27・このハーレムチート野郎・・・・・・
翌日の探索は大型スライムが出ることも無く呆気なく終了した。
「おう、ちょっと時間をくれ」
冒険者の一部がそう言って昨日、スライムと戦った場所でこの世界の祈り方で祈っていた。
それに合わせる様に他の冒険者もそれに続く。
ふと楠を見る。「ほらね」という様な顔で僕を見て来たので、昨日の話を思い出す。そう、彼らは仲間の事を忘れたわけじゃない。ただ悲しんで静かにしているだけが作法じゃないんだなと、改めて再確認させられた。
楠の言いたいことが伝わった僕はそっと手を合わせる。
暫くして皆が動き出す音で僕らも祈りを終え、谷を後にすることになった。
「相手がスライムじゃ遺品も残らないから、悲しみに暮れるより、騒いで死者を安心させるんだそうだ」
寄って来た千葉がそんな事を言った。昨日、楠に言われた後、冒険者たちのいつもの行動に対してそんな気はしてた。
そして、問題は僕らの方だ。
シルッカは大山脈から遠く離れた地域なので、今回の氾濫には無関係だと見積もってやって来ていたが、氾濫要因の一つともいわれる大型スライムが発生していたのだ。こんなのがここに出たという事は、大山脈ではどうなんだろうか?
ギルドに帰ってそんな話になったのだが、意見の対立が起きてしまう。
「ここにあんなのが居たって事は、こっちも氾濫に関係あるんじゃないか?」
という、モブグループの一部。万木や井口と仲が良かった者に至ってはより消極的だ。
「そうだが、より多くの情報が欲しいから、一度教会へ帰るのもアリじゃないのか?」
という大池。
シルッカを離れることに異を唱えるモブグループ。教会帰還を唱える大池や千葉、そこに楠も賛成している。
そして、態度不明な梶、栗原。あまり関心を示さない柏木。僕は楠に従っている。
「教会へ帰って、その後どうするの?大山脈へ向かうと赤石や白川たちとかち合うんじゃない?」
という疑問を口にしたのは栗原だった。
そう、その懸念は間違いなくあるし、それが何を意味するかも分かっている。
「赤石や白川たちが居るんなら共闘すれば良いじゃないか」
と、神聖国の異世界武士と直接会っていない梶は懸念に対して直接的な疑問を感じた様子が無い。
「子孫の話はしただろう?」
と、千葉から言われても、梶はピンと来ていない。
「そんなの会ってみないと分からない話だ。今からそうだと決めつける話じゃない」
と返される。
「梶の言う通り、会えば分かる。ただし、梶も覚悟して」
という楠。
結局、話はモブグループを残して僕たち加護持ち組だけが教会へ向かう事となった。
それに対して僕らも文句はない。こちらで氾濫の影響が出るようなら、彼らが戦う必要があるし、そのこと自体は彼らも分かっている様だから。
それから2日ほど、ギルドでの馬車の手配などで時間が潰れ、3日後にようやく出発となったが、シルッカへ来る時には教会で馬車を用意してくれたので幌馬車だったのに対し、シルッカで用意できたのは無蓋の馬車が一台。馬が2頭。御者も用意できなかった。
「私たちが御者をやるよ」
と、スーケとバルナが言ってくれたので何とか問題解決。
来た時の半数まで人数が減り、無蓋馬車で数日の旅となったが、徒歩で数日掛けて狩りへ行ったことを思えば快適なものだった。
「高鉢が居ると便利だねぇ」
と、野営に際して狩りをして食料調達を行えることに、柏木が暢気な事を言った。
「暢気だな。柏木」
と、梶が厳しい目を向ける。
「私は高鉢について行くだけのヒーラーだからねぇ。とくに必要なのは、梶、アンタの回復だし?」
見事に返す柏木。流石に梶も言い返せない。柏木と離れて狩りをする期間が長かった楠や栗原は魔力消費を抑えることを覚えているが、火魔法という狩りには不利な梶にはその機会が少なく、主にゴブリンの討伐をメインにしていたらしい。もちろん、ゴブリンごときでは火魔法を連発するほどの必要もなく、スライム戦まで真剣に魔力効率を考える機会も無かった。
「それにしても、高鉢が居ると狩りが楽過ぎるし、単独でミノタウロスまで倒せちゃうなんて」
僕の場合、ミノタウロスどころか500m以内であればオーガでも問題ない。スライムのような厄介な存在さえ居なければ、自分だけでやって行けると考えていたほどのチートだ。
「風精霊の加護持ちだもんね。源為朝と高鉢だけなんでしょ?エルフ以外って」
という柏木。
「知ってる?為朝にはエルフ嫁が居たんだって。生まれた子供はエルフに引き取られて子孫がエルフの領域にも居るらしいよ」
という。だから何だろうか?
「高鉢も4号さん捕まえないと。あ、あの指導者エルフって未婚だから襲って来るかもよ?」
と、ニコニコ言って来る。いや、脳筋エルフは男嫌いだし、チェストエルフみたいに凶暴ではないが。
そんな話をしていると、スーケが寄って来た。
「チンゼーの子孫か。それなら我々一族もそうだ。傍流である私ごときがケンタを番いにするのは畏れ多いが、直系部族から誘いがあるかも知れん」
と、「うわ、5号さん確定?」という柏木の茶化す声も聞こえた。
為朝は風精霊の加護を持っていた上に鎮定という大国の主だった事から配下に置いた各種族、部族から嫁いできていたらしい。国が分裂しても子孫たちは生き残っており、エルフは彼との子によってよりいっそう風精霊の加護を受け易くなり、ハーフエルフがいつのまにやらエルフの血が濃くなり、今やエルフ族の主流であるんだとか。きっと、あの脳筋さんも末裔かな?
そして、スーケたち狐獣人も弓狐族という風魔法に長けた部族となっているとか。
エルフやドワーフが教会に協力して優秀な一団を送り込んでいるのも、為朝や信長の功績であるらしいという言い伝えがスーケ達にはあるらしい。
「このハーレムチート野郎・・・・・・」
そんな梶の声が聞こえた




