prologue 影武者教室
――影武者という存在を知っているだろうか?
敵の魔の手から逃れるため、王や騎士団長といった権力者・指揮官に扮し、囮になる存在を言う。身代わりと言ってもいい。
俺の住むこの国には9人の王子が存在する。その王子たちにはそれぞれ1人ずつ影武者が存在する。ただこの影武者たちは特別で、顔立ちが似てるとか体格が似てるとかそういうレベルじゃない。遺伝子レベルで王子たちとまったく同じだ。顔や体格はもちろん、声紋も指紋も一緒だ。
影武者は王国の高名な科学者が作った王子のクローンである。
王子のクローンたちは生まれてすぐ、ある施設に預けられ影武者として育てられる。王子たちと同様の栄養を取り、同様の教育を受け、王子そっくりに育てられる。
施設は孤島にあって、必要になると船が出て王国に連れていかれる。
生まれてから死ぬまで、彼らは身代わりとして生きる。
彼ら、と他人事のように言ったが俺も影武者の一人だ。
第5王子“カルラ=サムパーティ”、それが俺のオリジナルの名前。
影武者である俺もカルラを名乗っている。いざ入れ替わった時、名前を呼ばれた際自然に反応できるようにするためにな。
さてさて、今日も授業が始まる。
木造建築二階建ての建物。二階の大半は寝室で、一階には教室と先生の執務室と食堂とトイレがある。校庭を含む学校の周りは一面森。さらに森の周囲を山々が囲んでおり、山を越えた先は一面海だ。アホみたいに高い山のせいで俺たちは海を見たことがない。
この教室には影武者9人と『先生』が1人。
孤島にいるのはこのたった10人。
俺は誠に勝手ながらこの教室をこう呼んでいる。
――“影武者教室”と。