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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三章 王乱

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第24話 ブラフ

「そっかぁ、ガーゴイルがね……」


 夜。

 男子部屋で男子四人で会議を開く。


「王卵の儀式に向けて防衛力を強化した、というわけか」


 オスプレイの言葉にワッグテールは眉をひそめる。


「どうした? ワッグテール」


 俺が聞くと、ワッグテールは「いや」とさらに考え込んだ。


「……さすがに考え過ぎか」

「おい、なにか思いついたなら言えよ」


 強めに言う。ワッグテールはたまに情報共有を怠る時があるからな。


「なんでもない。ともかく、ガーゴイルを何とかしなくては船にたどり着けない」


 話を変えられたか。ここで言うことを渋ったってことは、恐らくワッグテールも俺と同じ考え……。


「新たな問題が増えてしまったな……」

「相手は石の塊だもんなー」


 正直、ガーゴイルの存在はかなりデカい。

 単純に敵が一から二になったからな。それも戦闘力の高い敵だ。先生を倒してそれで終わり、とならなくなったのはデカい。

 これまでは先生一人に対してどう立ち回るかを考えていたからな。レインと連携を練習する際も先生一人想定だった。でも今は違う。先生とガーゴイルを同時に相手取る可能性は大いにある。色んな計算が狂ってしまった。


「岩を割るぐらいのパワーがないと傷一つ付けられないぜ。さすがのクレインも岩は砕けないだろ?」

「この前手刀でこぶし大の石は粉砕できたよ。岩も武器があれば砕けるんじゃないかな?」

「マジかお前……」


 コイツの馬鹿力、拍車がかかってきているな。


「クレインの馬鹿力に頼るのは最後の手段だ。とりあえず明日、魔獣の図鑑を見てガーゴイルの対策を考えてみる」


 ワッグテールは終始渋い顔だ。


 ワッグテールがさっき考えていたことはわかる。

 それは……内通者の存在。俺たちの誰かが先生に計画のことを流したんじゃないか、という話だ。内通者の話を出せば、仲間内で疑心暗鬼に陥る。それを避けるために確証を得るまでは言わないことにしたのだろう。賢明な判断だ。


 これまで俺たちの都合の良いように進み過ぎていた。俺たちに何か落ち度があったわけではないものの、先生はかなり勘のいい人だ。俺たちの異変に勘づき、ブラフの一つでもかけてきてもおかしくない。むしろそれが当然で、ある程度は覚悟していた。


 しかし、それが一切ない。


 なぜだろうか。それはきっと、何らかの手段で計画を全て把握しているからだ。俺たちが手のひらの上で踊っているから放置している。

 ワッグテールの言う通り、考え過ぎかもしれない。

 だが船という最大の要所にのみ、対策があったことが引っかかる。


 ……明日あたり動いてみるか。



 --- 



 翌日の昼休み。 

 俺はワッグテールを森に呼び出した。


「それで、話とはなんだ?」

「一つ提案がある」

「言ってみろ」

「計画実行日を来週にしよう」


 ワッグテールは一瞬だけ驚いたように眉を上げ、すぐさま俺の意図を察したように笑った。


「なるほど。ブラフか」

「そうだ。5人に脱出計画が来週に変更になったと伝えて、様子を見るんだ」

「やっぱりお前も俺と同じく、内通者の可能性を感じていたか」

「まぁな」

「兄弟、思考は似るものだな。もし俺たちの中に内通者が居るのなら、このブラフで先生か内通者のどちらかは少なからず動くだろうな。内通者の是非を判別するには悪くない作戦だ」


 ワッグテールは「しかし」と言葉を紡ぐ。


「ガーゴイルの件はどうする? ガーゴイルへの対策もなしにこんなこと言い出しても信憑性に欠けるぞ」

「クレインに倒してもらう、ってことにしよう。多少無茶な作戦の方が内通者は釣れると思うんだ」

「なぜだ?」

「ホルスクラウンは王族の遺体で造る。ならば、その遺体の状態が良いほどホルスクラウンの完成度も上がると思うんだ」


 あくまでも『仮説』だが、根拠はある。


「クレインとガーゴイルが戦ってクレインが負ければ、クレインはきっと無残に殺される。ボロボロのズタズタさ。それはきっと、先生の望む展開じゃない。強引にでも止めにくるはずだ」

「どうかな? 遺体の状態がホルスクラウンの完成度に影響するっていうのはお前の推測に過ぎないだろ」

「先生は昔からさ、俺たちの怪我に敏感だった。健康管理もバッチリ丁寧にやってきた。これまでは影武者(ドッペル)の使命を果たさせるために、それだけ気を遣っていたのだと思ってたけど……」

「本当はホルスクラウンを無事に造るのが目的だったんじゃないか、ってことか」

影武者(ドッペル)という役割はただの名目。ならば、なぜこんな徹底した健康管理と能力強化を行う? 先生にとって、俺たちは無能である方が助かるはずだ。管理しやすいからな」

「無能では困る……というわけか。お前のオリジナルは確か、影武者教室(ドッペルツィマー)を『影武者(ドッペル)を王冠の素材足りえる所まで育てる畑』と言っていたな。素材になるための条件……それが優れた万全な肉体と、そう考えるわけだな?」

「ああ。だからきっと、アルバやハクが無残に殺されたことは先生の計算外。これも仮説だが、あの二人の遺体の状態が酷かったことで、先生は特に俺達を『万全』にしたいんじゃないかな? 遺体の損傷がひどかった二人の穴を埋められるように」


 ワッグテールは「ふむ」と考え込み、


「いいだろう。どっちみちリスクのない策だ。やってみよう」


 ワッグテールはオスプレイとシグ姉に、俺はクレインとカナリアとパフィンに、計画日は変更になった……と嘘を言いに行った。


 クレインは、


「賛成だ。早く出れるに越したことはないよ。それにしても、ガーゴイルか……勝てるかな」


 クレインは笑う。コイツ、段々と戦闘狂の()が出てきたな。

 一方カナリアは、


「え……いきなりだね。確かにもう準備はできてるけど……」


 と戸惑っていた。カナリアは乗り気じゃなさそうだ。

 パフィンは一言、


「クレインさんが了承したのなら、わたくしも止めることはしませんが……クレインさんには無理をしないよう、言っておいてください」

「了解」


 アイツが聞く耳持つとは思えないけどな。どっちみち嘘だから関係ないけど。



 ◆◆◆



 夜。

 執務室に一人の客がやってきた。


「待っていましたよ。報告をお願いします」


 先生は客から計画実行日が早くなったことを聞く。


「ふー、面倒ですね。十中八九、こっちの出方を見るためのブラフですが……万が一が怖い」


 王卵の起動を二か月早めたらどうですか? と客は聞く。


「できることなら王卵の起動はギリギリまで待ちたい。アルバとハクの遺体の損傷具合から見るに、()()()()可能性がある。ギリギリまで……少しでも生徒たちが大きくなってから始めたい」


 先生は暫く考え込んだ後、結論を出す。


「……妨害工作をお願いできますか?」


 客は渋々頷く。


「助かります。礼はまた、いずれ」


 客は執務室を出た。

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