023 ハインバック城
数日が経ち、ユウキ達はハインバック城下に到着した。
「ここが王都ですか?」
「……そうだ。ハインバック王国王都にして、この戦争の最前線だ。」
ユウキの問いにハインケルが答えた。
「最前線……」
ユウキの眼前に広がるのは、広い大通りと人の気配の無い多くの家々だった。これまで通って来たどの街よりも活気がなかった。
「三年前、ザフ平原の中央ゾグ砦を落とされて以来、壁外に臨時の陣が張りそちらと兵力を分割しています。さらに市民は一部志願者を残し殆どは近隣の都市や町に避難しています。残されたのは無駄に広い砦ような土地だけなのです。」
ジュリウスが、不思議そうに周囲を見回すユウキに声をかけた。
「攻めて来られると苦しいため、砦を定期的に攻撃しているが、それも死傷者を限りなく少なくするために反撃の備えに重きを置いた見せかけのものだ。」
「? それは時間稼ぎということですか?」
「よくわかりましたね。そうです。これは軍団長グラドが再びこの地に現れた時、奴を殺すための戦略です。多くの兵士をここに残さなければならないなのです。」
城に近づくと、人の気配が増えてきた。
「グラドは、万を越える部下を連れてやってきます。それだけの敵を越えてグラドを討つには此方も多くの兵をが必要です。だからそれだけの兵と物資を留めておくことのできるこの王都を落とされるわけにはいかないということです。」
その後も様々な説明を受けながら城にたどり着いた。道中すれ違う兵士達がジュリウスを見て嬉しそうに声をかけていく様子から、彼が多くの人々を慕われている事がユウキに伝わった。
ジュリウスは迷わず歩き続け一室の扉を開いた。
「陛下、お伝えていた者達をお連れしました。」
陛下という一言に、ユウキ達はいきなりの謁見に緊張を露にした。
「おや、早かったねジュリウス。もっとゆっくりでもよかったのでは?」
「ですが兄上、城下の商店は引き払っていますし。観光するとしても、それこそ兄上に挨拶してからの方が宜しいでしょう。」
「言われればそうだね。」
部屋には書類の山と、ジュリウスと似た穏やかな青年と彼と共に書類に向き合う数人の騎士達だがいた。
「さて、皆少し休憩にしよう。給仕に飲み物を頼んでくれ。あなた方はそちらに掛けてください。」
騎士達が部屋を出て、ユウキ達は示された長椅子に掛けた。
「さて、既に知っているでしょうが、私がハインバック王国国王カリウスです。ニルヴァ皇国の皆様、来てくださりありがとう。」
そういえば、国王陛下の名前を始めて聞いた事にユウキは気づいた。少し周囲を見ると、仲間達もジュリウスも、わずかに顔を反らしていた。
「?」
カリウス陛下は一瞬不思議そうな表情をしたが、そのまま話を続けた。
「運がいいのか悪いのか、今ゾグ砦の魔王軍が増えているらしい。三年前の経験から、おそらく半年もしない内に魔人グラドが来て魔王軍を率いてこの城を攻めるだろう。いきなりだが、あなた方にはこの戦いに参加するのかどうかを数日の内に決めてもらいたい。」
「道中ジュリウス殿から、魔人グラドを討つのだと聞いたがどの様に?」
「ゾグ砦にグラドを確認したら駐留するほぼすべての軍を出陣させ五つの部隊に分ける。囮となる第一、第二隊がゾグ砦攻略にかかる。そして第一隊に壊滅してもらう。」
「!」
「壊滅に恐慌に陥った第二隊が全力で後退する。恐らく此方も被害は甚大になるだろう、しかしグラドは撤退を嫌う、このように逃げる者達を許さない。必ず自ら軍を率いて追いかけてくる。」
「何故そこまで確信を持っているのですか?」
「三年前と七年前の二度の敗北で、奴は執拗に真っ先に逃走する部隊を壊滅させ続けた。経験によるものです。だからこそグラドを討つという作戦を立てたのです。」
「でも、被害が……」
「来る決戦に奴が居ればより多くの犠牲が出る。だから叩ける内に叩く。その日を越える可能性を少しでも上げるために。分かりますよね?」
「……」
ハインケルは、カリウスが国王なのだということを強く実感した。十年前前に散った多くの国主達のように。それは今と未来の天秤に多くの命を乗せた決断なのだと。
「続けます。十分に砦から引き離した後、主力の精鋭を含んだ第三、第四隊、そして第二隊生存者による挟撃を行います。」
「遮るものの少ない平原だぞ、挟撃なんて……」
「今までの攻撃ついでに工兵が、作業していた。タイミングは、難しいし露見する可能性もあるが、実行可能だ。最後に、第五隊がゾグ砦に残留した部隊の足止めを行う。グラドを倒した後、撤退となる。以上がグラド討伐の流れだ。参加するとしたら三隊、四隊になると思ってくれ。」
「「「「「「……」」」」」」
ハインバック城に着いていきなりの話で、誰もが言葉を失った。
ユウキは、タカトット襲撃を思い出した。あの時以上の死が待ち受けている。しかし魔王を倒せなければこの世界全てに、死が溢れるのだとという。魔人グラド、それがどれ程の脅威なのかユウキは想像できなかった。




