28・後戻りできない事を覚悟した
そんな和気藹々とした夕食を終え、翌日も淡々と街道を進んでいた。
話題は未だに僕の話しだった。
「あのエルフ、何歳なんだろうね」
という柏木。
エルフは人間の3~5倍の寿命を持つ。そもそも、人間や獣人は魔種に分類され、寿命は50~100歳程度、対して精霊種であるエルフやドワーフは300歳以上。エルフは成人までに30~50年とされ、教会に来ているエルフは少なくとも100歳超えてるんじゃないかという。
「男は良いなぁ~、エルフのお嫁さん貰えば相手はずっと綺麗なマンマ。私なんか自分が老いるのに相手がイケメンのままとか、ちょっとやだなぁ」
と、柏木が言う。
「まりかの場合、それでもイケメンが良いんでしょ?高鉢なんか範囲外じゃない?」
と、栗原が嫌味を言う。
「いやいや、めい。私は可愛いモノも大好きなの。めいみたいな大女に可愛いのは似合わないと思うなぁ」
とか言い始める柏木。女って怖い・・・・・・
そんな話をしているのを避けて外を眺めていた時、大勢で動く集団らしきものを感じた。
まだ遠い様でよく分からなかったが、それをしばらく注意していると
「魔物だったら良かったけど、盗賊かなぁ」
という、バルナの声が聞こえた。
それにまず反応したのは千葉だった。そして、大池も警戒態勢を取る。
「盗賊なんて居るのかよ」
という梶の驚きの声も聞こえた。
「そりゃあ、居るでしょ。中世みたいな世界なんだから」
と、楠がやる気を出している。
僕からすればここが中世かどうかという事には疑問がある。魔法云々もそうだけど、それ以外の点も。
「どうかなぁ。中世みたいな崩壊世界じゃなくて、近世、いや、古代かな?魔法も含めて。ギリシャやカルタゴが栄えていた頃の繁栄の方が当て嵌まると思うよ」
と言ったのは、意外にも柏木だった。僕もそれには賛成かな。
「どっちにしても盗賊の居る世界」
と、楠は話をぶった切る。それほど暢気にしていて良い状況では無いと言いたいのだろう。きっと、楠は相手が人間でも容赦なく殺しに行く。じゃあ、僕やほかのメンバーは?
それからしばらくすると、お約束のようにガラの悪い連中が2人、街道を塞ぐように立っていた。
「ヒャッハー、綺麗どころの狐獣人だぜ!」
と歓喜する盗賊。
「男どもに用はねぇ。女を置いていきな」
と、片割れは冷静にそんなことを叫ぶ。
「ねえ、狐獣人にどんな部族が居るか知ってて言ってる?」
と、挑発しに掛かるスーケ。
「冒険者なんだろぅ?だが、駆け出しボンボンの護衛じゃあ、マトモに動けねぇよな」
と、スーケを嘲笑しだす。
どうやら僕ら加護持ちの鎧を見て、貴族か豪商出のボンボンに見えたらしい。サッと辺りを確認すると、総勢15人くらいだろうか?
「ボンボンかどうか、確認してみる?」
馬車を飛び降りて2人の前に出る楠。
「何だ?おいおい、ガキが粋がるなって。あとでたっぷり相手してやっからy…」
最後まで喋らせずに首が飛んだ。
「粋がってんのはどっちかな」
仲間の首が飛んで驚く片割れに問う楠。
「このがk…」
言い終えることなく真っ二つになる盗賊。
「楠、お前・・・・・・」
梶が怯えるような声で楠に言う。柏木や栗原も似たようなものだった。マジで殺りやがったと僕も思ったが、本人から聞いている僕はそこまで動揺が無かった。というか、楠が「お前はどうすんだ?」という視線を僕に向けてくる。
覚悟するしかないらしい。
僕は風竜の矢を構え、一番遠くでふんぞり返る人物を狙った。形が残る事を意識して雁股を使う。鏑矢で弾けさせる様な失敗はしない。
通常の弓ではまず致命傷にならない500m程度離れた場所に居るその人物へと矢が飛んで行く。僕にすれば必中距離である。
僕たちを囲む盗賊たちはふんぞり返る人物の首が飛んだことに気が付いていない。当の偉そうな遺体さえ、自分に何が起きたか分かっていなかっただろう。
「それで良いの。それで!」
僕の行動を見届けた楠は盗賊たちの群れへと突っ込んでいった。スーケやバルナは敢えて加勢しない。
僕が楠の背中を守る様に幾人かを雁股で両断した以外、ほぼ一人で蹂躙してしまった。
水精霊の加護を持つ楠は返り血さえ浴びることなく、何事も無かったかのように馬車まで戻って来た。
「ねえ、スーケ。この盗賊って賞金首?」
楠は平然とスーケにそう聞く。
「どうかな。ケンタが飛ばした首を確認してみないと分からない」
スーケも平然と応え、及び腰の大池や千葉を促して首を確認しに行った。
その時、後方から馬らしきモノが翔る音がしたので振り向くと、3騎の騎馬がこちらへと向かっていた来ている。どうやら盗賊の生き残りであるらしく、この状況を把握できていないらしい。
そこへ、音の鳴らない鏑矢を3射、馬へと放ち弾けさせると騎乗していた人間は流石、軽装鎧程度なので、馬が弾けた勢いで2階建て家屋より高く飛ばされている。あのまま落ちれば無傷では済まない。
が、そこへとバルナがトドメの矢を放って行く。徹底してるなぁ~
後方の3人を確認するためにバルナが僕を促し、落ちた場所へと向かった。
「ああ、これ、トドメなんて必要なかったね」
平然とバルナがそう言った遺体は、弾けた馬の骨によって既に瀕死であったらしく、見事に胸に刺さった矢を待たずに、2人は絶命していたっぽい。
「まさか、弾けた馬の骨で顔が潰れてるのは減点だけど」
バルナが呆れるのも分かる。1人しか顔の見分けつかないもの・・・・・・
幸運?にも、顔が無事な遺体はギルドに張り出されていた賞金首であるらしく、バルナはいそいそと首を刈った。
馬車まで戻ると楠に氷漬けにするように頼んでいる。しばらくして戻って来たスーケと青い顔の大池。こわばった顔の千葉。
「お尋ね者の盗賊だった」
と、スーケが氷漬けの首をみて持ち帰ったモノも依頼している。
「おまえら・・・・・・」
固まっている梶や柏木。栗原は何とか正気であるらしい。
「梶、残りは不要だから集めて焼くよ」
平然と言い放つ楠の姿に、後戻りできない事を覚悟した。




