第20話 最強のふたり
食堂。
俺とカナリアが入ると、すでに全員が揃っていた。
「無事だったか愛しの弟よ~!! ぶへっ!?」
「うるせぇ」
抱き着いてこようとする銀髪の眼帯男――オスプレイをシグ姉が肘鉄で撃退する。
「おかえりカルラ。無事でよかったよ」
「なんとか生き残れたよ」
シグ姉に挨拶を返すと、テーブルにコップを並べながらワッグテールが、
「本来、影武者の任務で死ぬことは滅多にない。みんな大げさなのさ」
「こんなこと言うけど、ワッグテールもすっごく心配してたんだよ」
「……クレイン、適当なことを言うな」
「カルラが居ない間ずっとソワソワしていたじゃないか」
「そんなことはない」
頑ななワッグテールに対しクレインはため息をつく。
「おかえり、カルラ」
クレインが右手を挙げて言う。
「ただいま」
クレインの右手にハイタッチする。
「お帰りなさいませ。お兄ちゃん」
パフィンが笑顔で言ってくる。
「その呼び方、もしかしてこれからずっとか?」
「ダメですか?」
「いいんだけど……なんかこう、胸がむず痒いというか……」
「いけませんよ。王子と違う呼び方をしてはね」
先生が話に割り込んでくる。
「パフィン様はカルラ様を『カルラさん』と呼びます。あなたもそれに倣うように」
「わ、わかりました……」
先生は厳しい声色で言った後、声の調子を上げる。
「ほらほら皆さん、配膳を手伝ってください」
はぁ、また栄養だけある無味な飯を食わされるのか。
あんな美味い料理を食べた後だと吐いてしまいそうだ。
緑のパンにブロック状に切られた野菜が多く浮かぶスープ、カロリーバー二本、栄養ドリンク。懐かしいメニューが並ぶ。
夕食を食べて、風呂に入って、二階の男部屋でベッドの準備をする。
男部屋にはベッドが6つある……だが、今使われているベッドは4つのみだ。
オスプレイは髪をタオルで拭いていて、ワッグテールは教本に目を通し、クレインはストレッチしている。
俺は部屋の扉を開け、廊下を覗く。廊下に誰もいないことを確認し、扉を閉める。
「なにしてるの? カルラ」
クレインが聞いてくる。
「先生がいないかどうか確認していた」
俺が言うと、オスプレイとワッグテールが俺の方を向いた。
俺のただならぬ雰囲気を察したようだ。
「全員、聞いて欲しい話がある」
「愛しの弟の話ならなんだって聞くさ!」
ワッグテールは本を閉じ、俺に視線を向ける。『例の件か?』と目で聞いてきている。俺は頷き、話し出す。
「話をする前にお願いがあるんだが……これから話すことは結構衝撃的だと思う。どれだけ驚いても大きなリアクションはしないでくれ」
そう注意し、俺は話した。
王都で経験したこと、カルラオリジナルから聞いた話。
王位争奪戦、王卵、影武者の真の役割……その全てを。
ただ俺自身も良くわからないこと、ハクや誕生会に突っ込んできた少女が使っていた『不可解な術』については伏せた。これ以上の情報は混乱すると思うし、知った所で意味のない要素だと判断したからだ。ただ船が『陽氣』という万人に宿るエネルギーで動いていることは話した。
オスプレイは話を聞き、怒りの表情をしたが深呼吸して自身を落ち着かせた。
ワッグテールは目を見開いて驚いたものの、すぐに考え込む素振りを見せた。
クレインは「そんな……!」と怒りと悲しみが混じった表情をしていた。
三人の反応から察するに、クレインだけが影武者全員無事に解放されるものだと信じ込んでいたようだ。他の二人は影武者たちに未来はないと薄々感じ取っていた……そんな反応だった。
「……君のオリジナルが言っていたことは、本当に事実なのかい?」
「どうだろうな。そればかりは確かめようがない」
「私は信じるぞ。そもそも私は先生を信じたことは一度もない。顔も明かさず、こんな島に子供を閉じ込めているあの男を信じる道理はない。逆に第5王子の話は筋が通っているし、納得できる点も多い」
「俺も同感だな。第5王子がお前に嘘をつく意味が思い当たらない」
「……僕は」
クレインだけは信じたくない、って感じだ。
でもクレインは頭も良い方だ。それに俺と一緒に王卵も見ている。
……わかっているはずだ。
「そう気を落とすなクレイン。この段階で我々の運命を知れたことは幸運だ」
オスプレイが笑顔で言い、クレインの肩を叩いた。
「まだ4年の猶予がある。4年もあればやれることは多い」
こういう時、このアホ長男は頼りになる。
「そうだな。この馬鹿の言う通りだ。カルラ、よくこの情報を仕入れてくれた」
「別に俺が調べたわけじゃない。オリジナルが勝手に話しただけだ」
「この話、全員で共有するべきだろう。カルラとクレインはカナリアとパフィンに伝えてくれ。俺とオスプレイからシグネットに伝えよう」
ワッグテールが話をまとめる。
「今日のところは全員、心の整理をつけたいだろうから話はここまでにしよう。特にクレイン、お前は少し落ち着け」
「う、うん。わかってるよ……」
俯いているクレインに声を掛ける。
「クレイン……大丈夫か?」
「……ねぇ、カルラ」
クレインは俯いたまま、
「僕らって何のために生まれてきたんだろうね……」
「……」
「生まれてからずっと、誰かの身代わりとして育てられて、必要がなくなったら賞品の素材となって命を終える。僕らはどこまでも……名前もない、ただの道具として扱われるんだ。それが、僕らの運命」
「だから俺たちは――」
「わかってる。その運命に抵抗するために、これから動くんでしょ。それはわかってるんだ。でも! ……自分の生まれに愛情がないことはわかっていた。けれど最低限、人として生まれたのだと信じたかった。だけど違った。僕らは人間としてじゃなく、王冠の素材として生まれたんだ。鉄や布と同じさ。どうでもいい部分だと思うかもしれない……けど僕にとってはとても、大切な部分だったんだ……!」
どうでもいい部分じゃないさ。
そこでしっかりと落ち込めるお前は、確かに人間だよ。
「僕らの、生まれた意味なんて……」
「クズだな。だからどうした?」
生まれた意味が気に入らないなら、
「生まれ変わればいい」
クレインの隣に座って、俺は言う。
「ここから出て、ソルとレインとして生まれ変わろうぜ。今度は人としてな……」
「……ああ」
「ぶっ潰してやろうぜ。くだらない運命全部」
「――コテンパンにね……!」
クレインはもう大丈夫だ。悔しさを怒りに変えて、立ち直った。
俺たちの先に待ち受けるのは多くの壁、絶望的な運命だ。
でも心配はいらない。
俺とお前が手を組めば何だってできるさ。
恥ずかしくて、こんなこと口では言えないけどな。
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