019 王弟ジュリウス
気力で立っていたユウキは、ララシータに向けた剣を空振りそのまま気を失って倒れた。突然の魔法にララシータが去ったためシバスがすぐにユウキに駆け寄る。
そこにハインバック軍の制服を着た一団が現れた。先頭の騎士が声をかける。
「そこの者達大丈夫か!」
ハインケルが返す。
「無事とは言いきれないが、どうしてハインバック軍がここまで?」
「最近後方での被害が急激に増えてきている。そのため国内の潜入者をより一層発見と殲滅をすべしと多数の部隊が活動しているのだ。そして生きているようでなにより」
ハインケルは、鎧から相手が隊長と判断して情報の共有を進めようとした。そのときハインバック軍の一団から、鎧ではなく服を着た貴族然とした少年が出てきて、アイカの治療を進めるリリアの側に近寄った。
「あちらの少年は?」
「その……、ジュリウス様です。」
ハインケルは驚いた。
「彼がジュリウス殿下ですか。」
「はい。」
ジュリウスは、リリアに近寄ったが、治療の最中であるために声をかけることもせず、ただ見守っていた。
「とりあえず、話を進めましょう。私を含め無傷の者は居ません。いつまた襲撃があるか分かりませんしアイカが無事ならば早めに移動したいです。」
「そうですね、先程数人の獣人を倒しましたが、他にも居るかもしれませんし、重傷者は安全な場所まで移送したいです。ラズバートに向かいましょう。馬車もお任せください。」
「よろしく頼む。」
ララシータが本当に去ったのか、未だにエルフが潜んでいるのではないか。ハインケルは一層警戒を続けていた。ララシータという強敵は彼に大きな不安を与えていた。
リリアの治療ぎ終わり荷台で眠っているユウキとアイカには、シバスとリッカが付きっきりで様子を見ていた。ハインバック軍隊長レオニルの薦めでハインケルは、リリアと共に馬車に乗っていたが、そこにジュリウスも乗ってきた。車内の沈黙を破ったのは、ハインケルであった。
「ジュリウス殿下、私はハインケルと申します。お訊きしたいのですが、その……何故こちらにいらっしゃるのですか?」
「私は、馬に乗ってきたからね。折角馬車があるのに、他の者と同じようにわざわざ外に居るのはおかしいと思わないかい。」
ハインケルは、身分を名乗っていないため、同乗ではなく追い出すことも選択肢があったのにも拘わらず、自分に続いて何事もないように乗ってきた事には訳があるはずだと考えていた。
「それだけでしょうか?」
「……」
ジュリウスは、尚も見つめてくるハインケルに負けたように、一息ついてリリアの方を見た。立ち上がり、リリアに手を差し出し跪く。
「美しいお嬢さん。仲間を思い直向きに癒しを続けるあなたに、一目見て私は惹かれてしまいました。私の妻になって頂けないでしょうか?」
「?」「「!!」」
リリアは何を言われたのか一瞬理解を拒んだ。差し出された手と、向けられた眼差しが、通り過ぎた言葉を思い出させる。リリアは顔が赤くなって来るのを感じた。
「え? え?」
ハインケルとメイも急展開に考えが付いていかなかった。ジュリウスは、姿勢を解き椅子に座り直した。
「今のは7割本気です。タカトットから連絡を受けているので、貴女方がリリア皇女とその護衛の一団であることは知っています。そしてリリアさんに惹かれているのも本当です。ですが、私達はまず魔王を倒さなければ未来がない。それまでに色好い返事を頂きたいです。先程のは非公式なので、正式に行いたいと考えています。」
ハインケルは焦っていた。リリアは皇女である。彼女に釣り合う相手は数少ない、その一人である勇者(想像)との恋愛は想定していたが、これ程早く、しかも唐突に相応の人物が結婚を申し込むということは想定外だった。
以降、ジュリウスは戦況から世間話まで様々な話題を提供したが、車内の雰囲気が落ち着くことはなかった。




