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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 王都凱旋

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第10話 瓜二つ

 ようやく軍船から梯子が投げられた。


「もう十分でしょう? 早く影武者(ドッペル)と共に来なさい」

「は~い、アルハート様ぁ」


 まだ手に、あの胸の感触が残っている。

 なんだろう……この感覚。頭がクラクラする。お、女って……すげぇ。


「カルラ、気を付けてくださいね」

「あ、ああ」

「そうやってボーっとしていると、あっさり暗殺されてしまいますよ」

「わかってるって!」

「外の世界にはハニートラップというモノがございまして――」

「気を付けるつってんだろ!! もうアンタは帰ってろよ!」


 リンの後に続き梯子を上り切ると、先生は船と一緒に大海原へ消えて行った。

 ここからは一人の戦いだな……。

 大型船に乗り移った俺は船内のベッドルームに案内された。


「改めて自己紹介するね! 僕はリン=フロウ、13歳。カルラ様の親衛隊で()()だよ。よろしくね~」

「お前、剣士じゃねぇのか……!?」

「うん。大剣持ったの今日が初めて~」


 それであの強さ……うわぁ、自信なくす。


「さて、次は私の番ですね」


 リンが下がり、次に頬コケの男が名乗る。


「私はアルハート=ヴェントゥス。カルラ様の右腕であり、親衛隊隊長。カルラ様からは『相棒』と呼ばれています」

「名前以外全部嘘でーす。カルラ様の右腕でもなければ親衛隊隊長でもないし、カルラ様はいつも『アルハート』って呼んでまーす」

「余計なことを言わないでくださいリンさん。せっかくカルラ様と同じ声に相棒と言われるチャンスだったのに……」

「アルハートは参謀的存在だよ。隊長ではないけど副隊長ではあるね」

「いずれは隊長になります。まったく、あの小僧さえいなければ……!」


 アルハートは唇を噛みしめる。怖い。負のオーラが見える。


「うーんと、じゃあとりあえず『リン』と『アルハート』って呼べばいいんだな。これから三日間よろしく」

「うん、よろしくね~」

「よろしくお願いします」


 第一印象は最悪だったが、こうして話してみるとどっちも物腰が柔らかくて接しやすそうだ。


「今後の予定ですが、今日はこの後王宮へと足を運び予定は終了です。明日の午前も特に予定はありません。本番は明日の晩餐会です」

「例の暗殺予告があったやつだな」

「そうだよ。僕とアルハートも同席するから、君はただ来客者に笑顔を振りまいて食事を楽しんでくれればいい。刺客は僕らで押さえる。ああそれと、国王様も顔見せに来るようだから失礼のないようにね」


 国王も来るのか。

 資料には俺以外の王族は大事を取って出席しないと書いてあったのだが。


「オリジナルはどこにいるんだ?」

「もう身を隠してるよ。入れ替わりの準備は整っている」

「そこのハンガーに掛かっているのがカルラ様の服です。王都に着く前に着替えてください。着替えたらもう、あなたはカルラ=サムパーティ、この国の第5王子です。覚悟はよろしいですか?」


 いいえ。という選択肢はないだろうよ。


「ああ」

「では、甲板でお待ちしています」

「もう王都まで時間ないからなるはやでね~」


 リンとアルハートがベッドルームから出る。

 俺は壁に掛かった服を観察する。

 豪奢なシャツに長ズボン、やたらボタンの多い上着。ブーツは膝下まで丈がある。

 一番鼻につくのは竜の刺繍のあるマントだ。こんなダサいの着なくちゃいけないのかよ。


「……クレインとカナリアが見たら笑うだろうな」


 服の着方は習っている。

 記憶を掘り起こしながらカルラの衣装に身を包む。

 うん、ピッタリだ。いや、ピッタリより少しだけ余りがある。ちょうどいい着心地。服ってのは少し大きいくらいが着やすいからな。


 部屋にある鏡に全身を映してみる。


「……意外に、似合ってるな」


 こんな高い服が似合うとは我ながら驚いた。

 改めて自分が王族のコピーだと認識した。



 ---



 王都は“港町(みなとまち)”、“城下町”、“スラム”、“要塞特区(ようさいとっく)”の四つの区域に分けられる。


 海に面している東側が港町。漁師、商人、軍人が入り交じり一番活気に溢れているそうだ。中流階級を中心に暮らしている。


 城下町は海に面していない西側から中心部にかけて存在する。下流階級~上流階級まで幅広い人間が住んでおり、一番面積が大きい区域。


 スラムは城下町と港町の狭間、南側にある区域。極貧層が住む場所だ。面積は小さいが、人口密度は一番大きく、身寄りのない子供や社会から弾き出された大人が混在する。処分に困ったゴミはここへ捨てられ、スラムの人たちはそのゴミから食料や金目のモノを探すそうだ。


 要塞特区は王都のど真ん中に位置する王宮を中心とした区域。周囲は高い壁で囲まれている。騎士団本部もここにあり、強固な防衛力を誇る。


 船が港に()くとすぐさま俺は馬車に入れられ、景色を楽しむ暇もなく出発した。窓はカーテンで(さえぎ)られており、外が見えない。


 正面にはアルハートが、隣にはリンがいる。


「いやぁ、驚き! こうして見るとほんっとソックリだね!」


 リンはペタペタと頬っぺたを触ってくる。


「ふむ。たしかにこの髪質、我が主と同じ……」


 アルハートが興味深そうに髪を触ってくる。アンタは注意する側じゃねぇのか!


「さすがにカルラ様にはべたべたできないからねー、こっちでカルラ様の感触を味わっておこうっと」

「こ、これが我が主の鼻頭(はながしら)の感触か……っ! しゅ、しゅばらしい!!」

「いい加減にしろお前ら! 気色悪いんだよ!!」


 二人の手を振り払う。

 暇になったので、アルハートの許可を得てカーテンの隙間から外を覗いた。

 人がいっぱいいる。わかってはいたが、外の世界には人がうじゃうじゃいるんだな。人に酔いそうだ。 

 馬車は港町を抜け、要塞特区を囲う城壁に到達。御者と門番が小さく会話を交わし、御者が通行証を見せて城門を開けてもらった。馬車は要塞特区に突入する。


「もう少しかな」


 それから7分ほどで馬車は止まった。


「着いたね。さぁ、降りますよ。カルラ様」


 馬車から降りた俺はその巨大な建物に圧倒される。

 横にも縦にも大きい。学校の20倍……いや30倍ぐらい大きい。圧巻の一言だ。これが城、か。

 でも驚きを表に出してはいけない。俺は第5王子カルラ=サムパーティ。この王宮も見飽きているのだ。


 つまらなそうな表情で俺は王宮を眺めた。


「「!?」」


 完璧な模倣――演技――

 散々訓練してきた『カルラ』を実践する。

 目の細め方、座り方、腕の組み方、肩の位置、指の開き、鼻の開き、口角の角度、何から何まで聞いていた通りにやる。


「……」


「どうした? 何をしている?」


 なぜかリンとアルハートが固まっている。


「い、いえ……カルラ様、ですね……ええ」


 アルハートがわけのわからないことを言う。リンはそのアルハートの発言に吹き出す。


「……ごほん、失礼しました。カルラ様。申し訳ありませんが私は別の職務があるので、ここで失礼します」


 アルハートは一人、馬車で王宮とは違う場所へ向かった。


「それでは行きましょうカルラ様。僕が前を歩きます」


 リンは馬車の中の態度とは打って変わって従者らしい、かしこまった態度を取り始めた。


「ああ、頼む」


 (あらかじ)め先生から聞いていたカルラの口調を真似する。

 一人称は“俺”、二人称は“お前”。まぁ俺と同じだ。というか影武者(ドッペル)はオリジナルの一人称と二人称に合わせるから俺は強制的にこの一人称と二人称を言わされていた。別にいいけど。


 敬語を使うのは三人の兄(オスプレイ、ワッグテール、クレイン)と一人の姉 (シグネット)、国王、王妃のみだ。


 リンに続き、王宮に入る。だだっ広い玄関ホールだ。

 階段を上がり二階へ。それから廊下を歩いていると、正面から二人組が歩いてきた。


「!?」


 片方は白髪の老騎士。そしてもう片方は、赤毛の王族。


――カナリアだ。

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