青年の出張
「年末年始はゆっくり出来たか?」
「ボクの実家近くで紅白の撮影があって、あわただしかったですよ~」
こいつの名前は西本願寺京子。俺はキョン子と呼んでいる。
「あれは俺も驚いたな」
影絵だけではあったが。
「ところで、パチンコ店の出張って言ったら近場しかないと思ってましたよ~」
「ウチのグループは全国区だからな。まだマシな方だぞ」
自己紹介が遅れたが、俺の名は東別院洋。長ったらしいのと家庭の事情から、東洋で登録している。キョン子も実家バレを防ぎたかったのか、西京子と名乗っている。
「九州は遠いっスよ~」
情けないやつだな。
「正月旅行とでも思えばいいさ」
年末年始の三重は、深夜の客も多い。
「オールナイトってのが哀愁を誘いますね」
確かに昭和っぽいな。だが、サッカーのウイングもふたたび脚光を浴びているし、流行り廃りで物事を論じたくないものだな。
「先輩のは若さ故のあやまちで許されないところがありますよ」
今は良いからすべてを忘れよう。
「でもなんで九州の先っぽなんスかね?」
店長の考えは分からん。
そうこう言ってる間に、エンペラーSAGA店に到着した。
「ロマンシングなところですね~」
景色も空気も素晴らしい。
「ヒロシさん」
オレンジがかった髪の女性に呼び止められた。年は俺より若そうだ。
「先輩、誰っスかこの女は~?」
いや、俺も初対面だぞ。
「申し遅れました。わたしは科納ニカルと言います。以後お見知りおきください」
どこかで聞いたことがあるような・・・
「それで科納さん、ボクたちは何をすればいいんスか~?」
なぜかふくれっ面だな。
「ええ。貴方たちに来てもらったのは他でもありません」
地図を広げるニカル氏。
「あまり見慣れない地図っスね」
目を細めているが、キョン子の視力は2.0オーバーだ。
「ハイパーループはすでに全世界に張り巡らされていますが、ユーラシアドライブウェイ構想を現実の物とするためにーーー」
この人は一体何を言ってるんだ?
「ちょっと待ってくれ。俺たちはただのパチンコ店の従業員だぞ?」
「そうですよ。それに隣国との緊張状態もありますし、これは夢おとぎ話じゃないっスかね」
そう。これは反対派がよく言う主張ではある。だが、日本と半島を繋げる構想を言い出したのは、もともと帝国軍なんだよな・・・。
「半島までではありませんよ。西と東の小島を結ぶ。すなわち、この日本と英国ブリテン島までですね」
なんだろうな、この人は。個人的な興味が出て来たぞ。
「あの~、なんでボクたちにそれを?」
キョン子が戸惑うのも無理はない。
「ヒロシさん」
「は、はあ」
「あなたのお父様からの、お達しですよ」