了解人間
白馬安曇は、闇に隠れて生きる。
人には姿を見せられない。野獣のような躰を持っている。
「了解。これから向かいます」
電話の相手は白馬のボスである。
表世界の住人には、シナリオがある。彼らにはそれぞれの役回りを演じてもらわねばならない。逸脱してアドリブをかますと、裏世界の演出家にキャストを降ろされる。
(馬鹿を演じるなんていうが)
馬鹿に馬鹿は演じられない。
(刃向かった人間の末路は悲惨だ)
白馬らしくない。
《だからお前はアホなのだ!》
志能備の里の頭目は、よく白馬を叱咤した。
《それは匹夫の勇と言うものだ》
怒りは、天下の民を安らかにするために、行われなければならない。
(俺一人の力ではとてもとても)
白馬がボスのところに転がり込んだのも、計算の上だ。
第三次世界大戦は、戦闘機や戦車に乗って行われるのではない。情報戦により、自国が優位に駒を進められるように、綿密に計画を立てられる。
白馬は人間の極限まで躰を鍛え上げているため、デタラメの領域に踏み込んでいる。なんでもないことを積み上げていくと、頂上のほうはオカルトめいてくる。
(俺はそんな大それたことは考えちゃいやしない。柿安の網焼きロースと寝転ぶ草があれば、他に何も要らない)
白馬の頬を、薫風が撫でた。
「白馬~!」
エリが手を挙げ、駆け寄ってきた。
「お待たせしました、白馬さん」
任務前にもかかわらず、レマの表情は涼しげだ。
「さあ、メシの前にとっとと片付けようぜ」
三人は、臨戦態勢に入った。




