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5・我らがアイドルのセクハラだぁ~

 虎さんのエスコートのもと宿舎へ向かっていると、別の建物から現れた一団と出くわした。


「あれ?高鉢じゃん」


 僕に気が付いて声を掛けて来たのは柏木まりか。クラスの陽キャグループの一人だ。


「柏木」


 先導者を見ると魔法師だろうか?


「アンタ一人?虎さんカッコいいね!」


 と、こっちへやって来た。虎さんは宿舎付きの執事であることを説明すると喜んでいる。


「めっちゃ渋い声じゃん、イケオジもアリだね」


 と嬉しそうだ。


「それで、高鉢は何スキル?」


 と聞かれたので弓であることを伝え、早々に脳筋エルフに加護を与えられたと話した。


「うっそ、もう加護なんて付与されてるとか勝ち組だねぇ。私らなんてまだようやく攻撃と治癒の適性分けが終ったとこだよ。私は治癒術師(ヒーラー)だって、どうよ、聖女まりかは!」


 押しが強いが悪い奴ではない。が、その状況を快く思わない奴も中には居る訳で。指導者が驚いた顔で僕を見たが、何も言わない。やはり、あの脳筋エルフはめんどくさいのかな?


「高鉢は良いよな。俺なんか水魔法らしいが、まだ何も出来てねぇぞ」


 合流してきた男が言ってふてきされている。


「チャン直が魔法とかそっちが不思議だけどねぇ」


 と、同じ陽キャな柏木がからかう。


 そうこうしているうちに宿舎へと到着し、虎さんによるシブい案内と共に中へと入る。指導者は虎さんに挨拶して離れていった。


「加藤、クリーンかけてあげるよ」


 ちょっと汗をかいているチャン直こと加藤直也にそう言ってクリーンを掛ける。


「高鉢ぃ~、君のファンは女子ばかりじゃないからねぇ~?特にチャン直は危ない!」


 と、柏木がやって来た。


「バカ言うな。俺が男好きな訳がない!」


 と、まるで説得力の無い赤ら顔でいう加藤。今後は警戒しておこう。


 どうやらヒーラー、風魔法使いがクリーンを使えることから、続々戻ってくるメンツに属性を聞きながらクリーンを掛けていく僕ら。そして、新たに一人クリーンが使えるメンツが増えた。


「楠、クリーン」


 汗だくなスポーツ女子にクリーンを掛けるとなぜか怒鳴られた。


「このドスケベ!何やってんだ」


 そう言って、楠沙織が怒るのだが、まぜっかえす奴もいる。


「沙織ぃ~、分かりやすいよ?」


 ニヤニヤそう言う長身女子の栗原めい。


「栗原も、クリーン」


 彼女にクリーンを掛けると、なぜか抱きしめられた。


「これは沙織が怒るの分かる。我らがアイドル高鉢のセクハラだぁ~」


 いや、えっと・・・・・・


「めい!アンタのそういうところが高鉢を付けがらせるんだよ、自覚しろ、自覚!」


 さらにヒートアップする楠だが、栗原は僕から離れてさらにニヤニヤである。何なの?一体・・・・・・


「梶、お前も汗臭そうだな。クリーン」


 剣道部の梶と薙刀部の楠、さらにバスケ部の栗原と、みんな前衛職らしい。戦士とタンク?だって。


 ワイワイ騒がしくなるホールにクラスメートがどんどん揃っていく。


「おい、誰かヒーラーは居ないか?」


 そう言ってあのボクサーがヤンキーを担いで現れた。


「ハイハイ、ヒーラーです」


 柏木が元気にヤンキーたちにヒールを掛けるが、治りはイマイチである。


 見ていると、猫獣人メイドが駆けつけてヒールを掛けるとみるみる治っていった。


「スッゲェ!」


 柏木も驚く技術。どうやらあの獣人も魔法使いであるらしい。


 だが、さらに驚いたのは回復したヤンキー三人に絡まれて軽くあしらうその体術だろう。


「ヒーラーのフレヤと申します」


 猫獣人メイド、実は現役冒険者のヒーラーであるらしい。もちろん、護身程度には戦闘もこなす以上、今の僕らでは太刀打ちできない訳だ。という事は、虎さんも・・・・・・


 どうやら二人とも黄金級冒険者という、現役では最高クラスであるらしい。僕以外のクラスメートは各々指導者から勇者が戦うべき相手について説明を受けたらしく、皆納得している。知らないのは僕ばかりか・・・・・・


 皆が揃った辺りでどうやら外も暗くなってきた。


 異世界初日のディナーはファンタジー肉などと言う事は無く、ギルドのメニューに準じた魔物ベーコンと薬草をベースにしたスープ。ちょっと硬めの黒パン。そして、


「こ、これがファンタジー名物オーク肉のステーキか・・・・・・」


 脂身の少ないちょっと硬めのステーキである。


 それらを食べて騒ぐ暇なく大半のクラスメートがバタンキューである。きっと疲れてるんだろうな。


 僕は少し起きていた。残っているのは柏木の陽キャグループが3人、メイドさんにあれこれ聞いている。そして、虎さんの周りにも楠や梶など体育会系数人の前衛職が話をしている。


 弓使いとか後衛職が居ないので僕はポツンとひとり。


 さて、寝に行こうかと思ったら、虎さんに声を掛けられた。


「後衛の要になるのが彼のような弓士です。風精霊の加護を既に付与されているので、その制圧力はエルフ弓隊と同等と言って良いでしょう。今日見た彼の腕前は、エルフに劣るものではありませんでした。彼のような頼りになる後衛を迎え入れることが皆さんにも必要です」


 と、なぜか褒められているが、なんだか照れ臭いな。だが、僕自身は脳筋エルフから何も聞いてはいないという致命的な問題があるんだけど。


 そんな事があった翌朝、日の出とともに訓練を始めるという指導者たちが押し掛けてきたが、運動部組がスポーツ科学の話をして朝食を先に摂ることが決まった。


「運動部様様だな!」


 などとはしゃぐヤンキー達、特に何も言わずに黙々と食事に手を付けるメンツも多く居る。


 朝食も昨日のスープと硬いパンだった。


「昔の朝食なんてこんなもんだろう。麦粥かソバ粥みたいのがあればなお良いけど」


 と、厨房の人に提案する者たちも居る。


 ワイワイと朝食を終えた面々は、それぞれの指導者に連れられて今日の訓練メニューが始まるらしいが、僕は放任エルフが昼からだというので暇である。一応、朝練でもしようと射場へと向かうと、三人のエルフが居た。


「おや、今日は昼からだとヨンナに聞いたんだが、お邪魔かい?」


 と聞かれたので、どうぞと場所を譲る。


 この三人は脳筋エルフほど高飛車ではないらしい。が、その腕前はとんでもない。


「ヨンナのバカ、我々が偵察に行ってる間に勝手に加護の付与ヤラカしちゃってるよ。ホント困るね」


 と、一人が言う。


「じゃあ、ミンナが残って彼女を指導すれば良かったんじゃないか?」


 そんな世間話をしながらも弓を引き、各々放つと、カーンと同時に同じ的から音がする。


「いやいや、私がどうやって教えるの?無理無理」


 と、そう言いながら矢を生成するエルフ。


「そう言えば、君が落としたのか?アレ」


 と、一人が振り子を指して言うので頷く。


「ヨンナのくせに教えられてるのか?」


 と言われたので、


「いえ、僕が弓をやっていたので何とかなっているだけですよ」


 と、素直に答えると三人が笑う。


「なんだ、やっぱりそうか。じゃあ、我々並みに適性がある弓士なんだね、君」


 カーン


 世間話をしながら同時に狙える技量はもはや言葉も無い。


「ちなみに、僕は男ですよ?」


 そう言うと三人とも驚いている。そして、


「ヨンナには言わないように!」


 と、声をそろえて言われた。

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