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43・こうして、僕たちの方針が決まった

 役人が退くと、残された問題は一つだった。


「梶の奴はどうなんだ?アイツらにお前らを売るようなことは無いだろうな」


 まずそう切り出す白川。


 もともと、召喚後に梶と本多の間にはやり取りする手段が存在していなかった。梶は本多と一緒に居ることもなく、この世界に馴染もうと、そして、剣道から剣術へと自分の技を高めようと努力していた。

 そもそも、梶と本多の関係は家が近くで中学まではそこそこ仲が良かったが、高校に入ってからは梶も剣道に力を入れ、本多は赤石とつるむ様になったことで話す機会も減っていたという。


「まあ、部活に力を入れる梶と、赤石たちとつるむ事に忙しかった本多の関係って、ダチとか親友って状態じゃなかったんじゃない?梶はまだ本多を気にしてたけど、あっちは部活バカの陰キャって赤石たちに話してたからね」


 なぜかそう説明したのは栗原だった。どうして知ってるのかと思ったら、部活のチームメイトが青山のクラスで、よくそんな話を聞いてったらしい。


「なんつうか、梶も可哀そうだな」


 栗原の話に白川もそんな反応をする。そして、柏木を心配そうに見る。


「おい、柏木。ショックなのは分かるが、そろそろ立ち直ってくれ。それとな、赤石の野郎は()()自分で人を殺してなかっただけだ。医療ミスとか以前に、アイツなら人を殺すようになってたよ」


 そんな慰めにもならない事を言い放った。


「なにそれ。何かに目覚めたからマイが殺されたっていう訳?」


 と、柏木は白川に食って掛かる。


「誰にも言ってない話だが、青山を殴った理由な、アイツらが心理臨床とかいって、自殺に追い込もうとしてたんだよ、あの時。単なるいじめじゃなかったんだ。あんまヤベー話だから、先公にも言ってない」


 昔気質のヤンキーがイジメを見て割って入った。そんな風に聞いていた話の真相が、まさかそんな事だったとは思わなかった。


「ちょっと待って。白川の話が本当なら、今回の主犯はタンペイレンの人間じゃなくて、赤石本人って事になるんじゃない?」


 これまで静かに聞いていた楠がそう言った。


「タンペイレンの政治家は確かに赤石たちをだましていた。たぶんそれは事実だと思う。還送魔法陣の話は赤石たちの創作では無くて、国の政治家が言ってるんだと思う。ただ、そこから先、生贄の話しは国じゃなくて赤石の独断かもしれない」


 と語り出した楠。それってどういう事?


「何で分からないの。アンタの好きな小説展開でしょうが!シリアルキラーよ、シリアルキラー」


 と言い出す楠。


 シリアル?朝食かな?


「ちょっと…それじゃあ、赤石が殺人を楽しんでるみたいじゃない‥‥‥」


 嫌そうな顔でそう言う柏木。


「実際、そうなんじゃないの?高校内でいじめからの自殺へ誘導しようとしてたんでしょ?臨床とか言って。本当に人がそれで死ぬのか試してた。こっちに召喚されて、魔物を自分で殺して目覚めちゃったんじゃないの?殺す事の快楽にさ」


 誰もそれに答えることが出来なかった。ふと見ると、白川は天井を見上げていた。どうしよう、コレ・・・・・・


 梶が本多のスパイかどうかって話だったはずなのに、全く違う所へ話が飛んでしまった。


「それで、梶なんだけど‥‥‥」


 僕が恐る恐る軌道修正を図ろうとした


「ヤベェな。本多自身は人殺しを楽しむ質じゃないだろうが、心酔してる赤石がやることに反対はしないと思うぞ。幼馴染顔して梶を誘い込んで、赤石に生贄として与えることも何とも思わねぇだろうからな」


 もう、言葉にならなかった。それってもう、赤石がある種の魔物であって討伐対象って事になりはしないだろうか?


 そんな事を思っていると、脳筋さんが笑い出した。


「フハハハハ、何だか分からんが、なかなか面白い話ではないか。魔獣より質の悪い魔物が生まれたという事だろう?最優先討伐対象だな、それは。そんなモノを作り出したイカレ商人共も同罪だ」


 どうやら、僕らの深刻なムードすら理解できない猛獣がここにも居た。


「ヨンナの言う通り、魔術師や冒険者の中でも上位の力を有する位置に居る召喚者が殺人鬼なのだとしたら、ギルドによる緊急討伐依頼の対象になると思う。そうでなくとも80年前の混乱を繰り返すような事象が発生しているなら、見過ごす訳にはいかない。君たちはこの問題に対して意見は一致していると云う事で良いのかな?」


 エルフ3人衆からそう問われる僕たち。事は赤石と取り巻きによる騒動であるらしい。このまま僕たち召喚者間の意見が割れてしまっては、80年前を繰り返すことになりかねない。そんな事態は流石に誰も望んでいないと思いたい。


 エルフ3人衆が白川グループのメンバーを見る。


「こっちで結婚するって事になるから、今さら還れなくても良いし、還っても居場所が無いって聞いたらあきらめもつく」


「今更、還れるって言われた方が信じられない。それに、赤石たちをどうにかしないとって事に反対はしない」


 皆の同意は得られた。シルッカや教会に残してきた彼らにしても、還る事が難しいことは周知済みだ。そこに意見の相違は生まれないと思う。


「そう。どうやら、皆の意見は一致しているという事で良さそうだね。召喚者アカイシ、ホンダ、コンド―を冒険者ギルドは緊急討伐対象とする。それで良いね?」


 エルフ3人衆が見回すと、皆が頷く。


「さて、迂遠に思うだろうけれど、まずはタンペイレンへの詰問状送付から始めることになるから、アカイシたちが君たちを襲撃してくることへの備えを始めてもらおうかな」


 こうして、僕たちの方針が決まった。

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