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3・負けず嫌いのエルフさん

 鼻息荒いドワーフがまじまじと弓を見つめてくる。


「なんだこりゃあ。これがこうであそこがああだから、コイツがこうなる、コイツは面白い素材だ、代用するなら・・・・・・」


 弓を見ながら何か呟いている。


「おい、その手に持ってる奴も見せろ」


 そう言って右手のリリーサーをまじまじと見る。


「コイツは面白れぇ。弓の概念が覆るじゃんえぇか。耳長には作れねぇ、俺らだけに許された魔道具の領域だぜ!!風精霊の加護持ちが使う魔道具をこの手で造れると思うと腕が鳴る。おい、明日の昼には持ってくる、それまでマトモでいろよ、召喚者!!」


 結局、ドワーフも大概だな。全てを自己完結して去って行っちゃったよ・・・・・・


 あ・・・・・・


「あの、矢がもうないんですが」


 せっかくの矢がすでにすべて使い果たしてしまった。しかも金属の的に当たったので矢を回収しても使えない事は明白だ。どうせ衝撃で折れたり曲がったりしているに違いない。


「お前は何を言っているんだ?矢など【矢生成】で作り出すものだが?」


 と、脳筋全開の疑問を投げかけてくるエルフ。なにそのマジックツール。


 だが、どうも説明する気は全くないらしい。事細かに説明するスキルなど脳筋が持ち合わせてはいないので期待は全くないけども、あんまりじゃない?


「ハァ、世話が焼ける奴だ。視て居ろ」


 そう言うと、どこからともなく左手に弓が現れた。特にそれを自慢するでもなく弦に右手を掛けるとそこに呪文も道具も無く矢が出現しやがるではないか。


「これが【矢生成】だ。分かったか?そして、これが生成した矢の威力だ」


 そう言って未だ動く振り子へと矢が飛んで行き、カーンと甲高い音が鳴った。まるで勢いよく鐘をついたみたいな大きな音だった。


「お前の弓は見た目の威力はあるが、ヌルイ矢を使っているからまるで威力が出ていない。目標に合わせた矢を生成して飛ばす事こそ、一人前の弓士の証だ」


 などと、ただマウントを獲りに来る脳筋エルフ。一切どうやれば弓が出たり消えたりするのか、矢を出せるのか、一切合切説明が存在していない。


「見ただろう?やってみろ。加護持ちなら出来て当たり前だ。説明など要らん。ヤレば分かる」


 ダメだコイツ、早く何とかしないと・・・・・・


 しかし、言葉の通じない脳筋エルフに何かを説明するのは無駄だ。きっと、風の流れが見えたり矢の軌道が浮かび上がるように、念じれば矢が出て来るんだと思う。

 何の説明も無いので自分で想像して何とかするしかない。


 エルフがやったように矢を番えず構える。そして、矢を想像して念じてみた。せっかくなので鏑矢なんてどうだろうか。


「何をやっている?さっさと生成しないか」


 などと脳筋が言って来るが、いきなりできるわけがない。僕は脳筋エルフではないのだから。


 うんうん唸って何とか鏑矢が精製出来た。矢じりは雁股だよね?


 矢が生成出来たので引き絞って風を見る。うん、大丈夫そうだ、ちゃんと軌道も浮かんできた。


 そして、矢を放つとピーと甲高い音を発して飛んで行き、振り子を切り裂き貫通した。え?


「いきなりやるではないか。音の鳴る矢とは面白い!」


 脳筋エルフは何やら得心しているが、僕には理解が出来ない。


「ハハハ、やはり私は教え方が巧いな!」


 などと勝手に納得したが、アンタは何もやっていないんだが?


 そんな脳筋エルフは放っておいて、もう一度矢を生成する。今度は斧形矢じりを思い浮かべる。すると、一見して未完成な大型な矢じりが付いた矢が出現した。


 それを振り子へと射る。グワッシャン。あ、先ほど切裂いた切れ目から振り子が千切れた。


「ハッハッハ、なかなか有能だな、チビ。私もうれしいぞ!」


 などと、脳筋が更にふんぞり返る。


「では、我が技を少し見せてやろうではないか」


 などと言って、また弓を出現させる。それ、どうやって出し入れしてるんだ?


「視て居ろ」


 そう言って矢を出現させると、放った矢が見えないほどの速度で飛んで行き、最奥の的から土煙が上がり、遅れてドウンと音が響いて来た。威力が半端ないな。

 

 なんだ?負けず嫌いかよ、このエルフ。


「このくらいが出来てようやく普通だ。ハッハッハ」


 と、ドヤ顔である。


 最奥の的を狙うには、ちょっと調整が必要かな?たぶん。今なら最強の張りでも引けるはず。


「何をやっている?」


 エルフは僕が弓を調整しているところを興味深げに見る。「ちょっと調整を」と伝え、手早く作業を終える。


 エルフは余裕の表情で僕を見下ろしてくる。ホント、負けず嫌いだなぁ。

 まあ、ちょっと驚かせてあげようかな。


 矢を生成する。今度は平根の矢じりでいこう。


 引いていくとこれまでより重いが、それでも引けない事は無い。大丈夫。今の僕ならいける。


 引き絞って最奥の的を見る。風はこちらと向こうでは流れ方が違うらしい。矢の軌道もそれに合わせて刻々と変化するように軌道がうねっている。よくこれで正確にあんなところに当てられるなぁ~


 そう思いながら、タイミングを待って放つ。


 カーン


 さすがに土煙は上がらなかったが、ちゃんと最奥の的を射抜いていい音が鳴った。


「ふん、いい気になるな。明日はあの穴倉が来る昼から始める。精々アイツのガラクタをののしってやると良い」


 と、僕が最奥の的に当てたのが気に入らないらしい。


 ただ、訓練が終って「ハイ、解散」と言われても、どこへ行けば良いのか分からない。


「手間のかかる奴だ。道を覚えろよ、一度しか案内しない」


 脳筋エルフはそう言って僕を宿舎となる建物まで案内するのだった。 

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