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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 王都凱旋

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第17話 真実

 王位争奪戦に参加しろだと?

 影武者(ドッペル)の俺が?


「争奪戦はホルスクラウンを被った者が勝者となる。ホルスクラウンを被れるのは王族の血を持つ者のみ……余のクローンであるお主にもきっと資格がある」

「いや、待て待て! そもそも何で俺を争奪戦に参加させたい? ライバルを増やすことに何の意味がある? 王になりたくないのか」

「余は王になる。必ずな。だがこの国の王に留まる気はない。余が目指すのは世界の王だ」


 つまり、世界征服しようってのか。夢が大きいね。俺のオリジナルとは思えん。


「しかし、そのためには絶対に足りないモノがある」

「金か? 部下の数か?」

「ライバルだ」


 カルラオリジナルはにやりと笑う。


「余はまだ世界の王足る器ではない。世界を取るためには進化が必要だ。そして! 進化には壁が必要だ! 乗り越えるべき、強大な壁がな……!」

「他の王子たちが居るだろ。さっきのハクにしたって、相当やべぇやつに見えたぞ」

「他の兄弟たちは強敵ではあるが、ライバルとは違う。(たぎ)るモノがない」


 カルラオリジナルは拳を強く握る。


「唯一クレイン兄様にだけはそれを感じたが……あの人は争奪戦に参加するか読めない」


 そうなのか。

 そういやクレインオリジナルはかなりヤンチャだって話だったな。とは言え、王子の癖に争奪戦に参加しない程型破りとは思わなかった。


「そこで余が目をつけたのは自身の影武者(ドッペル)の存在、つまりお主というわけだ。自分の最大のライバルは自分自身と誰かが言った。ならば己の影武者(ドッペル)は最大のライバルになりえるのではないか? そう考えたわけだ」

「安直だな……」

「そこで余はお主をここへ呼び、部下を使って器を測ることにした。ちょうど殺害予告も届いていたことだしな、影武者(ドッペル)を呼ぶには今が最適のタイミングだった」

「テストの結果、俺は合格だったってことか」

「アルハートはお主を不合格、我がライバルに値しないと判定した。リンは合格と判定した。余が二つの判定の間で揺らいでいる時にお主とハクの戦いを見た。そこで確信した……お主こそ我が最大のライバルになると」

「高く見過ぎだな。生憎だが、俺は王位争奪戦なんかに参加する気はない。この国の玉座になんか興味ないし、その素養があるとも思えない」

「どうかな? お主には余と同じ血が流れている。いずれ否応でもわかるさ、自分には王の器があるとな」


 まるで俺より俺を知り尽くしているような物言いだ。

 ここまでの話はあくまで前座、俺にとって重要な話はここからだった。


「さて、ここまで争奪戦について話してきたが、残念ながらお主はこのままいくと争奪戦が始まる前に命を落とすことになる」

「なに? どういうことだ?」

「お主……というか、影武者(ドッペル)たちは争奪戦の前に抹殺される手筈だ」

「……」

「驚かないところを見るとその可能性を察知してはいたか」

「俺たちは争奪戦の前に解放されるって言われていた。けど、そんなうまい話があるとは思えなかった」


 いや、心のどこかでそんなうまい話はあると思っていたんだ。

 目を逸らしていた。

 不幸な未来から目を逸らして、幸せな未来だけを見ていた。

 改めて現実を叩きつけられるとキツいな……。


「俺たちを殺す目的は――口封じだろ?」

「違う」


 違う?

 なら他にどんな目的が……。


「お主らは自分たちの役割がなんだかわかるか?」

「何度も言ってるじゃねぇか。お前たちの身代わり……影武者(ドッペル)だろ」

「本当にそう思うのか?」

「どういう意味だ。回りくどい聞き方はやめろ」

「考えてもみろ。これまで影武者(ドッペル)を使ったのはオスプレイ兄様が一回、ワッグテール兄様が二回、シグネット姉様が一回、余が一回、アルバトロスが一回、ハクが一回のみ。恐らく争奪戦開始までにあと数回ぐらいしか影武者(ドッペル)は使われない。その程度の回数しか使わないのにわざわざ島を一つ貸し与え、細かくお主らを管理すると思うか?」


 確かに……影武者(ドッペル)の出番の数と、その管理に費やすコストや王族の血族を増やすリスクの量は釣り合ってない。

 クレイン、カナリア、パフィンの3人に至っては(いま)だに影武者(ドッペル)の仕事が来てないわけだしな。


「俺たちに他の役割があるってことか?」

「その通り。そして、あの絵本を読んだお主ならその答えにたどり着ける」

「――さっぱりわからん」

「はぁ~。それでも知勇兼備(ちゆうけんび)たる余の影武者(ドッペル)か! 思い出せ、ホルスクラウンの素材がなんだったか……」

「……っ!? まさか」


 王位争奪戦、その中核を成す要素の一つは王冠ホルスクラウン。

 そして、絵本の記述通りだと、ホルスクラウンの素材は8人の王子。


「ホルスクラウンの素材に、俺たち影武者(ドッペル)を使う気か!?」

「ホルスクラウン、もといその欠片(ピース)となる8つの王冠には王族の遺体が8つ必要だ。だが第二回目以降の争奪戦の形式上、争奪戦の前にホルスクラウンを造らなくてはならなくなった。ゆえに、造ったのだ。王族の分身を……影武者(ドッペル)という偽りの役割を与えて」

「待てよ! ホルスクラウンは第一回目に造られた物を使いまわしているんじゃないのか!?」

「いいや、ホルスクラウンには消費期限みたいなものがあってな、何十年と間があっては再利用はできん。素材を再利用することも不可能だ」

「なら、これまでの争奪戦で死んだ王子の遺体を使えばいいじゃねぇか! 前回の争奪戦で死んだ連中の遺体を使えば!」

「争奪戦で散った王族の遺体が万全な状態で残っていると思うか? その体、その血を利用させまいと王子を殺した王子はすぐさま相手の王子を焼却するだろう。事実、全争奪戦で死んだ王子の遺体は残っておらん」


 パチ。とカルラオリジナルは駒を置いた。


「8人の影武者(ドッペル)の命をもって、ホルスクラウンは顕現する。これは決定事項だ」


 そんな……それじゃ、


「結論、現在ホルスクラウンは存在せず、その素材となる王族の遺体もない。あくまで、王都(ここ)にはな」


 俺は現実逃避するように、駒を動かす。


「争奪戦の前に、お主たち9人……いや、今は7人か。7人の内6人は殺され、ホルスクラウンの贄となる。お主らを喰わせるタイミングは間違いなく争奪戦の直前だろう。たとえば明日、ホルスクラウンが造られればその時点で争奪戦が何の予兆もなく始まってしまう。そうなればあらゆる王子勢力から不満が出るからな」


 猶予は争奪戦が始まるまで。

 後――4年。



「王族コピー8人の遺体を喰らい、ホルスクラウンのピースである8つの王冠、争奪戦の宝となるピースクラウンを作る装置を――」


 パズルが埋まっていく。

 絶望という、パズルが。



「王冠を造る卵、“王卵”と呼ぶ」



 先生が湖に隠していた真っ黒な卵、あれが王卵。

 俺達はハクがアレに喰われる様を、ワッグテールはアルバがアレに喰われる様を見た。


 辻褄が合う。合ってしまう。


「これが、余が父上より聞いた争奪戦の全貌。父上は嘘を言っているようには見えなかった。しかし……なにか隠していることはある気はしたが」


 コイツが嘘をついている感じはしない。

 相手が自分と同じ遺伝子の人間だからか、それはわかる。


「余の理想的なシナリオはお主以外の8人の影武者(ドッペル)が王卵に飲まれ、ホルスクラウンのピースとなり世界に散らばる。その上でお主だけは島を脱出し、王位争奪戦に参加すること」


 駄目だ。 

 駄目だ駄目だ……!

 カナリアも、クレインも、他の影武者(ドッペル)たちも、見捨てることはできない。


「お前の思い通りにはならないっ! 俺は、みんなと……島を脱出する!」

「くく……! それはそれで面白い。やってみろ。しかし動くならなるべく早くから動くことをお勧めする」


 カルラオリジナルが、詰みの一手を繰り出す。


「この盤面のように手遅れになる前に……チェックメイトになる前に」


 すでに、黒が逆転する路はなくなっていた。


「……影武者(ドッペル)9人の内、8人をホルスクラウンにするならば、残りの1人はどうなる?」

「言わずともわかっているのだろう? お主の考えている通りだよ」


 ……そういうことか、全部。


「俺達はただの素材――」

「ああ。そして、影武者教室(ドッペルツィマー)とはお主らを素材足りえる所まで育てる――謂わば畑だ」


 ふざけやがって……。


影武者(ドッペル)という役割は所詮、お主らの心身を鍛えるための詭弁だな」

「どうすれば、王卵を壊せる? 王卵を壊す方法を、お前は知っているか?」

「王卵を壊すのは主らの戦力じゃまず不可能だ。だが、王卵を止める方法は知っておるぞ」

「それは」

「教えん」


 カルラオリジナルは口角を上げて言う。


「なんでだよ」

「さっきは面白いと言ったが、ホルスクラウンが製造されないと余は困るのだ。王卵が止まり、ホルスクラウンが製造されなければ、王位争奪戦が中止になる可能性がある。そうなると、王位継承権第一位のオスプレイ兄様が順当に玉座に座ることになるかもしれぬのだ」

「だから王卵の秘密はこれ以上喋れないと?」

「うむ。だが」


 カルラオリジナルはチェス盤を指さす。


「チェスで余に勝てれば、王卵についてもう少し詳しく話しても良い」


 コイツ……自分が負けるとは微塵も思っていないな。

 今の一戦で実力差はハッキリした。俺よりオリジナルの方が、チェスにおいて上だ。その場の閃きで何とかなるレベルの差じゃない。


「……どいつもこいつも」

「む?」

「ほんっっっっとうに、舐め腐ってやがるよな」


 俺は壁に掛けてある時計を指さす。


「早打ちだ」

「なに?」

「一手5秒。それで勝負しろ」


 オリジナルは「くっはっは!」と笑う。


「いいだろう! 言っておくが、余は早打ちも得意だぞ?」


 今の内に笑ってろ。すぐにその鼻明かしてやる。

【読者の皆様へ】

この小説を読んで、わずかでも

「面白い!」

「続きが気になる!」

「もっと頑張ってほしい!」

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