ダイヤモンドから夢を放つベルギウス
「日本に豊富にあるエネルギー資源と言えば石炭なのだけれど」
CO₂が無ければ、植物も育たない。
「そうですよね、原油は乏しいですけど」
メシヤはオブライエン博士のお気に入りである。
「石炭を液化するベルギウス法というのは御存じかしら?」
この方法で、ガソリン・軽油・LPGも生産出来る。
「はい。戦前にドイツで生まれた液化法ですよね」
ロックフォーゲル大統領の高祖父も関わっている。
「話が早いわ。日本はエネルギー政策で悩まされ続けて来たといっても過言ではない。ベルギウス法で石炭を液化することに注力すれば、事情は大きく変わってくると思わない?」
オブライエンは、なぜここまで日本に肩入れしてくれるのだろうか。
「そうなんですよね。ただ、ベルギウス法は液化したときに熱量が半分以下になるんでしたよね」
メシヤは良く咀嚼して本を読む。速読だけでは、楽しいはずの読書が記号抽出作業と化してしまう。
「いま気付いたけど、メシヤくんって歯が丈夫そうね」
突然の指摘に白い歯がこぼれる。残念なことに、噛み癖はある。
「昔は1000以上もの炭鉱が国内にあったんですよね」
現存するのは、釧路コールマインのみである。
「そう。ベルギウス法の改良を続けている研究者はいるのだけれど、いかんせん注目を浴びることがないの」
斜陽産業と見放されているのだが、これが安価で日本のエネルギー事情を激変させるものと分かれば、話は違ってくる。
「脱炭素化とかなんとかいって、妨害されるのが目に浮かびますね」
それを阻止するのが、メシヤの役目だ。
「ガソリン車の見直しもされつつあるわ。人間の躰が何で出来ているのかなんて質問をしなくちゃいけないのかしら」
車にとって良い物質が、carbonである。