第12話 晩餐会
今日は俺の誕生日だ。
そんでもって、カルラ=サムパーティの誕生日だ。
朝からリンとアルハートに色々と指導を受けた。
今日来る来賓の名簿、
それぞれの性格や求めている態度、
パーティの細かい日程、
それを何度も何度も繰り返し教えられた。
「この晩餐会には遠方の国からわざわざ足を運んでくださった方もいます。もしもあなたが影武者だとバレれば、カルラ様に対する彼らの失望は計り知れないモノになるでしょう。しっかりと演じ切ってください」
「もし正体がバレちゃったら打ち首にされちゃうかもね~」
どうやら食事を楽しむ余裕はなさそうだ。
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夜。
王宮の大広間で晩餐会は始まった。
兄弟、他の王子はいない。これは事前情報の通り。そもそも王子たちはカルラオリジナルが影武者と入れ替わってるのを知ってるから来るはずもない。偽物の兄弟を誰が祝いたがるものか。
国王が来るのは面目上の問題かな。さすがに親族が誰も来ないとなっては来客者たちに妙な疑心を抱かれる恐れがあるからな。
国王はまだ来ていない。王族は俺一人だ。
ただ客はめちゃくちゃいる。第5王子様は祭りが好きなのか、100人近い人数がこの場に集まっている。
晩餐会の主役たる俺に、一人一人挨拶してくる。晩餐会は立食方式なのでみんな手にグラスやら皿やらを持っている。
「いやはや、これでカルラ様も13歳になられましたか。もうすでに王の風格がありますなぁ」
この人は王国軍の財政を担当する軍人。
すべての王子に尻尾を振ってるらしい。好まれる答えは……、
「まだまだ俺は王の風格じゃない。至らぬ点ばかりで、いつも親衛隊の者達に助けられている。我ながら情けないよ。人の手を借りなくては何もできないからな」
自信のない素振りをし、隙を見せる。この男が求めているのは完璧な王ではなく、扱いやすい王。自身を弱く見せるのが大切。実際、すぐさま男は調子に乗って自分のアピールを始めた。「金の扱いに困ったら私にご相談ください!」、「軍事予算が増えれば国はもっと潤いますぞ! 私が保証します!」、「ここ数年で王国軍が成長したのは私の手腕があってこそです!」等々、自分と軍事力に酔った話を次々とされた。
わかりやすいやつ。俺が王子なら、コイツの手だけは借りたくないな。
さて、次だ次。
「実は私の娘も今年で13歳でして、如何でしょう。一度お目に掛かれては……」
この人は大陸の西の方にある小さな国の王様だそうだ。
自分の娘とカルラオリジナルを結婚させ、王国からの援助を狙っているのだろう。
「ああ、機会があれば顔を見せに行こう」
そんな機会はきっとない。あからさまに拒否すると感じが悪いからこの返答がベストだろう。
次に姿を見せたのは――夜なのにサングラスを掛けた男。
「私のような〈レーヴァテイン〉の人間も招いてくださり感謝です。やはりカルラ様は懐が深い御方だ」
〈フレースヴェルグ王国〉と大陸を二分する国、〈レーヴァテイン帝国〉。この人は帝国の大佐殿だそうだ。名はフェイル。歳は27歳。紫髪のロングヘアーで、目は鋭く、その佇まいには覇気と余裕を感じる。
〈レーヴァテイン帝国〉とは現在停戦中で、関係は良好になりつつあると聞くが……リン曰く、一番刺客の可能性があるのがこの人らしい。帝国の中にはまだまだ王国に対し敵意を持つ人間は多いそうだ。
リンとアルハートの警戒の色が強くなった。
俺でもわかる……コイツは相当強いし、胡散臭い雰囲気がある。
「いつまでも喧嘩していても仕方あるまい。俺の代で終わらせたいものだな、其の国との歪な関係を」
「私も同意見でございます。是非、我々の代で終止符を打ってやりましょう。私はあなたの味方ですよ……あなたのね」
フェイルは不敵に笑って、離れていった。
警戒する必要はありませんよー、と言わんばかりに俺と距離を取り、両手をワイングラスと皿で塞いだ。
とりあえず、大丈夫そう……かな。
これで来客者への挨拶は一通り終わった。あとはビックゲストを待つのみだ。
ガタン、と扉が使用人の手で開かれた。
オーラとでも言うのだろうか、全員がその異様な空気に釣られて扉の方を見た。現れたのはマントを羽織った黒髪の男性。
――俺の中の遺伝子が、それを父親だと認識した。
と言うのは半分冗談で、すでに写真で顔は見ていた。
あの人がカルラ=サムパーティの父親で、この国の王。アイビス=サムパーティ。
写真の通り、47歳にしては若い顔立ちだ。30歳そこそこに見える。長い黒髪、前髪は上げている。左半分しかない黄金の仮面をつけていて、マスクの隙間から見える左眼は鮮やかな黄色。右眼は俺と同じで青い。
国王はまずフェイルに視線をやった。フェイルは深々とお辞儀をした。
国王はその後は来客者に目を向けることなく、真っすぐ俺の方へ歩いてきた。
「……あ、えっと」
俺の前で立ち止まり、何を考えているかわからない目で見下ろしてくる。
色々と話は用意していたのに、その王たるオーラに包まれ……喉が詰まってしまった。
緊張で言葉が出ない俺の肩を、国王は強く叩き、
「おーっ! お前さんもついに13歳になったかぁ! そろそろ女を覚える時期かねぇ」
「――は?」
覇気の欠片もない笑顔で、国王はそう言い放った。
「ん? どうしたんだ皆々様? 構わずパーティを続けてくれ」
王の言葉で、凍っていた来客者たちは食事を再開した。
「ち、父上。あの、ありがとうございます。今日は私の誕生会に来てくださり……」
「お前の誕生会にはこれまで一度も出れたことなかったし、一度ぐらいは顔見せないとな」
あれ? 印象と全然違う。先生から聞いてた情報とも違う。もっと厳格な人物だと聞いていたのだが……。
「あ、この肉貰っていいか?」
国王は俺の皿のステーキを指さす。
「ど、どうぞ」
「いただきまーす」
国王は俺のフォークでステーキを口に運んだ。おいおい国王様、テーブルマナーの欠片もねぇぞ。
「うん、やっぱウチのシェフの料理は美味いな」
「国王様」
従者の一人が国王に声をかける。
「もうか。息つく間もないな」
国王は俺の目を見て、
「期待してるぞカルラ。誕生日おめでとう」
そう言い残して部屋を出て行った。
まるで嵐のようだったな。ウチの面子で言うとオスプレイに似た雰囲気だった。
「……カルラ様、そろそろ……」
アルハートが耳打ちしてくる。
来客も捌いて、国王も帰った。すでに晩餐会が始まって1時間は経過してるし、お開きにするにはちょうどいいタイミングか。
最後は俺が挨拶して締めることになっている。席を立ち、全員の前に出る。
全員の視線が集まり、静寂になったところで俺は最後の挨拶を始める。
「皆様、本日は私の誕生会に参加して頂きありがとうございました。まだまだ名残惜しいものの、今宵のパーティはこれにて」
挨拶の途中で、
無造作に、部屋の扉が開かれた。
リンとアルハートがいち早く反応する。
扉を蹴破って現れたのは――真っ赤な外套で身を隠した人影だ。
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