31・うわ、ホント、なにそのハーレム運
さらに2日ほどかけて山の中を歩いていた。
山歩きと言ってもハイキングのようにではなく、トレイルラン状態でなんだけど。
それについて行く事が何とかできるのは、3人組から歩き方を教わりながら歩いているから。脳筋さんもそんな僕らを置いていくことなくペースは合わせてくれている。ぶっきらぼうな割にこういうところは気を利かせてるのかな?
そしてようやく、オーガの生息地に着いたという。
「この前見たオーガよりデカイ?」
それはただでさえ筋肉質な巨人が更にデカくなっている姿だった。
「あれが、通称オーガキングだとかハイオーガなどと呼ばれる事のあるボス個体だが、この辺りで3体は確認している。殺るぞ」
と、やはり説明は最小限でしかない。
まずは遠距離から射る。さすがに3人組のように息の合った連携などは出来ず、脳筋さんが頭、僕が胴へと命中させる。
「しぶとい」
脳筋さんが漏らすように、オーガはしぶとい。まるで筋肉が鋼鉄の鎧であるかのようにダメージを軽減している。
ここに来るまで3人組から教えてもらった様々な技を試してみるのも良いかもしれない。
そう思って征矢を生成して矢に風を纏わせる。空気抵抗をかなり殺せる技らしい。弓を引くと、なるほど。風の影響をほぼ受けずに飛ばす事が出来るらしい。
それを最大張力で放つ。
1射目よりも深く刺さり、背骨までダメージが通ったらしい。脳筋さんは目を狙ったモノがズレたのだろう、鼻に刺さってオーガが鼻血をドバドバ垂れ流している。
「面倒だな。群れの奴らに気付かれた」
3人組がそんな事を言いながら山を駆け下りていく。
見ていると斜面を全くものともせずに駆け下りてオーガへと射かけて倒していくのは本当に圧巻だ。
「止めるな」
という脳筋さんの声に我に返って3人組の支援を始める。すでにボスオーガは背骨をやられて崩れ落ちているので問題ない。
距離はあったが風を纏わせた平根矢が面白い様にオーガへと吸い込まれて致命傷を与えていく。
「高鉢!」
オーガを射る事に集中していたら楠が叫んだ。どうしたのかと振り向くと、大きな蝙蝠の様な魔物を斬り伏せている所だった。
「やるではないか」
という脳筋さん。
数はそんなに多くないので楠がひとりで倒し切っていまったらしい。下を見るとオーガもほぼ倒してしまっている。
「アレ1体倒して逃げるつもりだったが、仕方がない」
脳筋さんのそんな言葉と共に、今回は倒したコウモリとオーガの処分を始める。10体以上居るオーガを集めてひとつの穴に放り込むのは大変な重労働だったが、何とか夕暮れまでに終えることが出来た。
その夜は少しのんびり過ごしていたのだが
「クスノキはずっとタカハチの面倒見てるんだね。ダメな弟なのかな?」
という美女の発言に脳筋さんが反応した。ついうっかりだったのだろうけど。
「弟?コイツは男なのか?」
と、僕に近寄ってくる脳筋さん。下手に否定すると何やりだすか分からないので素直に認めると、なぜかニヤリとしている。
「そうか、男だったのか。それは好都合だ」
え?何言ってんの、このエルフ・・・・・・
「逃げる事は無い。私はチンゼーの子孫にあたるのだ、風精霊の加護を受けたばかりに醜い男どもが言い寄って来ていたが、風精霊の加護を持つ召喚者の男が現れたとなれば、あの醜い奴らの相手をしなくて済む」
などと語り出した。初めて長々と喋ったね。が、そこまでだった。
「その話は帰ってからだ」
と、さっさと寝ると言い出したので、3人組に聞いてみたところ、驚くような話だった。
為朝が風精霊の加護を受けた後、エルフも彼に嫁いだそうだ。風精霊の加護を持つエルフ以外の者が現れたのだから、何かあるだろうと。
そして生まれた子供は、エルフに引き取られて育てられたという。
ハーフエルフであった子供は風精霊の加護を受けることは無かったそうだが、それでも優れた風魔法と弓の使い手に成長し、さらにもうけた子供は風精霊の加護を受ける。それからも、その子孫は他のエルフよりも高確率で加護を受けることが多かったという。しかし、それから1000年も経てばその恩恵も薄れてしまい、子孫である脳筋さんは相当なプレッシャーの中で何とか加護を受けることが出来たらしい。
加護持ちは加護持ちへ嫁ぐという習わしから、同世代に加護持ちが居なかったために年の離れた男ばかりが縁談相手になり、それが嫌で教会へやって来ていたらしい。
そんな事もあって、誰彼構わず加護の付与をやろうとして弓使いをことごとく潰す事になっていたとか。
「うわ、ホント、なにそのハーレム運」
そんな楠の呆れた一言に全てが詰まってる。いや、でも相手はあの脳筋さんだよ?
「良いんじゃない?アンタ、めいに抱き着かれても絶対抵抗しないし、高身長好きなんでしょ?」
と、突き放しに来る。栗原の場合は逃げる方がめんどくさいだけなんだけどさ・・・・・・
ただ、そんな僕らを生暖かい目で見つめるエルフ3人の方が僕には怖かった。




