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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三章 王乱

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第23話 地下の番人

 さて、ここの地形についておさらいしておこう。

 まず学校が島の中心にあり、その学校を囲うように森林地帯があり、そしてそのさらに周囲を山々が囲んでいる。山を越えると一面海だ。


 森林地帯、と一括りにしているが森林地帯にもいくつかのエリアがある。


 まず花畑エリア。よくカナリアが居るところだ。一面花畑でとても綺麗。この島で最も美しい場所だろう。


 その花畑エリアを越え、山のすぐ側に落石エリアがある。芝生の地面に多くの岩が突き刺さったエリアだ。山から剥がれ落ちた岩石が降り注ぎできた場所でとても危険な区域だ。このエリアのすぐ側にある山が酷く脆いため、こんなエリアができてしまった。


 このエリアの岩の一つを退かした先に、隠し通路がある。

 俺、クレイン、カナリア、ワッグテールは森林を進み、落石エリアに向かう。


「パフィンのおかげで、陽氣について詳しくわかったぞ」


 陽氣……気にはなっていたが、


「パフィンになんか頼んでたのか?」

「ああ。陽氣について出来るだけ調べて欲しいとな」

「お前なぁ、パフィンにまで無理させんじゃねぇよ」

「情報は命だ。そして、この島では情報が限られる。俺達が生き残るためには外からの情報が必須だ。それを得るためには任務で外に出る者に――」

「わかったわかった! もういいよ!」


 合理性の鬼め!


「陽氣については戦闘力にも直結することだからお前らにも共有しておく」


 頼むぜワッグテール先生。


「陽氣とは太陽のエネルギーだ。太陽の光を浴びている間、生物に貯蓄されるエネルギーであり、これを体内で活性化させると身体能力が向上する」

「へぇ~、外の人はそんなことができるんだね。凄いなぁ」


 カナリアが言うと、ワッグテールは「いや」と一言挟み、


「誰でもができることじゃないらしい。己の体内にある陽氣を一切感知せず、一生を終える者がほとんどだそうだ。この陽氣を消費することで専用の機械を動かすこともできるらしい。島にある船がそれだな」


 さらに驚くなかれ。とワッグテールは前置きし、


「陽氣を消費することで自分の影も自在に操れるらしいぞ」


 なんかコイツ、軽く興奮しているな。

 陽氣っていう未知のエネルギーに興味津々ってか? ワッグテールの好奇心の高さは影武者(ドッペル)の中で一番だからなぁ……。


「影を?」


 クレインが信じられないという顔で聞き返す。

 影の操作……オリジナルのハクがやっていたアレだな。影を盾にしたり、炎に変えたりしてたやつ。


「陽氣を消費し、己の影を大きくしたり、実体化させたりできるそうだ。更に上級者になると影を炎や水といった物質に変換することもできる。これらの影を操る術を『影法術』、と呼ぶそうだ」

「まさか、そんなことできるわけ……」


 クレインが疑うが、


「いや、俺は実際に影を操る奴を見た。そいつは確かに、影を炎に変えていた」


 なぜその情報を伏せていた? というワッグテールの視線が飛んでくる。

 ……すんません、この件について話すのすっかり忘れてました。


「ほ、ホントに? 人間にそんなことができるの?」

「も、もしかして先生もできるのかな……?」

「できる可能性は高いな。なぜならあの人は船を動かせている。少なくとも陽氣の扱いには長けているということだ」


 ワッグテールは更に詳しく『陽氣』と『影法術』について教えてくれた。

 まとめると、


①陽氣を消費することで身体能力や物質を強化できる。

②陽氣を消費することで特定の機械を動かすことができる。

③陽氣を消費することで影を濃くしたり、大きくしたり伸ばしたり、変形させることができる。

④陽氣を消費することで影を実体化させることができる。

⑤陽氣を消費することで影を別物質に変換できる。ただし、変換できる物質は生まれつきの『属性』で決まり、属性が炎なら影は炎にしか変換できない。


 ①と②を『陽法(ようほう)術』と言い、③~⑤を『影法術』と呼ぶらしい。


「そして、これらすべての技を超越する奥義――その名も、『幻影封氣』というものがある」

「奥義! なんかカッコいいね!」


 カナリアは目を輝かせる。


「ただこれについてはパフィンも詳しくは調べられなかったそうだ。何やらこれらの術を超越する超常的な力らしいが、習得方法が定まっておらず、その能力についても文献によって記述が違うらしい」


 幻影封氣――あの侵入者が変身した時に使っていた技か。

 多分、ハクオリジナルもこれを使おうとしていた。確かに、別格の圧力があったな。


「つーかよ、パフィンはどこでそんなに調べられたんだ? オリジナルにでも聞いたのか?」

「オリジナルの部屋に『影法術』の教本があったから、空いた時間に本を読んで調べたんだと」


 岩石地帯にたどり着く。


「続きは後だ」


 ワッグテールは岩石地帯のある岩に目をつける。


「……これか」


 ワッグテールが触っているのは隠し通路に繋がる岩、大きさにして4メートル。

 さて、成人男性何人積めばこの岩を動かせるだろうか。そんなことを考えているとクレインが「よっこらせ」と一人で岩を退かした。バケモンかコイツ。

 この馬鹿力が身体強化のできる陽法術とやらを覚えたらどうなるんやら。


「うわ、本当にあった!」


 カナリアがリアクションする。

 岩を退かした先には石階段があった。前に見た通りだ。


「クレイン、後は手筈通りに」

「うん、任せて」


 ワッグテールは火打石で手に持った木の棒に火を付け、松明を作った。 

 ワッグテールが先陣切って階段を下る。俺とカナリアもそれに続く。

 全員が階段を下り終えたところで、岩が穴を塞ぎ――太陽の光が閉ざされた。



 --- 



 湿気の強い地下空洞。

 ぴちゃ、ぴちゃ、と足音が鳴るほど湿った地面を歩いていく。


「どうだカナリア、なにか変な音は聞こえるか?」

「ううん。何も聞こえない」


 この視界が不明瞭な場所ではカナリアの耳は非常に役立つ。音の反響から洞窟のマップを頭に作り出し、俺たちに教えてくれる。おかげで安全で最短の道を行けている。

 樽の中からだとこの辺はほとんど見えなかったからな。


「入り組んだ洞窟だね。道が無数に分岐してる」

「本当にすげぇなお前の耳。おかげでこの暗闇でも道を間違えることなく進めてる」

「連れてきて正解だったな」

「えっへっへ、ワッグテールに褒められると照れるね」

「……そうですかそうですか、俺のお褒めの言葉じゃ照れませんか」


 洞窟を暫く進むと、前方に光が見えた。


――ようやくだな。


 光に向かって進むと、広い空間に出た。


 湖、湖に浮かぶ船。湖の先は洞窟の出口――海に繋がっている。


 ここが、脱出ポイント。

 しかし……前に見た時とは違う物が一つだけある。

 湖へ繋がる道を塞ぐように石像が建っているのだ。

 人を背に乗せられるぐらい巨大な鳥の像。あんなもんなかったはずだけど。


「よし、時間がない。早く船に乗るぞ」


 ワッグテールが駆け足で湖へ向かう。

 ワッグテールが石像の側数メートルに近づいた時だった。


――石像の目が赤く光った。


「!?」


 石像はそのクチバシをワッグテールに向ける。



「避けろワッグテール!」



 俺の声を聞き、ワッグテールも石像に気付いた。

 ワッグテールは大きく飛びのく。石像は羽ばたき、さっきまでワッグテールが立っていた場所に突撃した。


「な、なんだよコイツ……!?」

「文献で見たことがある。石像のフリをし、宝や扉の番人の役目を果たす魔獣が居ると。名前は確か、ガーゴイル」


 後ずさりながらワッグテールは言う。

 ワッグテールが離れるとガーゴイルは台座に戻り、また石像のフリを始めた。


「心臓の音も、呼吸の音も聞こえない。命の音を、あの石像からは感じない……」

「前は居なかったぞアイツ。先生が新しく置いたのか?」

「そうみたいだな。船を守る番人というわけだ。近づけば攻撃してくるが、遠ざかればただの石像として存在する。あの突進の破壊力を見るに、俺たちじゃどうしようもない相手だ」


 ただの石像ならば、カナリアの耳でも察知はできない。カナリア対策もバッチリなわけだ。

 ワッグテールは舌打ちし、


「――退却だ」


 と忌々し気に号令を出した。


「くそ……船も、()()()も、もう目と鼻の先なのに……」


 俺が言うと、カナリアがこっちを見上げてきた。


「お、覚えてたんだね……私が海の水飲みたいって言ってたの……」

「俺じゃねぇよ。クレインが覚えてたんだ」

「照れちゃって。そんなわかりやすい嘘バレバレだよ」


 いや、マジでクレインが覚えてたんだけどな。


「ありがとね。ソル」


 カナリアが……えへへ、と笑みを向けてくる。


「結局海水飲めなかったんだから感謝される筋合いはねぇよ」


 なんか最近、コイツの笑顔を見ると照れてしまう。なんでだろう?


「おい、早くしろ」

「はいはい」


 俺たちは何もできず、地下空洞から脱出した。

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