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25・ゲームやラノベみたいに簡単にチートできるわけじゃないんだ

 スーケに促された梶ではあったが、行動に出ることが出来なかった。


「いや、万木と井口なんだぞ・・・・・・」


 そう言って抗議する。


「ならタカハチ、吹き飛ばせ」


 そう、スーケが命令口調で言って来る。理由は理解している。理解はしているが納得は出来ていない。ただ、僕の横には自分のしでかしたことを悔いる様な怯えた眼をした楠が居る。

 楠と目が合った。怯える様な。そして、どうやら僕の事を察したらしく、目を見開いて驚く。


「健太・・・・・・」


 僕は意を決して風竜の弓を構え、最大威力で変わり果てた二人の遺体へと矢を放った。あまりにも近すぎるので僕らにも吹き飛んだゴミやもしかしたら2人の肉片かもしれないモノまで降り注ぐが、もう、そんな事はどうでも良かった。

 あまりにも浮つき過ぎていた。まさか、こんなことになるとは思わなかった。


 それに、これは小説やゲームなんかじゃない。死ぬのは魔物ばかりではなく、当然ながら僕らだってその対象なんだ。あまりにも気が付くのが遅かったのかもしれない。


「健太、ありがとう」


 そんな声が聞こえた。何だか昔に戻ったみたいだ。


「魔物倒しても何とも思わなかったのに、なんでなんだろうね」


 楠に気を紛らわすようにそう問いかけてみたが、僕自身、笑えていないと思う。 


 皆を見回してみると、やはりショックが大きいらしく呆然としている。そんな中でスーケが毅然と声を上げた。


「冒険者は危険がつきものだ。そう教えられなかったか?氾濫に挑むなら、このくらいの事は乗り越えないと全滅する!」


 それでも僕らは気持ちの切り替えがうまくいかない。


「ねえ、まりかたちが向かった谷はどうなんだろう」


 そんな中で声を出したのは栗原だった。ここに居たくないというのは分かるし、あんなのを見たら他の仲間の事も心配になる。


「こちらにワイバーンが居ない事は分かった。スライム2体を討伐出来たから大きな危険も去った。メイの心配も分かる。引き返そう」


 と、スーケが言い。僕らは谷を戻る。


 後ろが気にはなるが、風を読んでみても特に何かが居る気配はなく、時折気にしながら、それでも足早に来た道を引き返した。


 右の谷からは未だ帰還していないらしく、僕らは対へと分け入った。


 慎重に進んで行くと、こちらにもスライムが居るらしく、ワイバーンの巣だけがポツポツと現れだす。


 こちらはそう大きな谷では無いと聞いていたが、どうやらそれは正しく、しばらくすると探索パーティの者らしい声が聞こえて来た。


「クソッ、どうすりゃ良いんだ」


 そんな、地元冒険者の声がする。


 それを聞きながら進むと、まずは柏木らヒーラーの姿が見える。


「まりか」


 栗原が声を掛けると柏木が振り向いた。


「めい・・・・・・」


 柏木の顔を見ると、どうやらこちらでも犠牲が出ているらしいことが察せられた。


「あれ、おかしいよ。触れたら頭や腕が溶けるとか反則じゃない?」


 そんな事を言う柏木。


 スライムの周りにいる人たちを見て、千葉やバルナが生きている事に僕はホッとした。ただ、人数は減っている。スライムに取り込まれた姿を見るに、犠牲になったのは今のところ地元冒険者ばかりのようだ。


 水系魔法使いが魔法を撃ち込んでいるようだが、まるで効果があるようには見受けられない。


「移動してるんじゃ、放って逃げるわけにもいかないって訳か」


 そう言ったのは梶だった。 


 スライムには吸収されつつある遺体が幾つか見受けられる。それでも躊躇はしない。いや、吹っ切れたのかな?


 梶は刀を抜くとスライムへと突っ込んでいった。


「刀が光ってる」


 呆然とそれを見送った柏木がそう口にした。どうやらフレアではなく、刀に纏わせる事にしたらしい。


 梶がスライムを斬りつけると斬られた部分が焼かれて切断されていく。


「凍らすだけじゃなく、高温も効くんだ」


 という楠。


 だが、コアには届かないらしく、とにかく切刻んで、時には切り離した一部が剥がれ落ちていく。


「衝撃は吸収出来るけど、温度変化による変質には対応できないんだろうな」


 というのは大池だ。どうやら目の前の大型スライム以外、周辺の脅威は無いらしいく、僕らの側へとやってきている。

 梶は触手も斬り飛ばすことでどんどんダメージを与えている。


「あ・・・・・・」


 冒険者の遺体を斬って燃やしたところを見て、柏木が声をを上げ、顔を背けている。


 そんな攻勢をしばらく続けて何とかコアへのダメージが通ったらしく、スライムがその体を崩していった。


 梶はスライムによって半ば溶かされた遺体を燃やしてまわる。


 それを受け入れた風な地元冒険者たちと、どこか拒絶している召喚者たち。


「凍らせるんじゃなかったのか?火も効果があるとは知らなかったぜ!」


 地元冒険者が梶に声を掛ける。それがどこか受け入れられない右の谷パーティの召喚者たち。


 冒険者がそんな召喚者たちの姿を目に止めた。


「お前ら、なんて顔をしてんだよ。討伐に犠牲は付きもんだ。俺だって仲間がやられて悔しいのは変わりねぇが、そんな顔してたって仲間は帰って来ねぇんだ。笑って送り出してやるくらいの心構えがねぇと、氾濫になんか突っ込めねぇぞ」


 やはり、彼もスーケと似たようなことを言っている。 


「氾濫か・・・・・・、ゲームやラノベみたいに簡単にチートできるわけじゃないんだ。私らはチートなんだと思ってたけどなぁ」


 冒険者を眺めながら楠がそんな事を言う。僕も風精霊の加護を受けてチートなんだと楽観していた。召喚自体がチートだから、僕らが死ぬことは無いとどこかで考えていた。でも、現実はそんなに甘くないらしい。


 スライムを倒した頃には日も傾いて谷底は一足早く薄暗さを増していたので谷の出口まで一度戻って明日、再度の探索を行う事になった。


 その最中、みんなに2人が犠牲になったことが伝えられると、やはりショックを受けている様だった。


 そんな中で唯一、あまりショックを受けて居なさそうなのは千葉である。


「いや、ショックじゃない訳じゃない。でもな。狩猟なんてイノシシに追われたり熊に遭遇するリスクもある。毎年ケガや死人がどこかで出てるんだ。こういう事がいつか起きるだろうって覚悟はあった」


 一応、日本でも狩人をかじってた奴は覚悟が違うのか。

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