7・もはや弓という範疇を越えちゃってないか?
どうやら昔から日本人はこの世界へと勇者召喚されてきていたという衝撃の話を聞いてしまったが、さて、本題だ。
「昔の事は分かった。で、これがお前の弓だ。ソイツの機構を風竜の素材でほぼ再現している。ソイツで疑問のあった部分も俺なりに改善してやった」
そう言ってドワーフが青い弓を渡してきた。
「それと、これが右手のソイツの替わりだ」
そういって、青いリリーサーを渡される。しかし、少し大きいな、これ。
「反対に握って念じてみろ」
そう言われたとおりにやると、少し反りのある片刃の刀が現れた。
「風竜の息吹だと・・・・・・」
それに驚いたのは脳筋エルフだった。
「正確には牙だ。耳長」
それは風竜というドラゴンが持つ伸縮式の牙であるらしい。しかも透明で殆ど見えない為、息吹という名称で呼ばれているんだとか。
弓を持ち、リリーサーを掛けて矢を生成する。そして引いていく。
んん?かなり軽い気がするけど、大丈夫か?こんなんで。
そして、お、より鮮明に風の流れが分かるようになった。矢の軌道はより直線的に飛ばせるらしいハッキリした軌道を描く。
ドウン
「あれ?」
手前の振り子が一撃で吹き飛んだ。え?なにこれ。軽かったよ?
すると、ドワーフが笑い出し、脳筋エルフは唖然としている。
「ハッハッハ!!どうだ!伝説のチンゼーハチローの弓を再現してやったぜ」
ドヤ顔である。
「おい、弓はもっと強くできるが、その布切れじゃあ、放った衝撃で千切れ飛ぶぞ。強くしたいならこいつを着るんだ」
そう言って青い鎧を指さすドワーフ。
そう言われ手に取ったソレは甲冑で間違いなく、当世具足と大鎧の機能をそれぞれ併せ持つような鎧に見える。
大型の袖は大鎧系の特徴を持って居るけれど、草摺りなどの下半身保護は当世具足譲り。
それらを紐ではなくドワーフ曰く弓の弦同様の龍の髭を編んだ紐だそうで、ほぼ切れる事のない強靭さを持つんだとか。
そして、兜は何故かテッパチベースの小型。うん、ちょっと色々バランスがね?
それを着込み、ドワーフの指示通りに引く強さを引き上げる。
「おい、耳長、少し下がれ」
ドワーフがそう言ってエルフを僕から遠ざける。何故に?
そんな事を思って矢を生成して引いてみる。うん、ものすごく重い。しかし、引けない事は無いし、引ききってしまうと軽くなるコンパウンドボウの機能は健在だ。あの短時間見ただけで理解してしまうドワーフって恐ろしいな。
次は最奥の的を狙ってみる。
あれ?あの距離なのに直線的な軌道が現れたのはなぜ?
矢を放つとドカンという衝撃波が襲って来た。
何?何が起きた?
ドウン
そんな混乱している所へ轟音が響く。音のした方を見ると、最奥の的を吹き飛ばし、あれ?壁も無くなってないかな?あれ・・・・・・
恐る恐るドワーフとエルフを見る。
満足そうなドワーフ。もはや現実逃避に走ろうとしていることが分かるエルフ。
当然、先に立ち直ったのはドワーフだった。
「ま、チンゼーハチローの弓には少し足りなさそうだが、威力は十分だな!!」
そう言って、笑う。
「こんなチビが私を超える・・・だと?」
意思次第で強さを変更できるので初期の位置へと変更して再度矢を放つ。
最奥の一つ手前の的が弾け飛んだ。もはや弓という範疇を越えちゃってないか?これは・・・・・・
「信長の求めたモノを衰退させた威力って、こういう事?」
そう、ドワーフに聞いてみたが、首を横に振った。
「いや、お前が持ち込んだ弓がはじめてだ。ソイツの構造を使えばエルフ弓並みの射程を普通の弓士に求めることも出来るが、矢生成で得られる威力は流石に無理だ。その威力は風精霊の加護と風竜の魔道具が合わさってはじめて実現する。これでお前は千年ぶりの勇者となった訳だ」
真剣にそう言って来るが、残念ながら、僕には為朝のような剣術は無理だ。
「そこは前衛職の連中に期待するか。テンノーバンザーの連中が持ち込んだマンテツトーという剣やチンゼーハチローの剣を超えるシロモノは普通は無理だ。戦士連中の誰かが精霊の加護を受ければ、お前のように化ける可能性もあるんだが」
というドワーフ。
さらにこの鎧と弓の効果について教えてもらったが、魔力の補正までしてくれるという。
そして、より一般向けに僕のコンパウンドボウを更に、ドワーフに分かる限りの説明をして普通の弓や魔弓が高性能になる様に協力していると、あの三人組エルフがやって来た。
「射場の壁が壊れたっていうから来て見たんだけど、何やってるんだ?」
そう言って入ってきて、僕を見て目を丸くしている。
「え?風竜の鎧?」
そう言って寄って来たエルフ女性が僕を見るなり叫ぶ。
「可愛い!!」
いや、なに、この状況で叫ぶとこがそこ?
ドワーフも彼らに気付いた。
「おう、お前らも風竜を狩ったら作ってやるぞ。お前らなら狩れん事は無いだろ」
とか言っている。
「氾濫が収まれば考える!」
弓を見た女性エルフが即答した。
「ほれ、ドワーフ弓の時代だな。エルフ弓とドワーフ弓にはそれぞれ一長一短があるが、これで逆転だ」
そう言うドワーフ。
「威力を誰でも出せるというのは考え物だとおもうがね」
という男性エルフ。
「精霊の加護だけでこの威力は無理だ。チビの潜在力だな、これは」
再起動した脳筋エルフがそんな事を言う。
そんな事は無いと思うんだけどなぁ。
さて、それでは念願の収納によって弓を消してみようと色々試してみると手から弓が消えた。しかし、なぜか背中に重さを感じる。
「自分で見つけたか。その弓と鎧は同じ素材で出来ているからな、エルフが衣服と同化させるように、その弓も鎧に装着出来るようにしている」
と、ドワーフが説明してくれた。エルフは衣服に同化させてたのか、アレ。そして、僕の鎧に関しては、装備する仕様らしい。まあ、その方が鎧らしくていいけどね。
そして、僕が片手剣を持つことを聞いた三人組エルフが剣術の指導者に話を通すから剣についても基礎を学んだ方が良いと提案してきた。
「何だ?私では教えられないとでも?」
と、脳筋エルフが抗議するが、「基礎は我流ではなく、剣術指導を受けた方が良いからだ」と、上手く説明してくれた。
うん、脳筋エルフが教えるなんてまず無理だもんね。