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閑話

「よくぞヒュドラを倒した!シラカワ!!」


 そんな声が謁見の間へと広がった。


「ん?どうした?そなたは召喚者の中でも随一の功をあげたのだぞ?」


 王はどこか喜びの薄い白川の姿に、そう問いかける。


「いや、まあ…、確かに止めを刺したのはそうなんだけど、決定打は誰だか分かんねぇ奴っつうか・・・・・・」


 そう、歯切れ悪く言う当人を見て、横に並んだ自分の娘へと視線を向けた。白川へと与えた側妃の娘である。

 娘の方も王の視線に気が付き、口を開いた。


「陛下、シラカワに代わってご説明したく存じます」


 そう言う娘へと、説明を促す。


「ありがとうございます。私たちは奥地探索の際、ヒュドラを発見し、討伐を始めました。しばらくは一進一退の攻防でしたが、ある時、ヒュドラがしばらく硬直し、後方を窺うようなそぶりを見せました」 


 そう言って、魔法使いの一人を見る。視線を受けた加藤がそれに応え、口を開く。


「私が見たのは、ヒュドラの尻尾へと飛んできた矢でした」


 そして、また娘が後を継いだ。


「さらに、それから暫く後、首の付け根でカマイタチが荒れ狂いました。矢が刺さったならば、そこに残るはずですが、倒したのちに確認したところ、矢傷はあれど、矢はありませんでした」


 それを聞いた王はあることに思い至る。


「お前たちよ、それはエルフが加勢したという事では無いのか?」


 娘を遮ってそう言うと、娘が首肯した。


「はい。陛下。私たちもそうではないかと考えております。しかも、いくら鱗が薄い首の付け根とは言え、カマイタチで致命的な傷を負わせるほどの攻撃が出来るものとなると・・・・・・」


 王は息をのんで、ある名前を口にする。


「弓精、ヨンナ・・・・・・」


 弓を扱い風を操る風魔法の使い手の中でも、風精霊の加護を持つ者はさらに特別で、その攻撃力は並みの魔法使いとは比較にならない。そして、当代一と名高い風精霊の加護を持つエルフが、教会に居るヨンナだった。


「まさか、高鉢を教えていたエルフがそんな奴だったなんて・・・・・・」


 そんな呟きが王にも聞こえた。


「タカハチというのは誰だ?」


 王はそう問うた。


 ビックリした加藤が慌てて口を開く。


「一緒に召喚された一人で、弓使いです」


 王はその言葉で誰であるかを理解する。


「あの再来の男か・・・・・・、まさか、加勢したというのはソイツではなかろうな?」


 身を乗り出して問う王。


「確信はねぇけど、そうかも知んねぇ。ヒュドラ倒した後で遠くに青い鎧を見た気がする」


 と、白川が口にした。


「陛下、チンゼーの再来とされる風精霊の加護を受けた弓使いが加勢していたとしても、我が国への被害は無いと思われます」


 と、付け加える娘。そして、加藤へと視線を向ける。


「高鉢にはそのチンゼーの様な国盗りなどの欲は無いです。弓精と同じように刺激さえしなければ害が及ぶことは無いと思います」


 という。王も召喚者が言うのだからそうかもしれないと考え、これまでの報告を振り返っても、加藤の主張を否定する材料は見つからなかった。


「王さま、アイツに女を宛がうのは悪手だぜ。すでに3人侍らせてるから無意味だ」


 と、思い出したかのように言う白川。そして、なぜか加藤を見る姿を疑問に思う王であった。


「ならば、あえて何もせず静観すればよいか・・・・・・」


 と、王も口にする。


「今回、3人やられちまった。無傷で全て終わるとは思ってなかったけどさ。それよりも、となりの国の話し、マジなのか?王さま」


 白川はそこで話題を変える。王にもそれが何の事かはすぐに理解できた。となりの国。つまり、タンペイレンの話しである。その国へと囲われた召喚者たちも彼ら同様にスタンピード対応に当たっているのだが、アカイシというリーダーとその取り巻き3人が他の召喚者や付けられた騎士や兵士を使い捨てにしているという。その噂は市井にも広まっている話で、王自身は調査によって事実であると知らされていた。


「ああ、間違いない話だ。アカイシという者を中心にした3人が他の召喚者や従者を使い捨てにしておる」


 それを聞いた白川は驚くでもなく、どこか納得顔をしている事に、王は少々意外な気持ちになった。それが顔に出たのだろう、白川はそれに対して口を開く。


「いや、意外でも何でもない。アイツらはそういう奴らだ。あの3人からすれば、着いて行った連中も、俺らも眼中には無い。所詮、踏み台くらいにしか思ってねぇ。警戒するなら弓精や高鉢じゃなく、赤石だと思うぜ?」


 というのだった。王からすれば、隣国にいい様に操られた哀れな者たちでしかないが、目の前にいる召喚者たちは一様に白川の言葉に首肯している。その事が意外でもあり、そして、考えを改めるべきかとも思っていた。


「だが、かの国の者たちの言う事には従っているという話だ」


 思ったが、王にとって怖いのは、強大な武力を有する風精霊の加護を受けた者。それ以外の者は白川たちでも対抗できると考えている。


「何か目的があるんじゃないか?俺には分からねぇけどさ。だいたい、アイツらは目的の為なら手段を択ばねぇ。ワルを自認してる俺なんかとは違う、マジの悪人だ」


 と、抽象的な話をする白川。


「アイツらの家は、医師、弁護士、政治家。この国でいえば神官と貴族でしょうか。親の力を笠にやりたい放題でした。もし、タンペイレンが何か吹き込んでいるなら、この国へ攻めて来るのはアイツらだと思います」


 と、より具体的な説明を加藤が行った。それを聞いて王は考える。自国と隣国は仲が良くない。だからこそ召喚者を囲っている。


「なるほど、分かった。お前たちは引き続き魔獣の掃討を続けてくれ。ヒュドラを倒したならば大規模スタンピードは防げたかもしれんが、すでに影響を受けた魔獣どもが大人しくなるとも思えん」


 白川たちが謁見の間を出た後、王は宰相に問うた。


「あの国は召喚者に何を提示しておるのだ?女や男でも無し、領地や富でもない」


 その問いにすかさず返す宰相


「はい、我らの調べでも詳細は分かっておりません。もし、あの召喚者たちの言う事を信じるならば、80年前を繰り返そうとしているのやも、と、これは私めの感想にすぎませんが」


「いや、それこそ、そうあって欲しくはないがの・・・・・・」


 二人は召喚者たちが出て行った扉へと視線を向けた。



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