4.新プロジェクト
シトラ(ダンジョンの街) その1
ランベル商会にお客様から依頼が来たそうで、サガがドリーの家兼事務所に来た。
「シトラの街まで同行してほしいんだけど、スケジュール組めるかな」
「もう1回訪問を予定しているお客様がいるんだけど。状況次第で呼んでくださいってお願いしているのがいつ頃になるかなぁ。
ちょっと顔を出して聞いてみようかしら」
そういいながら、ドリーはサガにお茶を出した。
「そうしてくれる?悪いね」
サガは拝んでいる。
「こんな近いお客さんを廻してもらえたんだから、ありがたく動きますよ。
でも、普通こんな近いお客さんは、下請けなんかに出さないで自社スタッフで対応してるじゃない?ありがとうね」
サガの配慮に、ドリーは実はとっても感謝していた。
「いやいや。たまにはおいしい思いをしてもらわないと、辞められたら困っちゃうからね」
サガはお客様には見せない子供っぽい笑い方をしてみせた。
「シトラに同行って、どんな感じなの?」
ドリーがカップを片手に聞いた。
「それがね~、ちょっと大型契約でねえ。魔法陣を記述しているお客様本部から、魔道具を作成している各支部6か所に向けて、魔法陣を送信して魔道具に書き込むことができるかってやつで。
送信受信の魔道具合わせて7台が売れるか否かなんだけど」
サガは腕組みしてうーんとうなった。
「それ、できるの?」
「記述開発本部のロックドアによると、理屈としてはできるらしい。
記述開発本部と機材開発本部、販売部の三つ巴の大型プロジェクトになるそうだぞ」
サガは腕組みしたまま、ちろっとこちらを見た。
「それ、わたしが参加していい問題?ひとりでやってるさみしい下請けだよ?」
ドリーはカップをテーブルに置いて、両手をついてサガを見た。
「記述開発本部長のマエボーさんが指名してきたんだよ」
サガはぼそぼそっと言った。
「・・・ご指名ありがとうございます。が、逆に不安になるのはなぜでしょうねぇ。
マエボーさんにお会いすることってできるかしら?」
ドリーはサガと目を合わせないようにそっぽを向いて聞いた。
「聞いてみるよ」
サガも下を向いて答えた。
***
後日、ランベル商会のシトラの件の会議に呼ばれて、マエボーさんと会うことができた。
会議では、シトラの企業に売りたい魔道具の内容と、開発の進行具合。
データの「出力」と「送信」及び、「受信」と「書込」のイメージと「魔道具JJJ改造機」2台を使った実際のテスト。
(おおすごいね。大体出来てるっぽい感じだね)
会議が終わって、ドリーはマエボーさんに挨拶に行った。
「いつもありがとうございます。この度はご指名ありがとうございました。
でも、なぜ私のような下請けを、このような大事なプロジェクトに参加させるんですか?」
「うん。うちの子達だけだと、危機感なくてねえ。
できればドリーさんがリーダーでやってもらいたいんだよねー」
いつも部長のマエボーさんは、なにを考えているかわからない表情をする。
「いやいやぜひとも、リーダーはランベル商会から出してもらいたいです!」
ドリーはただちに応戦した。
「あ~やっぱり?」
マエボーさんはチロんとこちらを見た。
「はい!お願いしたいです!協力はしっかりしますので」
(いま決めとかないと、絶対やばい)
「うんわかったよ。追ってスタッフは連絡するね」
マエボーさんは、手を振りながらこちらも見ないで部長室に帰っていった。