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ドッペルツィマー ~影武者の反乱~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 王都凱旋

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第9話 風前の勇炎

 俺とリンの刃が交わう。

 回避は捨てて、重心を落とし、リンの一撃一撃を弾き返していく。

 手応えは軽いのに、衝突音は凄まじい矛盾。ただ攻撃を弾いているだけなのに、リンはどんどん後ろへ退がっていく。


「ちょっ! ――おっとっと!!?」

 

 勢いそのまま、ジリジリと船の端にリンを押し込む。


「なんて『陽氣』だ……ひょっとして無意識かい?」

「あぁ? わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇ」

「面白くなってきた♪」


 リンは大剣を前に、思い切りタックルをかましてくる。俺は当然剣で受けるが、リンは剣を密着させた状態で、思い切り大剣を上空にぶん投げた。


「てめっ……!」


 リンの大剣と密着していた俺の剣も弾かれ、上空に舞う。


「さっ、肉弾戦だ」


 リンが掴みかかってくる。手慣れた感じだ……剣を敢えて捨て、体術を挑んできたことから体術に自信があると見える。

 俺はリンに襟を掴まれても構わず身をリンに寄せ、体を半回転。肩・肘・手の平、それぞれをリンの首・胸部・股に当てる。


「これは……!?」

王流(おうりゅう)体術(たいじゅつ)――『三天通壊(さんてんつうかい)』!」


 三天通壊(さんてんつうかい)

 相手の三つの急所(喉・心臓・性器)を寸勁(密着した状態から衝撃を与える技)で同時に攻撃する技だ。


 雷鳴のような打撃音が鳴った後、リンはよろけた。


「が、はっ!?」


 王流体術は王族にのみ伝わる体術。まぁ護身術だな。当然、影の俺達も習っている。


「王族の体術――!! そっかそっか! 君達も習っていても不思議じゃないか!」


 三天通壊(さんてんつうかい)で決めるつもりだったが、()()()()()()のせいで浅く入った。この技だけでは決めきれないな。ならば、


「お前らさぁ……俺達のこと舐め過ぎなんだよ……!」


 王流体術――


「『凱箇一砕(がいかいっさい)』!!」


 腰・腕・手を回転させ、その勢い全てを乗せて拳を振るう技。単純だが、極めた『凱箇一砕』は鋼鉄すら貫く。

 俺はリンの腹に『凱箇一砕』を喰らわせ、吹っ飛ばす。同時に上空を舞っていた剣二つが甲板に突き刺さる。大剣は俺の足もとに、騎士剣はリンの傍に落下した。

 リンは船の柵に背中からぶつかる。勝った……さすがにこれで気は絶ったはずだ。


「ふふっ」


 リンの笑い声。


「アレを喰らってまだ意識があるのか」


 リンは立ち上がり、近づいてくる。

 俺は大剣を、リンは騎士剣を手に取る。


「王流剣術――」

遊民曲芸(スラムトリック)――」


 リンは騎士剣を持ち、体を横回転させて剣を振るう。


「『餓狼円舞(ヴォルフ・ダンス)』!!」


 俺は大剣を縦にして、リンの斬撃を受ける。

 リンの技は体の回転を利用した連続攻撃。変則的な太刀筋で、正統派の剣術とはかけ離れた面白い技だ。俺は右手に持った大剣で上手くガードし、リンの六連撃目に合わせて大剣の裏、剣脊を左拳で殴る。


「『牙折(きばおり)』」


 リンの斬撃が表の剣脊に、俺の拳が裏の剣脊に同時に当たる。拳から伝わる衝撃が大剣を通して奴の騎士剣に送られる。強力な衝撃を一挙に受けた騎士剣は砕け散った。


「俺の勝ちだ。そんで、この一撃はけじめだ」

「うん♪ ちょーだい」


 俺はリンの頬を右拳で殴り飛ばす。

 リンは船の上を転がるも、すぐに平然と立ち上がった。


「いいねぇ、今の君の目は……生きたいって叫んでるよ」


 リンは薄く笑い、


「ごーかく♪ 僕の完敗だ」

「……」

「どうしたの? まだ怒ってる? 殴り足りない?」

「あ、いや……」


 勝負がつき、冷静になった所で、俺はさっきのある感触を思い返していた。


「お前の、その、股をさっき攻撃した時、な……何も無かった気がしたんだけど」


 さっきは戦いの最中だったからスルーしたけど、男にぶら下がっているモンが……コイツには無かった。

 そのせいで、技がちょっと上手く決まらなかった。


「そりゃそうでしょ。僕、女の子だもん」


 そう言って、リンは両頬に指を当てて首を傾ける。


「……マジで?」


 女で、あのパワー?


「し、信じられねぇ……」

「ホントだって。ほら」

「!?」


 リンは俺の右手を引っ張り、シャツの中に俺の右手を滑り込ませた。


 ぽにゅ。


 僅かだが、男の胸にはない柔い感触が――ある。


「あ、お、おおっ!? おおうっっ!!!?」

「あれ? もしかして初めて触った? これがおっぱいだよ。ほれ、ほれほれ」


 それは世間知らずの俺にとって、あまりにも大きな衝撃だった。

【読者の皆様へ】

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