021 リッカとシバス
リリアは街に出てリッカと三人になれる時間を見て話しかけた。
「あの、相談したいことがあるのです。」
「いいわよ。大事な話なら立ち話でなく、あちらのお店で如何かしら?」
リッカは注文したケーキが届いても、一向に話し出せないリリアの背を押すように話しかける。
「王弟殿下から何か言われたの?」
「!?」
リリアの顔が朱くなったことから、リッカは話の内容が想像できた。
「婚約の話でもされたのかしら?」
「あ、あ、うう」
リリアが頭を抱える。何も言わない主人に代わってメイが話した。
「姫様、ハッキリ言われた。妻になってと。」
「そこまで……、凄いわね。 」
リッカが思うより直球だった。好意があってもその手の言葉はユウキは何も言って来なかったはずだ。つまりリリアは、かなり衝撃を受けただろうと考えた。リリアの様子はハインケルの言った教育の結果であると感じた。
「彼、いくつだったかしら? 16?17?」
「16です。」
「年齢、身分、容姿どれも釣り合っているわね。驚きだけど、とてもお似合いよ。」
「そうなんですよ~、そうなんですけど~」
「嫌というわけではないのよね?」
「初対面のそれも危ない所を助けてくれた相手を嫌いなれるわけないじゃないですか。」
「結婚する?」
「それは……、何か違うのです。」
リリアの様子から恋愛的好意をジュリウスに抱いていないことをリッカは確認した。
「そもそも私は……」
リリアはもごもごと、リッカに聞こえない位小さく何かを言うと、顔を上げた。
「リッカはどうして、シバスとけ、結婚したんですか?」
個人的に話を聞かれた時点でこの話題を予想していたリッカは動じることなく、話し出した。、
「一番大きいのは、彼が強かったからね。」
「強さですか?」
「私達は施設で育ったの、いつまでも保護されているだけでは居られないわ、だから様々な所に働きに出るの。職人や商人に弟子入りしたり、お城や教会に勤めたり、様々な選択肢がある中一定数の人気があるのがハンターなのよ。そして私達も物語のような冒険譚に憧れていた。そんな子供だった。いくら危険だと伝えても、無謀な好奇心は止められない、毎年何人か出る死者で一番多いのがハンター希望者の事故なのよ。」
「そうですね、司祭から聞いたことがあります。司祭担当の講義と重なった場合、司祭が来られないため別の学習や祈りの時間に変わったことを覚えています。」
「私も……」
リッカには、同じく話を聞いていたメイが、心なしか落ち込んでいるように見えた。
「ハンターの演習として、壁外での薬草採取、田畑を荒らす小動物の追い出しや狩猟、憧れと遠い自分達に希望者は日々減っていく。最終的に6人まで減ったある日、ついに山林の魔獣退治の見学が行われたの。兎や狐等小型の魔獣を引率のC級ハンターのパーティーが倒すのを見学する、そんな内容だった。だけど大熊の魔獣に見つかってしまったの。」
「たしかB級パーティー推奨でしたか?」
「そうよ、でもおそらく彼らだけなら逃げられた、だけど子供達をつれては逃げきれなかったの。大熊は囮となったハンター達を、殺しながら追いかけてきた。最後まで一緒にいたヒーラーの女性も深傷を負い、転んで逃げ遅れたへインとマヤが殺された。」
話の流れと、強まった言葉から子供達にも犠牲が出たのだと
「弱い子供だけだと油断した大熊にいつの間にか居なくなったシバスが背後からナイフを突き立てたの。怒り狂った大熊を翻弄しながら戦ったけど、子供の力では致命傷はおせられなかった。私は諦めとわずかな希望の中でただ彼を見ていたわ。」
経験の少ない少年が単身大熊に挑みかかる事、リリアは無謀だと感じたが、挑まなければ助かることも無かったのだと思った。
「頑張ったけど、疲れと足場の悪さでシバスが足を挫いて転んでしまったの、大熊はシバスを追い詰めた。けれど、シバスは身を起こし刃先を向けた。何処までも諦めが悪かったの。睨み合って、襲い掛かるその時、一本の矢が右目から頭を貫いたの。」
唐突に出てきた大熊の致命傷に、リリアは少し混乱した。
「ハンターの生き残り、後衛の彼は仲間が死んで、大熊から離れたの。逆に子供達を囮にして大熊の意識から消えて、シバスに大きく意識が向かった所で致命になる点を狙ったそうよ。彼はヒーラーに応急手当てをして、足を挫いたシバスを私達に背負わせると平原に向けて移動したわ。森の浅い所だから、日が沈む前に出られたけど、そんな場所で、大熊に出会ったのだから運が悪すぎたわね。」
でもそれは、よくある事故の一例でしかないのだとリッカは言った。
「救助と回収に来た、騎士団員に連れられて帰ると大騒ぎだったわ。悲惨な現場を一緒に見たモイとエルバーは翌日には志望を変えた。でもシバスは当然のようにハンターに成りたがった。死にかけても変わらずに。英雄に、主人公に成りたいって。たとえ一人でも進めてしまう強さを持ってた。」
シバスがA級に上がったのは7年前。まだ若手と言える頃にそこまでたどり着いた者は、決して多くない。
「だからね、きっとすぐ死んじゃうって思ったの。そして、いつか『あいつ死んだんだってな』とか人伝に聞くだけなんて耐えられないって思った。死なせたくないって。」
「それが理由ですか?」
「うん、強いから一人にしたくなかったの。」
リッカの語りは終わった。
「こうしたら良いなんて言えないけど、まだ時間はあるから、ゆっくり悩みなさい。」
デザートの甘さにリリアは逃避することにした。
「たぶんシバスはね、ユウキに昔の自分を重ねているの。勇者という肩書きに見合うよう努力する彼を、昔の英雄という幻を見上げていた頃の自分に。」




