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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 王都凱旋

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第20話 最強のふたり

 食堂。

 俺とカナリアが入ると、すでに全員が揃っていた。


「無事だったか愛しの弟よ~!! ぶへっ!?」

「うるせぇ」


 抱き着いてこようとする銀髪の眼帯男――オスプレイをシグ姉が肘鉄で撃退する。


「おかえりカルラ。無事でよかったよ」

「なんとか生き残れたよ」


 シグ姉に挨拶を返すと、テーブルにコップを並べながらワッグテールが、


「本来、影武者(ドッペル)の任務で死ぬことは滅多にない。みんな大げさなのさ」

「こんなこと言うけど、ワッグテールもすっごく心配してたんだよ」

「……クレイン、適当なことを言うな」

「カルラが居ない間ずっとソワソワしていたじゃないか」

「そんなことはない」


 頑ななワッグテールに対しクレインはため息をつく。


「おかえり、カルラ」


 クレインが右手を挙げて言う。


「ただいま」


 クレインの右手にハイタッチする。


「お帰りなさいませ。お兄ちゃん」


 パフィンが笑顔で言ってくる。


「その呼び方、もしかしてこれからずっとか?」

「ダメですか?」

「いいんだけど……なんかこう、胸がむず痒いというか……」


「いけませんよ。王子と違う呼び方をしてはね」


 先生が話に割り込んでくる。


「パフィン様はカルラ様を『カルラさん』と呼びます。あなたもそれに(なら)うように」

「わ、わかりました……」


 先生は厳しい声色で言った後、声の調子を上げる。

 

「ほらほら皆さん、配膳を手伝ってください」


 はぁ、また栄養だけある無味な飯を食わされるのか。

 あんな美味い料理を食べた後だと吐いてしまいそうだ。

 緑のパンにブロック状に切られた野菜が多く浮かぶスープ、カロリーバー二本、栄養ドリンク。懐かしいメニューが並ぶ。


 夕食を食べて、風呂に入って、二階の男部屋でベッドの準備をする。


 男部屋にはベッドが6つある……だが、今使われているベッドは4つのみだ。

 オスプレイは髪をタオルで拭いていて、ワッグテールは教本に目を通し、クレインはストレッチしている。


 俺は部屋の扉を開け、廊下を覗く。廊下に誰もいないことを確認し、扉を閉める。


「なにしてるの? カルラ」


 クレインが聞いてくる。


「先生がいないかどうか確認していた」


 俺が言うと、オスプレイとワッグテールが俺の方を向いた。

 俺のただならぬ雰囲気を察したようだ。


「全員、聞いて欲しい話がある」

「愛しの弟の話ならなんだって聞くさ!」


 ワッグテールは本を閉じ、俺に視線を向ける。『例の件か?』と目で聞いてきている。俺は頷き、話し出す。


「話をする前にお願いがあるんだが……これから話すことは結構衝撃的だと思う。どれだけ驚いても大きなリアクションはしないでくれ」


 そう注意し、俺は話した。

 王都で経験したこと、カルラオリジナルから聞いた話。

 王位争奪戦、王卵、影武者(ドッペル)の真の役割……その全てを。


 ただ俺自身も良くわからないこと、ハクや誕生会に突っ込んできた少女が使っていた『不可解な術』については伏せた。これ以上の情報は混乱すると思うし、知った所で意味のない要素だと判断したからだ。ただ船が『陽氣』という万人に宿るエネルギーで動いていることは話した。


 オスプレイは話を聞き、怒りの表情をしたが深呼吸して自身を落ち着かせた。

 ワッグテールは目を見開いて驚いたものの、すぐに考え込む素振りを見せた。

 クレインは「そんな……!」と怒りと悲しみが混じった表情をしていた。


 三人の反応から察するに、クレインだけが影武者(ドッペル)全員無事に解放されるものだと信じ込んでいたようだ。他の二人は影武者(ドッペル)たちに未来はないと薄々感じ取っていた……そんな反応だった。


「……君のオリジナルが言っていたことは、本当に事実なのかい?」

「どうだろうな。そればかりは確かめようがない」

「私は信じるぞ。そもそも私は先生を信じたことは一度もない。顔も明かさず、こんな島に子供を閉じ込めているあの男を信じる道理はない。逆に第5王子の話は筋が通っているし、納得できる点も多い」

「俺も同感だな。第5王子がお前に嘘をつく意味が思い当たらない」

「……僕は」


 クレインだけは信じたくない、って感じだ。

 でもクレインは頭も良い方だ。それに俺と一緒に王卵も見ている。


 ……わかっているはずだ。


「そう気を落とすなクレイン。この段階で我々の運命を知れたことは幸運だ」


 オスプレイが笑顔で言い、クレインの肩を叩いた。


「まだ4年の猶予がある。4年もあればやれることは多い」


 こういう時、このアホ長男は頼りになる。


「そうだな。この馬鹿の言う通りだ。カルラ、よくこの情報を仕入れてくれた」

「別に俺が調べたわけじゃない。オリジナルが勝手に話しただけだ」

「この話、全員で共有するべきだろう。カルラとクレインはカナリアとパフィンに伝えてくれ。俺とオスプレイからシグネットに伝えよう」


 ワッグテールが話をまとめる。


「今日のところは全員、心の整理をつけたいだろうから話はここまでにしよう。特にクレイン、お前は少し落ち着け」

「う、うん。わかってるよ……」


 俯いているクレインに声を掛ける。


「クレイン……大丈夫か?」

「……ねぇ、カルラ」


 クレインは俯いたまま、


「僕らって何のために生まれてきたんだろうね……」

「……」

「生まれてからずっと、誰かの身代わりとして育てられて、必要がなくなったら賞品(トロフィー)の素材となって命を終える。僕らはどこまでも……名前もない、ただの道具として扱われるんだ。それが、僕らの運命」

「だから俺たちは――」

「わかってる。その運命に抵抗するために、これから動くんでしょ。それはわかってるんだ。でも! ……自分の生まれに愛情がないことはわかっていた。けれど最低限、人として生まれたのだと信じたかった。だけど違った。僕らは人間としてじゃなく、王冠の素材として生まれたんだ。鉄や布と同じさ。どうでもいい部分だと思うかもしれない……けど僕にとってはとても、大切な部分だったんだ……!」


 どうでもいい部分じゃないさ。

 そこでしっかりと落ち込めるお前は、確かに人間だよ。


「僕らの、生まれた意味なんて……」

「クズだな。だからどうした?」


 生まれた意味が気に入らないなら、


「生まれ変わればいい」


 クレインの隣に座って、俺は言う。


「ここから出て、ソルとレインとして生まれ変わろうぜ。今度は人としてな……」

「……ああ」

「ぶっ潰してやろうぜ。くだらない運命全部」

「――コテンパンにね……!」


 クレインはもう大丈夫だ。悔しさを怒りに変えて、立ち直った。

 俺たちの先に待ち受けるのは多くの壁、絶望的な運命だ。

 でも心配はいらない。

 俺とお前が手を組めば何だってできるさ。

 恥ずかしくて、こんなこと口では言えないけどな。

【読者の皆様へ】

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