イライラの輻射率
「なんだよ、マリアのあの言い草は!」
メシヤでも怒るときは怒る。
怒りながら作業をしているのだが、器用と言えば器用である。
「あ、あれ?」
プリンターの調子が急変した。
「メンテはいつもバッチリやってるんだけど・・・」
ガ行の音を立てて、愛機がストップした。
「駄目な時は何やっても駄目だ!」
天井の格子模様を見上げるメシヤ。
フランツ・シューベルトの軍隊行進曲が鳴り響く。ファミコン少年にはチャレンジャーのオープニング曲と言えばすぐ伝わるだろう。
「マリアからだ」
一瞬躊躇ったあと、受話ボタンを押す。
「あのさ」
「うん」
なんだかんだで
「さっきは言い過ぎたわ」
「いや、僕のほうこそ」
仲がおよろしいことで
3分と1秒ほど話し込んだ。急に澄まさないで欲しい。
「そうだ、プリンター直さないと」
いつものメシヤに戻る。
「おかしいな。いや、おかしくない。直ってる!」
機械に心があると信じる者は、指示代名詞をよく使う。
その後、メシヤの工作は順調に進んだ。
「イライラ棒は、いかにイライラしないかなんだよなあ」
空気がピリピリする時、確かに何かが宙を舞っている。




