002 聖女リリア
ユウキ、リリア、侍女、メイドそして騎士三人の計,,人が最初に向かったのは書庫であった。
「こちらが、ニルヴァ皇国本城内の公開図書庫になります。皇城で働く者たちに対する説明用、学習用の書が保管されております。町にある図書館には娯楽用もございますが残念ながらこちらにはございません。」
リリアはそう言って書庫に入られて、管理人らしき騎士に一言断って一冊の本を持ち出した。
「こちらが、皇城で働き始める騎士たちに渡される本になります。今夜読んでいただければと思いました。」
「ありがとうございます。」
勉強は苦手ではないが教科書より厚い本にユウキの顔が少しひきつった。
次に案内されたのは。客室という自分が泊まる部屋であった。
「こちらがユウキ様に過ごしていただく部屋になります、とは申しましたがここで過ごされるのは2、3日程になるでしょう。」
「2、3日でですか?」
「ええ、もし帰られるのであれば、それこそ今日だけでしょうし、帰られないとしても旅立たなければなりません。」
「そんなに早くですか!」
「そうです。修行も勉強も旅の最中に行って頂きます。魔王軍と互角に戦えていますが、だからこそ魔王という最強が戦場に出てきたら戦況は急激に敗北に傾きます。残念ながら魔王が動き出してしまえばこの世界は終わりなのです。」
「つまりそんな魔王に勝つくらい強くならなければいけないのですか?」
「そうだとも、違うとも言えます。勇者様は精霊に認められたなら、私たちとは比べられない程強い加護を賜ることが出来ると伝えられています。その加護が強大な外敵と戦うために必要なのです。そして、断じて一人で戦う必要はありません。私を含めて何人かで魔王一人と戦う場を作り上げるのが理想になります。」
「リリア様も行かれるのですか!?」
「そうです、だからこそこうして一緒に過ごしているのです。ユウキ様が覚悟を決めたなら共に戦う仲間として旅をするのですから。」
魔王と戦う仲間として、そう語る自分と変わらない年頃の可愛く綺麗なリリアの顔を、ユウキは見つめることが出来なかった。
訓練所、広間、護衛の詰所等を回って、ユウキは客室に戻って来た。リリアと別れた後、夕食を食べるためメイドさん達に着替えさせられて、食堂に案内された。
十数人が座れるテーブルには、アルバート、リリア、ノールの他、もう一人が座っていて、アルバートの背後には騎士団長が控えていた。ユウキが案内された席に座ると、料理が運ばれて晩餐が始まった。
「さて、ユウキ殿が正式に勇者となるかどうかは明日返答を聞くとして、覚悟を決めた後の事を話そう。
娘から聞いているかもしれないが、何も一人で戦わせる訳ではない。何人か伴をつける、明日紹介するので、その者たちから知識と経験を身につけてもらう。
旅の目的地は、とりあえずハインバック城、魔王軍との最前線を目指してもらう。そこで共に戦う仲間を見つけ新たな目的を探してほしい。」
「新たな目的ですか?」
「そうだ、今私が全てを決めたとして事態は刻一刻と変化していく、つまり現場の判断で動く事が求められる。最終的な目的は打倒魔王になるが、それまでは仲間たちの意見を聞いて、その場その場の判断をしてもらう。」
「僕が決める」
「そうだ、自分で考えて動かなければ、魔王に挑み勝つことは出来ない。一晩考えて明日の朝、教えてほしい。」
「分かりました。」
冒険がしてみたい、お伽噺のような世界でなにも知らないからこそ。両親に何も伝えていない、でも帰ってしまったら戻ってくることは出来ない。ユウキは美味しいと感じる晩餐に浸ることは出来なかった。
晩餐と風呂が終わって客室に戻ってきた。
帰りたければ帰れる。残りたい。そう思うのにどこか苦しい。ユウキは、おもむろに書庫から借りてきた本を手に取り開いた。どうやら歴史書のようだ。目的は、今までの歴史を知って、これからを守る仕事なのだということを伝えたいらしい。
創世記、三大精霊、生存戦争、三国興隆……、魔王決戦。
目次を見ていくと、魔王とつく題が見つかった、そこから読み始める。
『12年前に突如として現れた魔王軍、彼らは異世界から侵略に来たと宣言し、メルベーク国を滅ぼした。
苛烈な殺戮が行われ、何とか逃げ延びた人々の情報から世界中の勇士を集め短期決戦を挑んだ。
しかし、最初は互角であった戦況は1日で急変した、魔王と称する異界の者が戦場に現れたのだ。2メルから4メルの魔人達より大きい7メルの大男が鋼で傷つけられない皮膚で戦意を挫き、大盾を貫く拳によって恐怖を煽る、主力が魔王に敗れ、魔王が戦場を去った後も多くの戦士が魔人達に殺された。
以来、魔王が戦場に現れたことはない、現れるのはこの世界が終わるときだろう。……』
ノストラダムスの予言の恐怖の大王が本当に現れたようなものだろうか、ゲームのように力尽きて目覚める教会もないだろう。喧嘩して殴られた時より痛いこともあるだろう、悩んでも答えがでないまま、いつの間にか眠りに落ちていた。
翌朝、早くに起こされたユウキは中庭に呼び出された。
「おはようユウキ殿、昨日はよく休めたか?」
「おはようございます。気がつけば朝になっていました」
「よく悩まれたようだが、決まったのか?」
ユウキは、うつむき何も答えられなかった。
「そうか、だがもう決めてもらわなければならない、私たちも覚悟の無い者を頼ることは出来ないのだから」
ここに残って刺激的冒険をしてみたい、だけど迷っている、言葉がでない、正直怖いとも思っている、残ると答えるための何かがほしい。
「おはようございます、お父様、それからユウキ様」
後方から、昨日も聞いた声がした。
「おはようリリア、今日も可愛いよ」
アルバートが、リリアに挨拶を返した。ユウキが振り返って、彼女を見た。
昨日はドレスだったお姫様は、整えられた軽装をしていた。彼女は勇者と魔王を倒す旅をする戦士なのだと理解した。朝日に映える髪と毅然とした表情、緊張と覚悟と僅かな不安を感じさせる彼女から昨日とは違い目を離すことができなかった。
「おはようございます」
「はい、ユウキ様」
リリアが微笑む。
「それで、その、ユウキ様は、私たちの勇者となっていただけるのでしょうか?」
「……はい」
リリアのための勇者になる。テレビの中のアイドルに憧れるように、ユウキはリリアに惹かれていた。




