第14話 ゲンガー
「ん……」
晩餐会で気を失い、気が付いたら湖の前に立っていた。
湖には全長8メートルはある大剣が刺さっていて、大剣の上には一人の少女が座っていた。
「やあ。はじめましてだね、我が王」
白い装束に身を包み、目元を仮面で隠した少女。
髪は白く、肌も白い。雲のような印象を受ける少女だ。
「晩餐会で気絶してから記憶がないけど……俺は攫われたのか?」
「違うよ。大前提としてここは現実じゃない。夢の世界さ」
夢の世界。
それにしては風も感じるし、太陽の熱さも感じる。
「それで、お前はなんだ?」
「私は影法師。君の影だよ。さっきは『はじめまして』って言ったけど、生まれた時からずっと君と一緒に居たよ」
影法師……? 影? 説明が下手過ぎてわけわからん。
「まぁそうだねぇ、守護霊みたいなものだと思ってくれていい」
守護霊と言えば、人に憑き人を守る霊のこと。
なるほど、ちょっとは理解できた。
「お前がここに俺を呼んだのか?」
「うん、そうだよ」
「用件はなんだ? 俺はいま現実の自分の状況が気になって仕方ない。早く現実に戻りたいんだけど」
「そうだね、たらたら話をしている時間も無さそうだ。まだ私と君のつながりは薄く、君を長く留めることはできないらしい」
突如、夢の世界とやらの物質が光となって散り始めた。
「君はまだここへ来るには早すぎたようだ。今度会う時までに資格を得なさい」
「資格……?」
「それは何らかの覚悟だ。詳細は言えない。ただ……君がその覚悟を決めた時、ようやく私は君に手を貸すことができるようになる。名前もその時に教えよう」
真っ白な光が全身を包み、視界から一切の物体が消えた。
「――また会おう。我が王よ」
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今度こそ現実で目を覚ました。天蓋が見える。
ベッドの側には緑髪の少年――リンが座っていた。
「おはよう。気分はどうだい?」
「……腹いてぇ」
「治癒師に治してもらったけどまだ痛むか。後でもう一回診てもらう?」
「大丈夫。多分、殴られた痛みじゃない」
成長痛に似た、何かだ。
「そうかい。じゃあ改めて――」
リンは立ち上がり、深々と頭を下げた。
「申し訳ございませんでした」
「は? 何がだ」
「僕らは君を守ると約束したのに、賊に易々とあしらわれてしまった。国王様が去って気が抜けてしまっていた。完全に僕らのミスだ……本当に申し訳ない」
「いいよ。こうして無事なわけだし」
晩餐会は終わった。
これで俺の王都での仕事は終了……だな。
「あれ?」
窓のカーテンの隙間から、陽光が差し込んできている。
「朝……? ってことは、今は晩餐会のすぐ後じゃないのか」
「晩餐会の次の日の早朝さ。君の迎えは午後に来るから、午前中はここで休むといい」
「わかった」
「僕はまた外で見張りをしているから、用があったら声をかけてね」
「はーい」
リンは部屋を出ていく。
そっか、今日の午後にはもう帰るのか。
未だに現実味がないな。島の外に出てからと言うもの、ずっと夢の中に居る気分だ。
「……暗いな」
ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。
眩い光が一挙に部屋に入ってきた。
「ここからは庭が見えるのか」
カラフルな花々が咲き乱れる花壇、
名も知らない女神の銅像、
新鮮な果物が成る菜園。
そして……水を打ち上げる噴水もある。
「ん? アイツは……」
噴水を囲む石の壁、その壁に腰を掛けた少年がいた。
その少年は銀色の髪で、物静かに本を読んでいた。
その本は見覚えがあった。タイトルは――“勇者クロウリーの冒険記 第一部”。
そして本を読む少年の姿にも覚えがあった。
「ハク……第9王子か……!!」
影武者を、クロウリーを焼き殺した男……!
「王族と……接触する機会……だが、アイツは……!」
気づいたら俺は窓を開けていて、
気づいたら二階から飛び降りていて、
気づいたら噴水の元まで歩いていた。
「おい」
声を掛けると、ハクは本から目を離し、俺に視線を合わせた。
暗く、冷たく、底の見えない瞳だ。
「聞きたいことがある。ちょっと付き合えよ」
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