015 ここは異世界。
怪我人、死人、崩壊した町並み、死んだ人、死ぬ人、殺す人、殺される人。ユウキは戦争という言葉を実感した。魔獣と違う殺しにくる相手がいた。剣を持つことには慣れた、虫や獣も殺した。ユウキはまだ、『人』を殺せなかった。
ハインケル達は庁舎の一室に集まっていた。
「つまり、坊主は俺が格好良く送り出したのにだ、なんの活躍も出来なかったと。」
「……」
「シバス。」
「……まあ、必要に駆られて虫や魔獣を倒すのとは訳が違うか。」
「ユウキ君をこのまま、戦場まで連れていっていいのかしらね?」
「目の前で敵が死ぬ度に、ああも呆然としてられたら、彼が死んでしまいそうです。」
「少しここで時間を使おう。被害の復興の手伝いをすれば気が紛れるだろう。」
「そんな問題でもないが、折り合いをつけてもらうしかないか。姫様はユウキの側に居るんだよな。そっちに期待しておくか?」
大人達はタカトットに残ると提案することに決めた。
「ユウキさん。大丈夫ですか?」
リリアはユウキを庁舎の一室に連れてきて、改めて声をかけた。
「大丈夫? だよ。うん。」
「……良かったです。」
それから二人は、言葉をだすことなく静かに時が過ぎた。
「ねぇ、リリア。リリアは、敵を殺した事があるの?」
止まっていた時が、唐突に動き出した。ユウキは窓の外を眺めながら言葉を発した。リリアは、気負いも焦りもなく、普段の通りに言葉を返した。
「魔獣を殺したことはありますよ。でも、魔王軍という意味ならありません。ニルヴァは戦場から離れていますから。あそこまで来たことはありません。今日だって、治療ばかりで私は剣を振るいませんでした。」
そこで、言葉が止まる。ユウキは何も返さない。リリアは、言葉を続けた。
「ですが、治療できるのにしなかった。これは殺したといっても過言ではないのでしょう。もし彼らを治療したとして、殺しに来て、そしてまたきっと死ぬまで戦うのに。」
「だとしたら、僕は……」
リリアは窓に写ったユウキの表情が、とても不安定な状態に見えた。
「ユウキさん。苦しいですか?」
「……」
「私達があなたに苦しい思いをさせているのです。ですから……」
「……言わなくていい。」
「……」
「ごめん、でも、もう少し甘えてもいいかな?」
「甘えてなんて、甘えているのは私達の方になるのです。出来ないことを代わりにしていただこうとしているのですから。」
「……そうかもしれない。けど、それでも……」
二人は再び黙してしまった。リリアがユウキの手をゆっくりと握った。
「よろしいのですか?」
「ごめん。」
「いいえ、それが……それも私達の弱さなのです。」
しばらく後、扉の外からノックされた。
「姫様、そろそろお休みになりましょう。」
「はい、ユウキさんもお休みになりますか?」
「いや、もう少しだけ。こうしているよ。」
「そうですか」
リリアはユウキの手を離し、扉のノブに手を掛けた。
「良い夜を。おやすみなさい。」
「うん、おやすみなさい。」
ユウキはただ、空を見つめていた。




