第9話 風前の勇炎
俺とリンの刃が交わう。
回避は捨てて、重心を落とし、リンの一撃一撃を弾き返していく。
手応えは軽いのに、衝突音は凄まじい矛盾。ただ攻撃を弾いているだけなのに、リンはどんどん後ろへ退がっていく。
「ちょっ! ――おっとっと!!?」
勢いそのまま、ジリジリと船の端にリンを押し込む。
「なんて『陽氣』だ……ひょっとして無意識かい?」
「あぁ? わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇ」
「面白くなってきた♪」
リンは大剣を前に、思い切りタックルをかましてくる。俺は当然剣で受けるが、リンは剣を密着させた状態で、思い切り大剣を上空にぶん投げた。
「てめっ……!」
リンの大剣と密着していた俺の剣も弾かれ、上空に舞う。
「さっ、肉弾戦だ」
リンが掴みかかってくる。手慣れた感じだ……剣を敢えて捨て、体術を挑んできたことから体術に自信があると見える。
俺はリンに襟を掴まれても構わず身をリンに寄せ、体を半回転。肩・肘・手の平、それぞれをリンの首・胸部・股に当てる。
「これは……!?」
「王流体術――『三天通壊』!」
三天通壊。
相手の三つの急所(喉・心臓・性器)を寸勁(密着した状態から衝撃を与える技)で同時に攻撃する技だ。
雷鳴のような打撃音が鳴った後、リンはよろけた。
「が、はっ!?」
王流体術は王族にのみ伝わる体術。まぁ護身術だな。当然、影の俺達も習っている。
「王族の体術――!! そっかそっか! 君達も習っていても不思議じゃないか!」
三天通壊で決めるつもりだったが、予想外の要素のせいで浅く入った。この技だけでは決めきれないな。ならば、
「お前らさぁ……俺達のこと舐め過ぎなんだよ……!」
王流体術――
「『凱箇一砕』!!」
腰・腕・手を回転させ、その勢い全てを乗せて拳を振るう技。単純だが、極めた『凱箇一砕』は鋼鉄すら貫く。
俺はリンの腹に『凱箇一砕』を喰らわせ、吹っ飛ばす。同時に上空を舞っていた剣二つが甲板に突き刺さる。大剣は俺の足もとに、騎士剣はリンの傍に落下した。
リンは船の柵に背中からぶつかる。勝った……さすがにこれで気は絶ったはずだ。
「ふふっ」
リンの笑い声。
「アレを喰らってまだ意識があるのか」
リンは立ち上がり、近づいてくる。
俺は大剣を、リンは騎士剣を手に取る。
「王流剣術――」
「遊民曲芸――」
リンは騎士剣を持ち、体を横回転させて剣を振るう。
「『餓狼円舞』!!」
俺は大剣を縦にして、リンの斬撃を受ける。
リンの技は体の回転を利用した連続攻撃。変則的な太刀筋で、正統派の剣術とはかけ離れた面白い技だ。俺は右手に持った大剣で上手くガードし、リンの六連撃目に合わせて大剣の裏、剣脊を左拳で殴る。
「『牙折』」
リンの斬撃が表の剣脊に、俺の拳が裏の剣脊に同時に当たる。拳から伝わる衝撃が大剣を通して奴の騎士剣に送られる。強力な衝撃を一挙に受けた騎士剣は砕け散った。
「俺の勝ちだ。そんで、この一撃はけじめだ」
「うん♪ ちょーだい」
俺はリンの頬を右拳で殴り飛ばす。
リンは船の上を転がるも、すぐに平然と立ち上がった。
「いいねぇ、今の君の目は……生きたいって叫んでるよ」
リンは薄く笑い、
「ごーかく♪ 僕の完敗だ」
「……」
「どうしたの? まだ怒ってる? 殴り足りない?」
「あ、いや……」
勝負がつき、冷静になった所で、俺はさっきのある感触を思い返していた。
「お前の、その、股をさっき攻撃した時、な……何も無かった気がしたんだけど」
さっきは戦いの最中だったからスルーしたけど、男にぶら下がっているモンが……コイツには無かった。
そのせいで、技がちょっと上手く決まらなかった。
「そりゃそうでしょ。僕、女の子だもん」
そう言って、リンは両頬に指を当てて首を傾ける。
「……マジで?」
女で、あのパワー?
「し、信じられねぇ……」
「ホントだって。ほら」
「!?」
リンは俺の右手を引っ張り、シャツの中に俺の右手を滑り込ませた。
ぽにゅ。
僅かだが、男の胸にはない柔い感触が――ある。
「あ、お、おおっ!? おおうっっ!!!?」
「あれ? もしかして初めて触った? これがおっぱいだよ。ほれ、ほれほれ」
それは世間知らずの俺にとって、あまりにも大きな衝撃だった。
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります!
よろしくお願いしますっ!!




