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9・派閥を取り込むって話になったよ

「ねえ、私たちも出て行こうよ」


 そう声を上げたのは柏木だった。


 しかし、そこに大池が待ったをかける。


「ちょっと待ってくれ、俺たちはこのまま冒険者活動は無理だ」


 何が無理なのかと柏木以外も疑問の顔を大池に向ける。


「赤石や白川たちが出て行ったから俺たちもって動機だろう?」


 そんな僕らに大池はそういう。


「大池も言ってただろう。私たちがクラスの最大火力だって」


 楠がそう口にした。


「そう、だから問題がある」


 と、説明を始める。


 まず、赤石たち優等生グループの主戦力は3人。他の5人はいわば取り巻きだという。白川たちヤンキーグループはさらに顕著で、ヤンキー3人と子分に陽キャ4人の混成。

「対して俺たちだが、高鉢は射程が長すぎる関係で専属スポッター、要するに索敵支援や連絡係が必要になる。それを遠話が出来る俺がやる」


 そういって、見回す。


「で、千葉が梶、楠、栗原の斥候と遊撃を担う。言っちゃ悪いが、梶、楠は燃費が悪いから柏木の支援なしには継戦が期待できない」


 そこまで聞いてムスッとする楠が何か言おうとするが、大池はそれを遮る。


「俺たち7人は主力ばかりが集まっている。赤石や白川はゲームやアニメのパーティ枠の3~5人で本来完結する編成に取り巻き付きなんだよ、それを俺たちと同じに考えるのは良くない。俺たちにはあいつ等の取り巻きにあたる兵站が存在しない」


 平坦?それって何だろうか。


「高鉢、補給部隊だ。ラノベでいえばポーターな」


 と、教えてくれた。


 ただ、大池曰く、赤石や白川たちがそこまで考えているかどうか分からないし、数日で2、3のパーティに分裂しているかもしれないとも言っている。


「空間魔法や魔法袋なんてない事はヘイノさんやフレヤさんに聞いているだろう?このメンツでポーターや支援員無しはキツイ」


 確かに、ラノベやゲームと違う。山や森に入る場合には現状では皆が数十キロの荷物を背負っていかないと冒険も討伐も無理らしい。


「討伐には教会の軍隊も出るって言ってたけど?」


 という栗原の疑問は確かにそうだと思う。


「それは氾濫の時にはって話さ。それまでの実戦経験をどうすんだ?毎日日帰りなんて無理な事は聞いたよな?」


 そう、僕らが安易に出て行けなかったのは、冒険の実情を聞いたからだ。赤石や白川たちはそこまで詳しく聞いていない。ゲームやラノベの感覚で出ていった可能性が高いのは僕にも分かる。

 現実の冒険者のクエストと言えば、ギルドに依頼されたモノを受領して依頼人のところへと向かう。その日現地につくかどうかという話だ。現地まで数日かかる事もあるという。

 さらにそこから実地調査や討伐計画を立てることになるので、モンスターがポップする草原やダンジョンへ気軽に出向いて狩れば済むというお話では無かった。


「ああ、狩りの仕事なら獣探しから始めて罠を仕掛けるなり追い立てるなり、そこそこ時間と手間がかかるもんな」


 と、千葉が続ける。


「それな。勇者召喚つう割に、ステータスボードも無けりゃあ、ダンジョンも無い。獣が魔法を身につけただけの魔獣。恐竜の代わりに大蛇や竜やオーガが居るという、まあ、現実に寄り添った異世界だからな。氾濫までの事もそうだし、氾濫後の事も考えないとな」


 と、いやに現実的な大池。


「氾濫を収めれば帰れるのか?」


 という梶の疑問に答えるのは僕の役割だろう。


「それは無理だと思う。伝説の勇者は源為朝らしい。氾濫鎮定後に国を建てたって話だし、その後の勇者は織田信長。こちらも同様の話がある。為朝の国はもうないらしいけど、信長の国は神聖国ってのがその末裔らしい。最近だと旧日本軍が召喚されて全滅してる。為朝は自害したという話だけど生存説がある人物だし、信長の遺体は見つかっていない。日本軍が何処の部隊かまでは分からなかったけど。帰還例は無いとみて良いと思うよ」


 それを聞いたみんなの反応は様々だ。途方に暮れる梶、なぜか僕を睨む楠、分かってましたって感じの大池と千葉。我関せずにニヤつく柏木と栗原。いや、おふたりさん、何が楽しいの?


「じゃあ、赤石たちも知ってるよな?それ」


 という梶。


「どうだろうね。下手したら特別に返してくれるってエサに釣られて飛び出したのかもよ?」


 という柏木。


「白川たちなら領地やハーレムってエサで喜びそうだな」


 と、続ける千葉。


「そこでだ。ここにもうしばらく残ってモブたちとコミュニケーションとって、兵站要員を確保する。あと、生産系が居るならそっちも話をつけよう。どうせ帰れないんなら、氾濫討伐後の身の振り方も考えないとな。俺は冒険者を続けるのが希望だ」


 と、まず名乗り出る大池。千葉も賛同している。


「あんたらポジティブ過ぎない?異世界に取り残されるんでしょ、私たち」


 と、ふくれっ面の楠。


「討伐終わったら高鉢のポーターやればいいじゃん。楠は水、高鉢は風。青鎧のお揃いだし?」


 と、柏木が茶化すから余計に楠が怒り出す。


「冒険者はちょっと。そうだ、高鉢、どこかの町兵やらない?」


 と、誘ってくる栗原。


「めい!勝手に高鉢の進路を決めんな!」


 と、ヒートアップする楠。


 でも、討伐後どうするかなんて想像つかないや。それ以前に冒険者活動自体がまだ想像の外だしね。


 そんな事を話し合ってから1週間ほどかけてモブグループとコンタクトを取り、勇者云々に付いて行けないという4人を教会に残し、6人をモブグループとして僕らとのクランという形で教会を出ることになった。


 

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