38・事態はかなり悪いらしい
3人が僕らを察知出来ないところまで去ったのを確認し、僕らもその場を離れる事にした。
帰りの道は往路よりも緩やかな場所を通って帰る事が出来た。何せ僕らは3人ともが大量の皮を背負っているので往路をそのまま辿る訳にはいかない。
ただ、その分日数を要したので1週間以内の予定が10日も掛かってしまった。
教会では先ず皮をドワーフへと渡す。
真っ先に飛び出して来たのは、もちろん鍛冶王その人。皮を見て何やら騒いで、そしていそいそと配下のドワーフ達になめしの指示を出すと、僕たちへと近付いてきた。
「おう、弓はどうだった?」
そう、脳筋さんに訪ねる。当然ながら、マトモな返答は期待出来ない。
「穴倉にしては出来が良いな。並の弓ならドワーフ製で良いだろう」
思ったよりも結構な好評だ。
「そうか、耳長がそう言うんなら、そうなんだろ」
と、ドワーフも下手に煽る気は無いらしい。きっとあの3人衆や他の冒険者達からも評価や改善点は聞いているだろうし、ワザワザ脳筋さんが注文つけないのは、それだけ満足しているのかな。
「鍛冶王は還送魔法陣は知ってますか」
単刀直入に聞いたのは楠だった。僕も聞きたかったが、流石にこうは聞けない。
「はぁ?何だその夢物語は」
どうやら、夢物語らしい。
「タンペイレンが開発したらしいです」
と、これまたハッキリ聞く。
「アイツラがそんな儲けにもならんゴミを作ると思うか?」
と、逆質問されたが、これには楠も答えられない。
「ま、そうだろ。そんな儲けにもならんゴミは教会くらいしか興味はない。それにだ」
そう言って、召喚魔法陣の簡単な説明をしてくれたが、それは対象の場所を明確に指定出来ないシロモノであるらしい。
「仮に、そんなブツが出来たなら、連中は商人や冒険者に高値で触れて回るぞ。何日もかかる遠国の街まで一瞬で荷物が届くからな」
そう笑う。
「でも、魔法陣ってかなりの魔力を使うんでしょう?」
と、楠が言う。確かにそうだ。だから召喚魔法陣は数十年に一度しか使えない。
だが、それを聞いたドワーフはニヤリとして口を開く。
「そりゃあ、召喚はどれだけ離れた場所かわからねぇからだよ。目一杯魔力を貯めて、一度に使う。だが、座標がこの世界の見知った場所なら、大した量にはならんって寸法さ」
そうか、確かにそうかも知れない。
「が、そもそも任意に何処へやら、何処からって指定が出来ない。分からない。近在で出来るか試して失敗した記録しか無いからなぁ」
との事だった。そもそも、源為朝を召喚出来たことが奇跡であり、日本周辺に座標が固定されている事も偶然であるらしい。
「千年経っても、魔法陣の何がチンゼーやお前らの国を意味する文字かすら掴めてねぇらしいぞ。基本陣や文字を入れ替えても、結局呼べたのはサブローにバンザー、そしてお前たち。理由が分ってねぇ」
つまり、何かの拍子に日本周辺へ繋がるタイミングがあるだけか?
「じゃあ、その魔法陣って、私たち加護持ち召喚者を生贄にしたらすぐに動くとか?」
そう聞く楠。
「ハッハッハ。そりゃあ、面白い考え方だ。が、所詮は召喚者とて、ただの人だ。その辺の平民や冒険者よりは魔力があるが、エルフやドワーフとは大差ない。それにだ、加護ってのは、精霊が周りから魔力を集めているだろ?生贄にしたら精霊は逃げ出してしまうじゃねぇえか」
あれ?それじゃ、アイツラの言ってた話って何?
「もしかして、精霊機関と勘違いしてねぇか?」
というドワーフ。
精霊機関というのは、僕らの世界で言えば永久機関の様な物らしい。
「精霊機関ってのはな、魔法陣や魔導具自体に加護を授けて、精霊が勝手に魔法陣や魔導具に魔力を補充してくれる夢物語な話だ。誰もが思い付くが、誰一人成功させちゃいねぇな。そもそも、魔法陣や魔導具は外から人が動かすんだから、他人が加護持ちの意に反して魔法を放つ様な話だ。どうやって加護持ちの意思に逆らって使うんだ?」
それは、そうかも。AIでも開発しないと、加護を魔導具や魔法陣に授けることは不可能だよね。
魔法世界で自律魔法陣や魔導具なんて、それはすでに一個の生き物だから、外から制御出来るか不明だね。新たな魔物の誕生かも知れない。
「そういうこったな。意思を持つ相手をこっちの都合だけで好き勝手は出来ん。間に精霊が絡むと余計にな」
って事は、あの3人は詐欺に引っ掛かって踊らされている?じゃあ、タンペイレンってとても危ない連中なのかも知れない。
「で、いきなり生贄とかどうしたんだ?」
当然の様に聞いてくるドワーフ。
「それはまず、総司教に話してからだな。穴倉にもすぐに話がいくだろう」
脳筋さんがそう返して僕らを促す。
いつもの冒険者施設から教会施設へと入り、どんどん進んで行く。
そして、複数の扉がある区画へと辿り着いた。人の出入りが多い扉に静かな扉。教会の事務処理をする部署なのだろう。
そんな一つの扉へと連れて来られた。
扉の先は小さな部屋だった。
「総司教は居るか」
そっけなくそこにいた受付らしき机に居る人物へ声を掛ける脳筋さん。
一礼して奥へと消える受付。
さほど待たずに受付の人が戻り
「お会いになられます」
と、一言。
受付の人が静々と大扉を開け、脳筋さんが僕らを中へと押す。
「どうかしたのかね?ヨンナ殿に、召喚者たち」
召喚をした張本人がそう、僕らに問いかけてくる。
「重大事だ。山際のイカレ商人共が暴挙に出ている」
そんな、説明にならない事を言う脳筋さん。いつもの事なのかな?これ。
「ふむ。話が見えん」
確かスンマセンだっけ、前の人物が溜め息を吐いて僕らを見る。
「タンペイレンに招かれた召喚者達の事ですが······」
すかさず楠が説明をはじめたので僕はただ居るだけ。
ドワーフに聞いた話も交えてスンマセンさんへと説明をする楠。話が進むと驚きから怒り、最後には呆れへと顔が変る。
「それは確かに重大事だ。ウーシマドッへも伝えた方が良いな。冒険者嫌いとは言え、総司教スンマネンの聖書であれば、無下にもすまい。さて、召喚者たちにも話しておく必要があるな。都合をつけて皆を集めてもらおう」
そう言われ、僕達はその場を後にした。




