29・ようやく実感する事が出来た
「ほら!」
促されて馬車を降りる梶。
すでに魔物の討伐や狩猟によってこのような状況に耐性がある事は理解できているが、実際にそれが人間の死体となると、やはり躊躇してしまう。
まずは栗原が地魔法によって穴をあけ、そこへと楠が切刻み、僕が二分してしまった遺体を放り込んでいく。
平然とそれを行うスーケやバルナ。もはや覚悟を決めた僕と楠も躊躇は無い。どこか腰が引けながらも、この世界で生きることを決めている千葉や大池も遺体を穴へと放り込んでいく。
しかし、梶、柏木、栗原には戸惑いがあるのだろう。遺体を運ぶのもおっかなびっくりだった。
そして、集めた遺体に梶が火魔法で火を着けて燃やしていく。
燃える遺体を見ている間も複雑な表情を浮かべていた。
「さて、出発しようか」
すべてを終えて出発となっても、先ほどまでの明るさが無い。万木や井口が犠牲になった時よりも暗くなっている。
「これがこの世界の現実。噓でも誇張でもなく、もしかすると赤石や白川たちと殺し合う羽目になるんだよ」
と、楠が皆に言う。
「盗賊はわかったけど、マジで言ってんのか?」
と、どうしても煮え切らない梶。
「そうだけど?」
と、ハッキリと断言する楠。
「それにさ、帰れないって・・・・・・」
と、梶はその話も蒸し返す。何か言おうとした楠を止める。
というのも、ラノベ設定で色んな機関方法がある。その中には死んだら帰れるなんてのもあったハズだ。
「梶、万木と井口が還ってるとして、普通に大丈夫だと思う?もしかしたら、赤石や白川のところだって誰か死んでるかもしれない。でも、どんなバラバラな帰還が叶うと思う?」
今更だけど、僕はそう問うた。
「分かんねぇだろ。こっちじゃバラバラでも、向こうに帰ったらみんな同時かもしれねぇ!」
そう言い出す梶。
でも、それが叶うなら、いや、それが叶ったところでどうなるんだろう?
「そう信じてさ、それが現実になってさ、クラスが1年持つと思う?此処でのことをすべて忘れて、何もなく世界が回り出さない限り、こんなに分裂しちゃったクラスがマトモに再開できるわけないじゃん。僕らは赤石や白川たちを殺すかもしれない。もちろん、殺されるかもしれない。クラスメートに殺されて帰って、見殺しにされて帰って。『よかった。皆で帰ってこれたんだ!』ってなるわけないよ。それで良いの?」
梶は答えなかった。
多分答えられなかったんだと思う。僕たちは既に万木や井口を助けられなかった。もし、僕の言った妄想が現実になっても「いや~、ごめんごめん。でも、帰ったから良かったじゃん」と、ニコニコ2人と会話できるとは思えない。これから先、起こる事を想像すると、もはや還れてもそこは平穏なんて存在しないと思う。帰りたくもない場所にしかならない気がする。
その事を梶も理解したんだと思う。
「・・・・・・分かったよ」
梶はそれだけ言って口を閉じた。
そんな最悪な空気のまま、教会へと帰還する事になった。
ほぼひと月ぶりに教会へと足を踏み入れると、そこに居残っていたクラスメートと再会した。
「お、帰って来たのか?」
暗い雰囲気の僕らに笑顔を向けるそいつ。
「ああ・・・・・・」
以前は仲が良かったらしい千葉も口数が少ない。
「そっか。お前らも人を殺してショック受けてるのか」
と、急な事を言う彼を驚いた顔で見返す。
「驚く話じゃないだろう?お前ら冒険者だし。ここの残った俺だって一応、冒険者だ。一応は生産職だけど、素材採取に自ら向かうことだってある。そりゃあ、な?」
と、ケロッとしている。
「何でお前、・・・・・・そんな平気なんだ?」
僕もそう聞きたかったが、まず声を出したのは梶だった。
「ここで生きていくにはそれしかない。初っ端から盗まれた素材を盗賊から回収したんだぜ、もう、慣れたさ」
どうやら、ここに残っても状況は苛酷であったらしい。
「それより、これ見ろよ。ネットで見た連射式クロスボウを再現してみた。コレなら駆け出しの奴らでも簡単に扱える」
そういって、一丁のクロスボウを見せて来た。
「他にもいろいろアイデアを採用してもらって楽しくやってるぜ」
残っていたら楽が出来た訳でも、見捨てた訳でも無い。どこに居てもこの世界の有様は変わらないんだと、ようやく実感する事が出来た。彼も、クラスメートこそ死んではいないが、一緒にクエストを熟した冒険者が幾人か犠牲になったらしい。そうした事から作ったのが、手に持つクロスボウであるらしかった。
他の面々も彼ほどではないにしても、かなり慣れているらしかった。
どうやらシルッカ方面は魔物が多いのであまり盗賊が出ない地域であったらしい。それに対してこの周辺は定期的に魔物が討伐されているので盗賊が潜みやすく、冒険者すら狙われるという。
居残り組の方が僕らよりも肝が据わってしまう訳だよ。
そんな驚きの再開の後、教会にあるギルド本部へと向かい、スライムの件を報告するとともに、氾濫対処への参加を願い出た。
その話の際、現れた脳筋エルフが僕を見て一言。
「あまり変わらんな。もっと顔つきが変わるかと思ったが」
と、いつも通り不愛想に言って来たが。




