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26・なんか高鉢らしいね

 谷を出て野営を行う事になった。


 食事中、地元冒険者はいつものように騒がしい。明日の探索うんぬんよりも楽しげに騒ぐ姿が目立つ。そこに加わる千葉の姿は他の召喚者たちからすれば異質に映っている。

 お通夜のような召喚者グループと日常通りに騒ぐ地元グループ。


 そのどちらにも居づらい僕はその囲いを抜けて、少し離れたところでボケっと谷を眺めていた。


 召喚されたという事実から、ラノベのような大活躍をどこか期待していた。


 最強の自分。これは夢や願望ではなく、今の僕には現実だ。銃どころか大砲級の威力を出せてしまう風竜の弓と風精霊の加護という物を自分は持っている。

 多くの召喚者たちは銀級や金級クラスの魔法や武術を召喚の時点で約束されてはいるが、あくまでその程度。ちょっとした慢心やミスで死に至ることになる。と言っても、銀級というのは冒険者としてもはやエリートと言って良い部類だし、金級なんて一般的には最強と呼べる。それでも死と隣り合わせな事が目の前で証明されてしまった。


 異世界召喚だと召喚者って最強で無双が出来て、死ぬなんて余程の事だよね?ボスと呼べるかどうか怪しいレベルの巨大スライム相手に死ぬなんて・・・・・・


「こんなところに居た」


 声からすると楠だろう。


「どうしたの?今更怖くなった?」


 どこか呆れを含んでそう聞いてくる。今更ってどゆこと?


「そっか、自覚無いのかぁ」


 振り返ると呆れた顔の楠が居た。


「シルッカに来る時、ゴブリンに襲われたよね?普通なら犠牲第一号はアンタだったんだけど」


 どこか怒ったようにそう言う。けど、僕には風竜の鎧がある。実際に同化は分からないけれど、竜のブレスすら防げるらしい鎧が。


「それが慢心じゃなくて何?風竜や水竜にだって弱点はあるし、鎧に隙があるでしょうが。ゴブリンが馬鹿だったからアンタはケガひとつなかった。それって鎧の恩恵じゃなくて幸運なだけだったんじゃない?」


 そうなんだろうか。確かに鎧には可動部があるから隙間はあるけれど、それも含めて風精霊の加護で守られてるって聞いてるんだけど。


「確かにそう聞いた。水竜の鎧も精霊の加護があるから隙が無いって」


 だよね?


「それで安心しきってるのがおかしいって気づいてない?それでもそのあるかもしれない隙を見せない様にするのが私たちに求められてることだよ。エルフやドワーフみたいに、纏う精霊魔法だけで鎧以上の防御なんて出来ないんだよ?私たち」


 それも確かに聞いた。あの脳筋エルフさんやドワーフは鎧なんかなくても竜系鎧並みの防御が可能だって。

 結局、その手のスペシャリストに比べると劣るのが僕ら召喚者だったりする。

 僕らはあくまで人間の国や教会が有する「最強」であって、精霊種族と言われるドワーフやエルフとは根本から異なるらしい。

 そんなエルフやドワーフが国ではなく教会やギルドに属しているのも、昔からの歴史があるとかナントカ。


「私はあんたが襲われたときに覚悟決めたよ。この世界はボケっとしてたら簡単に人が死ぬ。私が守れるのは高鉢ぐらいだから、せめてあんただけでも守り抜くって」


 なんか、凄い覚悟決めてるらしいところが僕と違う。まあ、今回実際に人が死んじゃってるからそれは冗談でも何でもないんだけど。

 それを受け入れるか。でも、相手が人間だったらどうなんだろう?


「山賊が襲ってきても殺すに決まってるじゃない。もし、神聖国の人らが言うみたいに赤石や白川たちと争う事になったら、アイツらも殺す」


 しっかりと僕の目を見てそう宣言する楠。まったくウソは含まれていないし、彼女がそこまで言うなら間違いなく実行するだろう。じゃあ、僕はどうすれば良いのかな?

 何もいない谷へと視線を向けた。魔物を殺すこと自体は何とも思わないし、万木や井口が目の前で死んでも、今はもう、それを悲しむ事すらしていない。あの時ですら動揺はしたけど、どうだろう?本当に悲しめたかは怪しいかもしれない。


「千葉を薄情だと思ってる?冒険者たちだって仲間死んでるんだよ。それでも前へ向いてる。私たちみたいに高校やクラスがたまたま一緒だったって繋がりじゃないんだよ、あの人たちは。何年も一緒に命かけて来たけど、仲間が死んでも目的を見失ってない」


 確かにそうかもしれない。明るく騒いでいるけれど、死んだ冒険者を忘れてるわけじゃなさそうだった。

 もちろん、それは小説なんかでよくあるような死者への悲しみや復讐心みたいなモノでもない。ただ淡々と目的を果たそうとしている。そんな感じだ。


 でも、そうだとすると僕らの目的は何だろうか?ここで生活環境を向上させる事では無い様な気もするのだが。

 そう尋ねると楠はキョトンとしている。


「なんか高鉢らしいね。そう、私たちがここに居ても何の目的も果たせる訳じゃない。たまたまスライムって言う氾濫要因になる魔物を倒す事は出来てるけど、本当の目的はアイツラじゃないはずだし」


 そう言って、厳しかった顔がほころんだ。


 でも、だからこそこれからどうするかが問題な事は変わりないと思うんだけど、それはここの探索を終えてから考えれば考えれば良い事なんだろう。





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