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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 王都凱旋

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第19話 ハッピーバースデー

 来た時と同じく、アルハートとリンと共に馬車へ乗り込み、出発する。

 港に着いたら船に乗り、大海原へと漕ぎ出す。

 王都が遠くなっていくにつれ、胸の疲れが取れていくような気がした。


「王都はどうだった? ……って、観光もできてないのにどうだったって聞かれても困るか~」

「とにかく疲れたよ。ただ……来てよかったとは思う」


 ホント、怒涛の三日間だったな。


「我が主とも話をしたのでしょう? どんな会話をしたのか、興味がありますね」

「当たり障りない会話さ。まぁあれだ、お前らのご主人様は……かなり変人だな」


 俺が言うと、リンとアルハートは顔を合わせて笑い、


「「違いない」」


 と声を重ねた。

 二人のその笑みからカルラ=サムパーティへの強い忠誠を感じた。


――さて、


「……」


 俺は二人の目を盗み、その場に座り込んだ。


「どうしたの?」

「ちょっと靴紐がな」


 靴紐を結び直すフリをして、船に打ち付けられていた外れかけの釘を一本拝借し、口に入れ、立ち上がる。


「あ、お迎えが来たよ」


 リンの指さす方を見る。 

 船に乗って、見慣れた先生(仮面男)がやってくる。


「梯子を下ろしましょうか?」

「いや、いいよ。――じゃあな二人共。もしかしたら会うのはこれで最後かもな」

「どうですかね」

「僕はまた君に会う気がするよ。――またね」

「ご苦労様でした」


 最後に小さく手を振って、俺は大型船から小船へと飛び降りた。


「おかえりなさい、カルラ」

「ただいま、先生」


 俺が船に無事着地したのを確認して、大型船は離れていった。


「右手、怪我をしたのですか?」

「ちょっと無茶してな」

「帰ったらまずは治療ですね」


 優しい言葉に惑わされてはいけない。

 カルラオリジナルが言うことが本当なら、この人は……敵だ。


「早速で悪いですが、手荷物検査をさせて頂きます」


 先生は俺の体をパンパンと叩き、何か隠し持ってないかを念入りに調べた。

 髪の中からパンツの中まで、全部だ。


「うん、大丈夫ですね」


 外の世界の物を持ち込んではいけない。そのルールを守るためだろう。

 残念先生、詰めが甘いよ。調べるなら口の中――舌の裏まで調べないとな。


「最後に口を開いてください」

「っ!?」


 俺はゴクリと喉を動かし、大きく口を開ける。


「……舌を上げてください」


 舌を上げる。


「なにもないですね。閉じていいですよ」


 口を閉じた後、俺は喉を動かし、釘を口の中に戻した。

 俺の隠された特技、俺は飲み込んだ物体を喉の底の方に留めて好きなタイミングで戻すことができる。ただ留めている間は呼吸が止まるため、留めておける時間には限りがある。


 影武者教室(ドッペルツィマー)は暇な時は暇だから、こういう無駄な特技が増える。


 ばっちぃからやりたくなかったけど、やむを得なかった。帰ったらまずうがいをしたい。



 --- 



「ぷはぁ! やっと外に出れる!」


 海を暫く進んだところでまた樽に詰め込まれ、運ばれ、そして見慣れた森で開封された。


「……あー、この樽だけは慣れねぇな」

「すみません。これもルールなので」


 俺と先生は帰り道にある花畑を歩く。


「アイツ、なにやってんだ?」


 花畑に、花を摘む人影が一つ。


「あ! やっぱり、先生とカルラだ!」

「カナリア……」


 先生は俺の頭をひと撫でし、


「先に行ってますよ。二人共、あまり遅くならない内に帰って来てくださいね」


 先生は学校の方へ歩いて行った。


「おかえりなさい!」

「ん? あ、ああ……ただいま」


 純粋な笑顔。

 やっぱりオリジナルと全然違うな。


「ねぇ、ちょっとだけ目、瞑ってくれる?」

「はぁ? なんでだよ、めんどくせぇ。俺は疲れてるんだ。早く帰らせてくれ」

「いいから早く早く!」


 仕方なく目を瞑る。


「屈んで!」

「……」


 渋々、屈む。

 すると頭にストン、と何かを乗せられた。


「開けていいよ」


 目を開き、頭に乗った物を見える位置まで持ってくる。

 これは……花冠?



「お誕生日おめでとう! ソル!」



 パチパチパチ、とカナリアの拍手の音が響く。


「あ――りが、とう……」


 誕生日は王都で散々祝われた。

 でも、だけど、あそこで祝われたのはカルラ=サムパーティだ。

 ソルの誕生日を祝われたのは、今が初だ。


 やばい……泣きそう。ダメだ、耐えろ。さすがにダサいって……!


 その時、

 ポタ、と雫が落ちた。


「え?」


 俺じゃない。

 涙を流したのは……カナリアだった。


「無事でっ……! 無事でよがっだ……!! よがっだねぇ……!」


 鼻水垂らして、不細工な泣き顔でカナリアは言う。


「なんで……おま、お前が……泣くんだ、よ」


 釣られて、俺も泣いてしまった。


「……だっで! アントスもクロウリーも戻ってこなかったから……ソルも戻ってこなかったらどうしようって……!!」


 ああ、やっぱり、コイツは……駄目だ。

 コイツと居ると、俺は()()になってしまう。


「また、会えて……ほんどうによがった!!」


 コイツのせいで、俺は俺を認識してしまう。

 俺はカナリアを、抱きしめた。


「君がいないと……わたし、嫌だもん……! 世界を嫌いになっちゃうもん……!! うぅ……うわああああああああんっっ!!!!」


 泣きじゃくる彼女が泣き止むまで、ずっと。

 自分なんてどうでも良かったのに。自分なんて無かったのに。コイツのせいで自分を大切に思ってしまっている。

 昔の俺なら王卵に抗うことなく、運命を受け入れて安らかに死んでいた。なのにコイツのせいで、絶対に抗おうと、運命に抗おうとしまっている。


 たった4年じゃ駄目なんだ。


 これから先、10年、20年、もっともっと多くの時間をお前らと過ごしたい。




 俺は――



 ◆◆◆



 ソルとカナリアが抱き合っている様を、レインとパフィンは木陰から覗き見ていた。

 パフィンは心配そうな顔でレインを見上げる。


「……行こう、パフィン」

「良いのですか? クレインさんも……カルラさんに会いに来たのでしょう?」

「良いんだよ。邪魔はできない」


 レインは学校の方に足を向けるが、ふと立ち止まり、パフィンの方を振り返る。


「……(かな)わないよね……」


 寂しげに笑ってそう告げるレインに、パフィンも同様の笑みを浮かべた。

【読者の皆様へ】

この小説を読んで、わずかでも

「面白い!」

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「もっと頑張ってほしい!」

と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります! 

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