第25話 三対一
計画日を変更して三日後。
俺はクレインと一緒にパライヤの毒薬を確認しに行った。
パライヤの毒薬は十分な量を用意できた後、週に一度の頻度で確認作業を行っている。
俺とクレイン、カナリアとシグ姉、オスプレイとワッグテールのコンビでローテーションで確認作業はやっている。今週は俺たちの番だ。
三本線の傷がある紅葉の木の下、そこにパライヤの毒薬が入った箱が埋まっている……はずだった。
「ないね」
「ないな」
いくら土を掘り起こしても箱は無かった。
「……まさか、先生が掘り起こしたのか?」
「いいや、内通者の仕業だろう」
「内通者? どういうこと?」
もう隠すこともない。
俺はクレインに事情を話す。
「なるほどね。じゃあ計画日は変わらず一年後なんだ。気合入れて損した」
「……怒らねぇんだな」
「どこか怒る要素あった?」
「だってこっちはお前やカナリアも疑ってたわけだし、騙してたわけだし……」
「それぐらい別にいいさ。むしろそれぐらい厳しい方がいい。相手はそれだけ強大だからね」
クレインはパン! と両手を合わせる。
「さて、話を進めよう。これってつまり、内通者が居るの確定ってことだよね? 先生が僕らの誰かを尾行したりして自力で探し当てた可能性もあるけどさ」
「まぁそっちの可能性は低いだろうよ。確認作業に行く時は必ず他の面子が先生を見張ってたからな。先生が尾行してきてたんならそいつらから報告があったはずだ」
しかしショックな展開だな。まさか本当に俺たちの中に裏切り者が居るとは。
「はーっ! 内通者をどう割り出すか、ガーゴイルはどう倒すか、先生はどう倒すか、全部考えなきゃいけないのか。怠いな……」
「パライヤの木もこの時期だと実を成さないし、そもそも作戦が筒抜けなら先生が毒を貰うとは思えない」
「仕方ねぇ。とりあえずみんなと情報を共有――」
「いいやちょっと待った」
クレインは妙案ありって顔だ。
「みんなにこのことを報告するの、二日だけ待ってくれないかな?」
「……なにか作戦があるのか」
「作戦ってほど大層なものじゃない」
クレインは拳を強く握る。
「明日の稽古の途中で、僕が先生を倒すよ。それで、ガーゴイルも僕が倒す。うん、もう明日には島を脱出しちゃおう」
「はぁ!?」
なんてことない調子で、クレインはとんでもないことを言いやがった。
「できるだけ先生を油断させたいから、黙っててほしいんだ」
「先生を単独で倒すなんて……できるわけねぇだろアホ! 無茶言うなバカ! 先生もガーゴイルもそう簡単に――」
出しかけた言葉を飲み込んだ。
クレインの纏うオーラが、強く猛々しく燃え上がっていたからだ。
「最近さ、凄く体の調子が良いんだ。意のままに体が動く、って感じ。今なら……先生にも勝てる気がする。誰にでも勝てる気がする」
確かに、クレインは武器を変えて強くなった。
ここ最近の稽古では他の影武者はもう、クレインに歯が立たない。無論、俺もだ。
それでも、先生には勝てると思わない。
……でもなぁ、この目をしたクレインが意見を変えるとも思わない。
「別に失敗してもダメージないでしょ。ダメ、かな?」
「あーあ、わかったよ。やるだけやってみろ」
「ありがとう! 腕が鳴るね」
もしもこれでコイツの言う通りに事が運んだら、必死に色々考えてた俺やワッグテールが馬鹿みたいだな。
でもいいぜ、クレイン。やっちまえ。
力づくでくだらない策略ねじ伏せちまえよ。それが一番手っ取り早い。
---
翌日、午前の稽古の時間。
全員が木製の武器を持って校庭に出る。
「まずは素振り100回からです。はじめてください」
全員が素振りを始める。
一番気合が入ってるのはクレインだ。
他の倍の速度で素振りしてやがる。あっという間に汗をかき、あっという間に汗が蒸発して、白い蒸気が体から上がり出した。
準備運動は終わったみたいだな。
「先生」
まだ周りが素振りを続けている中、クレインは先生に話しかける。
「久々に僕と手合わせしてくれませんか?」
先生と生徒の手合わせは普段もよくやっている。特にクレインはオリジナルが強いらしいからよく先生と居残りで手合わせしていた。
けど最近はあんまりやってなかったな。先生とクレインが最後に手合わせしたのは半年前ぐらいか。きっと、クレインが強くなったから居残り稽古もやめたのだろう。
「……なるほど。そういう腹ですか」
先生は俺の方に顔を向けた。
「カルラ! カナリア! 来てください!」
なんだろう。とりあえず行くしかない。
「素振りの型が変だったかな?」
「どうだろうな」
俺とカナリアはクレインの隣に立つ。
「三対一で手合わせしましょう」
なんだと……?
「本気ですか?」
クレインが聞く。
「ええ、全力で来なさい。私も、全力で戦います」
ざわ、と俺たち3人は確かな殺気を感じた。
なんだ? なんのつもりだ?
意図が読めない。なにか裏はあるはずなのに。
クレインはジッと、先生を見据えている。
「カナリア、俺たちはクレインのサポートに徹するぞ」
「う、うん! わかったよ!」
クレインを中央に、
俺はクレインの右隣、
カナリアはクレインの左隣に立つ。
クレインの武器は木製の長斧、俺とカナリアは木製の剣。先生も木剣だ。
「この石ころが落ちたらスタートです」
そう言って先生は小石を空に投げた。
思考はまだ整理できていないが、とにかく今は目の前の相手に集中しよう。他のことに気を取られて勝てる相手じゃないからな。
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります!
よろしくお願いしますっ!!




