サンダルフォン
「スマホのハンズフリーイヤホンが普及しましたが」
科納エレクトロニクスのラインナップにももちろんある。
「我が社ではまったく違うタイプのハンズフリーを開発しました」
面白そうだな。
「ほう、見せてくれ」
俺が言うと、ニカルは足下を指さした。
「サンダル・フォンです」
まさかそれを脱いでもしもしとやるんじゃないだろうな。
「昭和のコントじゃないですか」
そんなものまでチェックしているのか。
「これは足の動きに応じて、さまざまな機能を使えるんです。ただ歩くだけでは何も起動しませんのでご心配なく」
俺のサイズ用のものを手渡された。家の中はどうするんだ?
「受話は左ももを上げてください」
ニカルと繋がった。
《終話は右ももです》
言われるままにオフにした。
「たしかに、手は塞がっていても足は空いてるからな」
このショートカットキーを覚えるのは、手旗信号並みの労力だぞ。
「電話帳検索は、各アルファベットを読み上げするそれぞれの操作があるので、覚えておくと便利です」
街中フットルースみたいになるんじゃないのか。
「ながらスマホは危険ですが、画面を見ながら操作するわけではないので安全性は担保されるかと」
変人だと後ろ指をさされないかの危険性はあるが。
急な連絡が入り、しかし画面操作を出来ない場面は多くある。
「タッチパネル操作が増えましたが、車に関してはボタン操作のほうが適していると考えます」
走行中は触って形を確認できるものが相応しい。それから、タッチパネルは手を動かす頻度が大幅に増える。
「運転中にラインが入った時も困りますよね」
そうだ。走行しながら打ち込んだら、赤色灯が鳴るだろう。
「すぐ返したい場合もあるな」
「空いている方の手を使い、手話感覚である程度操作できる機構を考えました。画面の文字を読んだり入力等は出来ないので、音声読み上げ、口述入力方式です」
ふむ。ラインを開ける動作や送る操作を左手で補うということだな。
「指に嵌めるアイテムを使えば、画面を触らずとも作動できます」
「ニカル。その前に、ハンズフリーの音質環境が悪すぎる。スマホに変わってから顕著だ。これさえ改善されれば、いま言ったライン云々は俺には不要だ」
「ぜひとも我が社のサンダルフォンをお使いください!」




