005 訓練と野営
「今日はここまでだ、野営準備」
ハインケルの声がした。
「結構早いですね」
「平地はできる限りユウキ君の訓練に使う、山間部での訓練は初心者には厳しいだろう、傾斜で無理をすれば余計な怪我をする。」
「この場所では狩りに向きませんね」
「食料はある、今日位は新鮮なものが食べられる。」
「なら、狩りよりも休息重視で」
ハンターの二人がハインケルに確認をとる。馬車に乗っていた三人が降りてきた。
「さて、ユウキ殿は精霊と契約していただきたい。」
「精霊ですか?」
「そうです。契約することで、魔法を使うことができます。多くは、各国で保管している宝珠という触媒を使います。もしくは自ら手に入れた魔具を使います。ユウキ殿の場合は、精霊剣が触媒となるでしょう。」
「そうですね、最初は火の精霊でしょうか?
もし剣術が難しいならば魔術を重点に鍛えることも考えられます。攻撃に向いた精霊がいいと思います。どうでしょうか?」
「姫様、私は用途や事故の被害、安全を考慮して、ユウキ殿に水の精霊を推奨します」
「ユウキさんはどちらがよろしいでしょうか? 最初に契約した精霊が魔法に最も影響を与える核になります。」
「その、火の精霊がいいです」
ユウキは、水よりも火の魔法の方が格好いいと思った。
「分かりました、契約は触媒を通して祈りを捧げます。今回は火の精霊に力をお貸しくださいと願います。ユウキ殿は向かい合って私の動きと言葉を模倣してください。」
リリアは、二人から少し離れた。ハインケルは、ロングソードの柄を両手で持ち剣先を空に向けた。ユウキも、アゼルカイト抜きハインケルに習う。
「我願う 深き理を識る この世界に生きる朋よ 災禍を払う助けとならん ここに契約を交わす」
ユウキは、アゼルカイトから伝わる熱が強くなっていることに気づいた。すると剣身が炎を纏った。
「わっ」
「どうやら成功したようですな」
「これどうすれば……」
「そのまま軽く切りかかって来てください。」
「えっ、でも……」
「大丈夫です」
「は、はい……、行きます」
ユウキは、アゼルカイトを振り下ろした。ロングソードとぶつかって音が響く。纏っていた炎がハインケルに向かって延びる。危ないと感じてアゼルカイトを引き戻し後退した。ハインケルが炎を払うと剣身の炎も消え去った。
「今のがヒートソード、剣技魔法の一種だ。触媒が剣のため相性が良いのだろう。成功だ、おめでとう」
「ユウキさん、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます。ハインケルさん、怪我はないのですか?」
「ええ、剣も魔法も軽いものでした。これから、伸ばして行きましょう。この後は、剣の振り方と魔法剣の扱いを重点的に訓練します。」
「よろしくお願いいたします」
その後、ユウキは稽古をつづけた。ハインケルを相手にすると捌かれるものの思い切り打ち込てたが、リリアを相手にするとそれが出来なかった。リリアが素人相手なら十分な技術を持っていることは身を持って理解したが、それとこれは別問題だった。
疲れが酷くなった頃、ユウキはハインケルと交代したアイカに、魔法について教わった。ヒートソード以外の一般的な火の魔法を幾つか試して、水や空気の温度を上げるヒート、火球を放るファイアー等幾つかの魔法で及第点と言われた。
日が暮れて、疲労が限界を迎えたユウキは早々と寝込み、リリアとメイも眠りについた頃、
「勇者か……」
「本当に異世界から来たんだな、あいつ」
「魔王とはまた違った世界らしいわね、知ってることと知らないことの差が大きすぎるわ」
「12才か、そうは見えないな」
「シバスはもっと生意気だったわ」
「リッカもだろ」
「ふふ、そうね、でも勇者なんてもっと強そうな人だと思ってたたわ」
「俺もだ、魔王を倒すんだ、20や30の強くて格好いい奴を想像してたさ。剣も握ったことのないガキだなんて思わなかった。」
火の元の側で話していたシバスとリッカにアイカとハインケルが近づいて来た。
「伝承による勇者とは、元々大精霊に認められ数多の精霊に愛される存在のことよ。そういった勇者と呼ばれた者達が、世界に害を成す存在を止めた多くの逸話から強き者として一般的にイメージされている。実際は60を超えた巡礼者がある日大精霊に認められたことや、生後1年の赤子が認められた例もあったそうよ。」
「へぇ、つまり勇者と強さは関係ないってのか」
「勇者と認められることに強さは関係ない。ただ、精霊に愛されることは強くなるということよ。知っているでしょ?」
「……まあな」
「でも、今回は、魔王は別よ。10年前の大戦の後を貴女も覚えているでしょう。」
「ええ、もちろん」
「騎士も冒険者も名立たる戦士たちが亡くなった。あの後、魔王が宣言した期日まで5年しかないのよ。焦りもするわ。」
「まだ様子見の段階だ」
黙っていたハインケルが話し出した。
「性格は戦いに向いてはいないかもしれない。だが、まだ戦闘も戦場も知らないのだ。強がっていても駄目になるかもしれない、逆もまた然り。私達が望んだのは、決して強さだけではない。むしろ強さこそ後から付いてくるものだ。」
「つまり心ってことだな。明後日は山を登る。あの辺りは野生の魔獣が居るはずだ、そこで手頃な奴一つ、ユウキに相手させる。複数居るかもしれないが、リッカ、いつでもサポートできるように見ててやってくれ。」
「わかったわ」
「出来れば、折れてほしくないものだな。」
「それは私達も祈っているわ」
「さて、もういい時間だ、俺とリッカが先に見張りになる。あんた達は先に休んでくれ」
「わかった、交代時は起こしてくれ」
「お休みなさい。」
「ああ」
「お休みなさい」
二人が離れた頃。
「期待しているのは俺達だけじゃあないんだ、あのままじゃあ潰れちまうぞ」
呟きが消えて夜が更けていく。シバスは、過去に想いを馳せた。




