書心、忘るべからず
「きったない字ねえ!」
ウィルに怒鳴られるミドル。
「アーミーを見習ったほうがいいんだよ」
キョウコも達筆だ。
「ウィルも留学生なのに上手いな」
研究者たる者、書く量が尋常ではない。
「こんなの読めりゃいいんだよ」
「読めないわよ!」
ミミズが這ったような文字である。
「ミドルだけの問題じゃないんだよな。現代人はどんどん字が下手になってる」
これをPC、スマホで書くからと軽く扱って良いものだろうか。
「あんたね、まず速く書こうとしずぎなのよ」
ミドルは書く時間がもったいないと考えている。
「ミドルくん」
七星中学の国語教師、武田が声を掛けた。
「速く書こうとしている時は、心が乱れているものよ」
学問は、速さを競ったゲームではない。
「深呼吸してゆっくり書いて御覧なさい。書くのが気持ちよくなるハズよ」
武田の字は見目麗しい。日本には書道十段がゴロゴロ居る。
「武田先生の言う通りよ。イライラして書いたものって、良くない結果を導くからね」
ウィルのような理系畑が極めると、オカルトとの境界がぼやけて来る。
「そうだ、そうだ。キーボードやスマホで即レスした文章が炎上しやすいのも、そういう理屈だぞ」
ススムはこの点、ミドルほど熱くならない。
速ければ速いほど良い主義は、現代に何をもたらしているか。
「あっ、いつもよりマシになったかも!」
落ち着いて書けば、誰でもそうなる。遅く書くのを敵視していると、判断を見誤る。
「わたしはこっちの字の方が好きかな」
キョウコのお墨付きももらった。
「ミドルくん。あなたはとても思考速度が速くて、それはすごく長所だと思うわ。ただ、そのスピードに書の速さを合わせようとするのではなく、ゆったり書いたその遅さに沿わせて思考を調えてみてはどうかしら」
ミドルがうんうん頷いている。
「精神統一。これも修行の内よ、ミドル!」




