金回りは水回りから
「先輩、このあいだはありがとうございました」
年末に様子見に行った件だな。
「お前、ええとこのお嬢のくせにあんなんじゃ躰壊すぞ」
長年実家暮らしの若者がいざ独り暮らしを始めると、キョン子のようになるケースは多い。
「いえいえ。ボクもあれじゃいかんと性根を入れ替えましたよ」
「ホントかよ」
西本願寺先生の次回作に乞うご期待だ。
年頃のせいか、格好はちゃんとしてるんだよな。
「職場の掃除とかはちゃんとやる方なんスけど、自分のことだとどうも後回しになっちゃうみたいで~」
良いことを言ってるようだが、それじゃ駄目だ。
「ところで、なんか臭わないか?」
「ボクじゃないっスよ!」
違う違う。
「いや。なんつーか腐った臭いだな、こりゃ」
「キッチンっスかね?」
確かにそっちの方角だ。
ミニキッチンの排水口を覗く。
「うわっ、くせえ!」
ぬめりという名のスライムモンスターだ。
「ひえええ」
そういやここの掃除担当は決まってなかったな。
「キョン子、パイプユニッシュだ」
棚の下に仕舞ってある。
「これを入れればいいんスね?」
「注意点がひとつある」
キッチンはS字トラップになっているものだが、こういうミニキッチンはたいていストレートトラップになっている。そのまま投入するだけじゃなんの意味も為さない。
「ははあ。このドーナツ状の水溜まりになってる部分に入れるんスね」
そう。でなけりゃパイプユニッシュが素通りだ。この溜まっている封水と椀トラップで悪臭と害虫を防ぐ。
「臭いわけだぜ。金回りは水回りからっていうが、こういうのを放置してたら金が貯まるわけがないな」
セミナーなんかに参加するより、目の前の厄介事を処理した方がよっぽど有益だ。
20分後。多めの水で綺麗さっぱり洗い流した。
「ふう。だいぶ臭いが取れたな」
「これでゴキ減ですね!」




