32・ダメもとで魔物への攻撃を通してみた
翌日は山歩きに費やされ、さらに次の日も。
3日後にようやく目的地に着いたわけだが、前回ほどの数は居なかった。
「ここは増えていないか」
と言いながらも矢を生成して引いている脳筋さん。僕も何か言われる前に矢を生成する。そして、今回は雷を纏わせてみることにした。
鎧の筋肉と言っても所詮は生物なので電流を防ぐことは出来なかったらしい。胸への一撃で硬直してしまった。
「やるな。流石、我が伴侶」
あれ?単に脳筋さんの好感度を上げただけだった。
今回はボスオーガが少なかったことでサクッとボスだけ倒して逃走。
そのまま教会へと変えるのかと思ったら、寄り道すると言い出した。ドコへ?
「面白いモノを見せてやろう」
と言って詳細を語らない脳筋さん。
脳筋さんに連れられ、今度は大山脈へと4日もかけてトレイルランをやらされた。加護持ちの僕と楠でなければエルフについて行くのは不可能だと、3人組が苦笑しながら教えてくれるほどの苛酷なルートを走破しているそうだ。
そんなルートを普通に選択する脳筋さんって・・・・・・
そして、5日目の昼頃、ようやく目的地が近いという脳筋さん。
「どんな奴かよく覚えておけ。氾濫の原因がすぐそこにいる。奴を倒せばかなり規模を小さくできるだろうが、私でもあいつを倒すのは難しい」
と、これまでになく弱気な事を言う脳筋さん。一体何が居るのだろう?
そう思っていると、とある峡谷を遡上していく脳筋さん。僕らもそれについて行く。
すると、風に乗って聞こえてくる戦闘音。
「ん?誰か戦っているぞ」
脳筋さんも気付いたらしい。
それからはより慎重にその音を目指して進んで行く。
しばらくすると何やら大きな竜のようなものが見えた。
「ヤマタノオロチ?」
楠がそう口にする。
なるほど、確かに複数の首を持つ竜の様な魔物が見える。という事は、その足元に誰かが居るという事になるのだろう。
「正面から近づけるのはこの辺りまでだな」
そう言って脳筋さんが姿を隠しながら迂回をはじめる。僕らもそれについて行くと、峡谷の上を歩くルートへと出た。
そのまま魔物の姿が見えないところを歩き、魔物やや後方あたりから顔を出す。
「全身鱗に覆われてて硬そう」
という楠。
「そりゃあ、ヒュドラだからねぇ。複数属性の首を持つからこれといった弱点が無いんだよ」
と、3人組が説明してくれる。なるほど、ソイツは簡単に倒せそうにない。
そう思って観察していると、戦っている人物が見えた。
「あれ、白川と加藤じゃない?」
僕がそう指をさすところに人らしきモノが見えている。
「よく分かるね。私には見えないわ」
と、楠が呆れている。まあ、見えたというか、実際のところは風に乗って聞こえた声を聞いて、2人だろうと思ったんだけど。
「ふむ、他の召喚者が挑みに来たのか。だが、アイツらでは無理だ。前衛はそこそこやるのかもしれんが、魔法使いだけでは後衛が持たん」
という脳筋さん。
正確には、エルフのような風魔法による長距離射撃を出来るものが居ないという事なんだけど。
その言葉通り、彼らは苦戦している。加藤に掩護させながら白川が拳闘で挑み、反対では名前を思い出せない誰かが、剣で斬りかかっているらしい事が分かる。
「あのままだと加藤達?は全滅かなぁ」
と、酷く他人事な楠。
僕はそこまで突き放す事は出来なかったが、どうやら楠はそこまで割り切っているらしい。
そんな違いはヒュドラの観察にも表れている。
楠はどうやってもあの鱗を破れないと思っているようだけど、魔物は生物なので、どこかしらに弱点があると僕は睨んで探していた。
そして、時折チラチラと弱点が見え隠れしている事に気が付いた。
「ヒュドラって、まさか体の中まで硬いって事は無いでしょ?」
と、3人組に聞いてみる。
「きっとそうなんだろうが、頭の周りには魔法阻害や物理阻害の結界があって、魔法も矢も通じない。口や目を狙えたら簡単にダメージ与えられるんだけどね」
という、イケメン。
確かにそうだ。魔物だって考えなしではないだろうし、自然界の仕組みは、人間が考えるよりも高度で複雑だって話だし。
「でも、どう見てもお尻に結界張って無いように見えるんだけど」
そう、僕が発見したのは尻尾の付け根。その腹側には弱点と呼べそうな場所がチラチラ覗いているのだが、僕には結界が見えない。イケメンに言われるまでもなく、頭周辺にナニカがあるのは発見していて、それがバリア的なナニカだろうとは予想してたんだけど、同じものがお尻には見えなかった。
「おお、本当だ。よく気付いたな。しかし、あれは狙えないんじゃないか?」
そう、不規則に動くシッポの間を通してピンポイントで命中させるのは難しそうだ。が、時折、わずかながらにダメージが入っているのだろう。ピンと尻尾を停止するタイミングが出来るんだ。
「ダメもとでやってみる。失敗したらすぐ逃げて良いよね?」
と、脳筋さんに聞いてみる。
「ああ、もう十分見たからな。矢が通るかどうか試してみろ」
と、予想通りの答えだった。脳筋さんの矢では鱗を貫通出来ないので、無理だという。負けず嫌いだけど、僕の事も試そうとしているので、こういう機会を設けたのだと思っていた。失敗しても脳筋さんが自己満足するだけなので、問題ない。
僕は弓を装備して白川たちの声を拾い、攻撃のタイミングを待った。
どうやら誰かがやられたらしいところで総攻撃をしようという声が聞こえたので、矢を生成して番える。
弓を引いて矢じりには雷を纏わせてその時を待った。
白川たちが攻撃の為に声を上げたのを見計らい、タイミングを合わせて矢を放つと、予想通りに小さなダメージと共に、怒りを表現でもするかのようにヒュドラが一瞬、停止する。
その時尻尾が上がってお尻が見えるようになった。
「通った」
矢の軌道がちょうどお尻の穴へと延び、尻尾を下ろす前に貫いた。
GYAOOOO
そんな、怪獣の鳴き声と共に、ヒュドラがこれまでになく硬直している。そして、それを好機と見た白川たちが攻撃の連発を行っていく。
頭の一つが後ろを向いたころには、僕たちは既に稜線に隠れていた。
「どうやら効いたらしいな。後ろを気にしながら召喚者の相手をするのは厳しいだろうな」
という脳筋さんの言葉通り、後ろや左右を見回しながら白川たちの相手をするヒュドラの優勢はどんどん勢いを亡くしていく。
そして、頭を四方に広げた事で、上から見下ろしていると、首の付け根当たりにも弱点らしきものが発見できた。
「もう一度やってみます」
今度は征矢に風、それも暴風を纏わせて射る。どうやら上からの攻撃には警戒していなかったらしく、首の間を縫って矢が中心へと刺さると、やはり、ここの鱗は弱かったらしく、暴風と化したカマイタチによって首の内側に深い傷が出来ていく。
サッと隠れて様子を見ていると、もはや白川達どころではなく、僕を探すことを優先しているらしいが、どう考えてもそれは悪手でしかない。
「怒りに任せて集中を欠いていては、黄金級や加護持ちの攻撃は防げんだろう」
とつぶやいた脳筋さんの言葉通り、隙を衝いて胴へと飛び乗った白川によって深手を負った首の付け根へと集中攻撃を受け、場所が場所だけに上手く反撃も出来ず、助攻で飛び乗ろうとした誰かへの攻撃で自らも自滅していった。
「あちゃ~、自分で自分にトドメさしちゃった」
と、その様子を呆れながら見ていた楠。彼らの声から判断すると、犠牲になったのは三宅らしい。たしかヤンキーグループの女子だったような?もう一人、佐伯も。えっと、金髪だっけ?よく覚えていない。
ストックが尽きたので、しばらく騎竜軍を優先為に休止します。
 




