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40・吐き捨てるようにそう言った

 さすがに何千何万という犠牲を強いてまで還ろうとは誰も言わなかった。もし、還って元の生活が望めるのであれば、違ったのかもしれないが、これまでの召喚例があるだけに、僕達だけが特別だとは、誰も考えていない。もちろん、これまでの例とは違って、還れば普通の生活が待っているのかもしれないが、あの三人と違って、そうなった場合についても、やはり不安がある。


 スンマネンの部屋を辞しても、やはりその話で持ちきりの残留組。


「さすがにあそこまでして還せって言うのはなぁ、それに、召喚された時間に還れずに半年くらい経ってたら、還っても俺たち浪人確定じゃん。それもそれでキッツイなぁ」


 そう、こちらの時間がそのまま現代に対応しているならば、もう夏だ。何事も無ければ進学組は夏期講習やなんやで忙しい。秋になれば推薦から順次、受験も始っていく。流石に今から還って追い付けるのか?って考えたら、あの3人の様な自信満々ではいられない。


「なあ、神原って魔導具師じゃん、パパッと魔法陣解析して省エネな帰還魔法陣とか出来ないのか?」


 残留組の中でそんな声が上がった。


 問われた神原という女子は首を横に振る。


「ラノベみたいに魔法文字や呪文がコンピューター言語で解析で来たら、多少は弄れたかもだけどね。あれ、どっちかって言うとお経とか祝詞だよ?『ここに居わす精霊様のお力を~』とか『この炎を生み出した火の精霊様へ~』って、そんな感じだから、言語解析じゃ無理」


 との事だった。う~ん?行使呪文にそんな意味あるん?


 どうやら、そんな僕の視線を感じたらしい。


「『ファイアーボール』とかにそんな意味ないって思ったでしょ。それは行使呪文だから。道具や魔法陣と行使呪文は別だからね」


 と、返された。そういう事だったのか。


「もうどっちでもいいやぁ~、ハーレム公認世界なんだから、別に帰れなくても問題ないしねぇ」


 と、いつものように栗原が抱き着いて来た。それに残留組男子も反応しているが、特に何かを言う訳じゃない。ただ、僕を見ているだけに終わった。


 そして、話は赤石たちの事へと変わっていく。


「アイツらなら自分達以外を生贄にするって言いそうだな。ずっと特進の連中馬鹿にしてたし」


 という声が残留組から上がった。


「あんなのが医者や弁護士目指してるとか、ちょっと嫌だなぁ」


 そんな声も聞こえてくる。確かにそれは僕も思った。だって、明らかに自分は特別で、周りは自分の為に死んでも構わないとか考えてるような人間が、命や法律扱ったら危ないんじゃないかと思う。


「それでさ、千葉と大池どうすんの?」


 残留組の話しに意識が向いていた僕の耳に、柏木の声が飛び込んで来た。どうやらハーレム話の続きをやっていたらしい。


「どうするって、氾濫が片付いたら、またシルッカ戻って冒険者やるよ。そういう約束だし」


 という大池。


「高鉢がうらやましいとも思えないけどな、俺」


 というのは千葉。そう言えば、脳筋さんの事も知ってんだっけ、この2人。


 そんなワイワイガヤガヤしながら、宿泊棟まで帰って来た。すると、いつにも増して厳しい顔の虎さんやドワーフが待っていた。


「状況については連絡を受けた。どうやら、タンペイレンへ行ったグループが暴走するかもしれないらしいな」


 そう声を掛けて来たのはドワーフだった。


「それで、どうするんだ?」


 いきなりそう聞かれても、何をどうすれば良いのか分からない。そもそも何の話? 


 そう思ったのは僕だけでは無かったらしい。皆キョトンとしている。


「このままじゃあ、そのアカイシとかいう奴が加護持ちのお前らを狙って来るぞ?」


 という、ドワーフ。それはそうかもしれない。けど、それって氾濫を収束させてからの話しじゃないのかな?


「アカイシに氾濫なんか関係あると思うか?相当おめでたい奴だそうじゃねぇか」


 と、僕らに笑いかける。


 たしかに、直接彼らの会話を聞いた僕や楠にとって、それはそうなんだけど。でも、ね?


「80年前の騒ぎだが、氾濫鎮圧後って事になっているが、実態はそうじゃねぇ。氾濫討伐にかこつけて始まっていやがった。その場にいた俺が言うんだ、間違いはねぇ」


 と言い出すドワーフ。確か、ドワーフも長寿なんだっけ。


「でも、ただ会話を聞いただけでこっちから仕掛けるなんて出来るの?」


 楠がそう聞いた。そう、そんな話を聞いたからって、じゃあ、先に倒せばよいって話に出来るんだろうか?


「そいつは無理だな。話しているのを聞いたってだけじゃあ、無理がある。が、放置して良い訳じゃねぇだろ?」


 うん、それはその通りだと思う。特に狙われているのは僕らなんだし。


「ところで、火の加護持ちはどうしたんだ?」


 不意にドワーフがそう言った。その言葉で梶を探してみたけれど、どうやらここには居ないらしい。


「え?いつから居ないの?」


 柏木が驚いた様な声を上げた。


「部屋を出る時には居たんだが、そう言えば、いつからだ?」


 そう言ったのは大池。


「まさか、タンペイレンへ行ったとか?」


 そう言ったのは残留組だった。どこか冗談ぽく。


「あいつ、本多の幼馴染だよ!こんな話聞いて落ち着いていられるタチじゃない!!」


 そう叫んだのは、その辺りの事を知っている栗原。


 それを聞いて顔をしかめる虎さんとドワーフ。


「それは、自ら罠にはまりに行くようなものですよ。ホンダ君はカジ君を今でも幼馴染だと思ってるんです?」


 虎さんが冷静に栗原へそう尋ねる。


「梶は小学校からの親友って思ってるでしょうけど、本多は高校デビューって・・・、まあ、赤石と意気投合しちゃってそっちへ染まっちゃってますね。今、梶を親友とは思ってないかもしれません」


「それは一番危ないパターンですね。最悪、君たちを誘い出す道具にされてしまうかも知れません」


 虎さんが元々鋭い眼光をさらに強めてそう言った。


「気が付いてない奴が悪いんだよ」


 そう呟く楠。しかし、それで無視すれば済む話じゃない。たぶん・・・


「あいつらの事だから、梶を口実に因縁付けて攻めて来るかもよ」


 楠の呟きを聞いた柏木が吐き捨てるようにそう言った。

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