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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 王都凱旋

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第14話 ゲンガー

「ん……」


 晩餐会で気を失い、気が付いたら湖の前に立っていた。

 湖には全長8メートルはある大剣が刺さっていて、大剣の上には一人の少女が座っていた。


「やあ。はじめましてだね、我が王」


 白い装束に身を包み、目元を仮面で隠した少女。

 髪は白く、肌も白い。雲のような印象を受ける少女だ。


「晩餐会で気絶してから記憶がないけど……俺は攫われたのか?」

「違うよ。大前提としてここは現実じゃない。夢の世界さ」


 夢の世界。

 それにしては風も感じるし、太陽の熱さも感じる。


「それで、お前はなんだ?」

「私は影法師(ゲンガー)。君の影だよ。さっきは『はじめまして』って言ったけど、生まれた時からずっと君と一緒に居たよ」


 影法師(ゲンガー)……? 影? 説明が下手過ぎてわけわからん。


「まぁそうだねぇ、守護霊みたいなものだと思ってくれていい」


 守護霊と言えば、人に憑き人を守る霊のこと。

 なるほど、ちょっとは理解できた。


「お前がここに俺を呼んだのか?」

「うん、そうだよ」

「用件はなんだ? 俺はいま現実の自分の状況が気になって仕方ない。早く現実に戻りたいんだけど」

「そうだね、たらたら話をしている時間も無さそうだ。まだ私と君のつながりは薄く、君を長く留めることはできないらしい」


 突如、夢の世界とやらの物質が光となって散り始めた。


「君はまだここへ来るには早すぎたようだ。今度会う時までに資格を得なさい」

「資格……?」

「それは何らかの覚悟だ。詳細は言えない。ただ……君がその覚悟を決めた時、ようやく私は君に手を貸すことができるようになる。名前もその時に教えよう」


 真っ白な光が全身を包み、視界から一切の物体が消えた。



「――また会おう。我が王よ」



 --- 



 今度こそ現実で目を覚ました。天蓋が見える。

 ベッドの側には緑髪の少年――リンが座っていた。


「おはよう。気分はどうだい?」

「……腹いてぇ」

「治癒師に治してもらったけどまだ痛むか。後でもう一回()てもらう?」

「大丈夫。多分、殴られた痛みじゃない」


 成長痛に似た、何かだ。


「そうかい。じゃあ改めて――」


 リンは立ち上がり、深々と頭を下げた。


「申し訳ございませんでした」

「は? 何がだ」

「僕らは君を守ると約束したのに、賊に易々とあしらわれてしまった。国王様が去って気が抜けてしまっていた。完全に僕らのミスだ……本当に申し訳ない」

「いいよ。こうして無事なわけだし」


 晩餐会は終わった。

 これで俺の王都での仕事は終了……だな。


「あれ?」


 窓のカーテンの隙間から、陽光が差し込んできている。


「朝……? ってことは、今は晩餐会のすぐ後じゃないのか」

「晩餐会の次の日の早朝さ。君の迎えは午後に来るから、午前中はここで休むといい」

「わかった」

「僕はまた外で見張りをしているから、用があったら声をかけてね」

「はーい」


 リンは部屋を出ていく。

 そっか、今日の午後にはもう帰るのか。

 未だに現実味がないな。島の外に出てからと言うもの、ずっと夢の中に居る気分だ。


「……暗いな」


 ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。

 眩い光が一挙に部屋に入ってきた。


「ここからは庭が見えるのか」


 カラフルな花々が咲き乱れる花壇、

 名も知らない女神の銅像、

 新鮮な果物が成る菜園。

 そして……水を打ち上げる噴水もある。


「ん? アイツは……」


 噴水を囲む石の壁、その壁に腰を掛けた少年がいた。

 その少年は銀色の髪で、物静かに本を読んでいた。


 その本は見覚えがあった。タイトルは――“勇者クロウリーの冒険記 第一部”。


 そして本を読む少年の姿にも覚えがあった。


「ハク……第9王子(オリジナル)か……!!」


 影武者(ハク)を、クロウリーを焼き殺した男……!


「王族と……接触する機会……だが、アイツは……!」


 気づいたら俺は窓を開けていて、

 気づいたら二階から飛び降りていて、

 気づいたら噴水の元まで歩いていた。


「おい」


 声を掛けると、ハクは本から目を離し、俺に視線を合わせた。

 暗く、冷たく、底の見えない瞳だ。


「聞きたいことがある。ちょっと付き合えよ」

【読者の皆様へ】

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