木剣を一本、地面から拾い上げた。先生も打ち上げられた剣をキャッチする。
クレインが俺の位置まで下がってくる。
「大丈夫かクレイン!」
「大丈夫! 先生はいま、ダメージが入ってふらついている。一気に決めるよ!」
クレインから木剣を受け取る。
「おうよ!」
俺はクレインと同時に飛び出した――と思っていた。
クレインが俺の横にいないと気づいたのは、先生の目の前に到達した後のことだった。
「クレイン……?」
後ろに目をやると、クレインが地に膝をつき、項垂れていた。
「体が、重い……!?」
「クレイン!!」
「カルラ! 前見て!」
カナリアの声で俺は前を見る。
こうなったら仕方ない。俺1人で仕留める!
「……ここまで粘った褒美です。見せてあげますよ……私の、我流を……!」
「!?」
先生は片手で剣を振るう。俺はそれを両手に握った剣で受ける。
一!!!!
「なん、だ!?」
俺は先生の攻撃を受けきった……つもりだった。
二!!
「な……に……!?」
剣と剣が合わさる音が、幾度と聞こえる。
三! 四! 五! 六!!
「っ!??」
連続した衝突音が鳴り響く。
先生は小刻みに剣を動かしている。高速で剣を引き、高速で打つ。それを繰り返している。
この技は――!?
「あなたには一度見せたことがありましたね。『百日』……この技は、一振りで百度打つ!!」
――――十!!!
「もっとも、あなた程度ならば十で事足りる」
俺の木剣は破壊され、顔面に渾身の一撃を叩き込まれる。
景色が暗闇に沈んだ。
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