24・こんなはずじゃ・・・
それらしくなってきたという雰囲気の中でスライム対策も提示された。
「水魔法によって凍らせることが出来ると分かったが、その為には電撃による衝撃が必要になる。まずは水魔法で凍らせる、そして、それを完成させるために風魔法による電撃を撃ち込む・・・・・・」
と、楠と僕が行った方法がギルド側から説明される。
その後、水魔法を使える者と風魔法を使える者を組みとして、そこにスカウトを組み合わせて探索パーティが作られていった。
その一つは楠と僕のチームである。そして、水、風以外のスキル持ちをそこに付属して、久々に梶や栗原も加わわって来た。スカウトはスーケと大池、さらに今回はモブ組の水魔法、風魔法が使えるチームが加わる。
「加護持ちは後衛を頼む。今回は他の者たちに経験を積ませることを優先する」
と、ギルド側からの指示が出る。たしかに、僕や楠ばかりが活躍しては他の連中のレベルアップが出来ないだろう。
慌ただしく探索内容が決まっていき、僕らのパーティはスライムを倒したその先へと進むことになった。右の谷は地元の冒険者を中心とするパーティが担当する。
こうして決められたパーティで翌朝には竜の谷へと出発。
谷は特に変わりなく、ワイバーンも飛んでいなければ他の魔物や獣も見当たらない。しばらくは大人数でゾロゾロと進み、谷が分かれるところでそれぞれ分かれて進んで行く。
今回スカウトを行うモブはやや緊張気味に先行していくが、一度通った僕にとっては、すでにクリア済みのダンジョンくらいの感覚だった。
どうやら大池も、未踏の谷ではなく、踏破済みの谷という事で余裕があるのか、モブに探索法を教えながら進んで行く。
「あっちの谷ならデッカイのがまだ居るのかな?」
と、僕は暢気に楠に聞いてみる。
「そうかもね。今度は瞬間冷凍でアンタに頼らずやってみたかった」
と、楠もどこか余裕だ。
「そうだ、梶の火魔法で数万度のフレアとかビームみたいなのを発生できるなら、蒸発させられるんじゃない?凍るって事は水分が大半だって事は、低温じゃなくて高温にすれば蒸発するはずだから」
と、梶に提案すらしている。
「数万度って・・・・・・、やったことないからいきなりは無理だろ」
などと魔法談義が始まった。
そんな、どこか気の抜けた僕らは先日スライムを倒した地点へと到達し、まずは周辺の調査を行ったが、特に目新しいものは見つからなかった。
そして、スライムの生態についてスーケの推測を聞いてみたところ、ワイバーンを吸収して大きくなっただけでなく、スライム同士が集合してあそこまで巨大化したのではないかという。
「すると、あのスライムはこの谷に居たスライムの集合体?」
という話になりそうだ。
「他にも集合体が居てもおかしくはない。巨大化で動き自体は緩慢だが、倒し難さは高まっているから警戒してしすぎる事は無いぞ」
と言われた。と言っても、凍らせることで倒せるのは分かってるから、物理無効、魔法減衰という当初ほどの話しじゃないと思うんだ。
「もしいたら、超高温で蒸発するかどうかを試してみたい」
と、そんな提案をする余裕があった。
そして、さらに谷を進んで行く。
未踏ゾーンに入っているが、景色はさほど変わらず、やはりもぬけの殻となったワイバーンの巣らしき残骸のみが時折見つかるだけ。
斥候はスーケや大池の指導を受けながら相変わらずモブが受け持っている。凄い集中力だなぁと、どこか気の抜けた僕は眺めている。
そして何が起きるでもなくさらに奥へと進んで行った。
「この先は歩ける河原が無くなる。探索できるのはもう少し進んだ滝までだ」
というスーケの言葉を聞いて先へと進む。
少し進むと滝の音が聞こえて来た。もう両岸は鋭く切り立っており、もし水量が増えれば逃げ場がないことが僕でも分かるほどだ。
そんな見上げる様な断崖を眺めていて、ふと違和感を覚えた。
「あれ?」
それは数秒の出来事だった。何か崖を張っているのか転がっているのか、そんな気配を感じ、何だろうかと考えているうちにスカウトのボブが叫ぶ。
「スライムだ!」
ソイツを上手く回避したモブ。
「やってやる」
と、気合を入れる梶だったが、ストップがかかる。
「待て、ここは狭すぎる。高温になって飛び散った場合に避けられない」
と、分断された片方を指してスーケが言う。
「じゃあ、俺たちが」
と、飛び出したのは水魔法使いのモブ。
「ブリザード!」
魔剣や魔槍ではなく、純粋に魔法使いなモブはやや離れた位置から氷系の魔法を放つ。そして、それに合わせるように風魔法使いのモブが電撃を放ってみるが、効いた様子はない。
「遠いからか?なら!」
と、魔法使いはスライムへと接近していく。
「待て!離れろ!!」
スーケが叫ぶのを聞いて、モブを見た時には遅かった。湧いて出て来た触手が彼を捉えて引き寄せていた。
「サオリ!」
スーケが楠に叫ぶ、しかし、どうしてよいのか分からない。
「え?でも、万木が・・・・・・」
もし、前回のようにこのまま楠が突っ込めばモブ事凍らせる事になる。それで彼は助かるのか?
さらに近くに居た風系モブへも触手が伸びていく。
「サオリ!迷っている暇はない!早くやれ!!」
スーケはそう急かしてくる。その間にもモブが捕らえられてしまった。
「くっ、分かった」
楠が僕を見る。以前と同じことをやる気なんだろう。
そして、突っ込んだ楠は触手を払いのけながら以前同様に薙刀をスライムに突き立てて魔法を放ち、僕がそこに合わせて電撃の矢を撃ち込んだ。
一瞬で白く変化するスライム。もちろん、触手にからめとられたモブ二人の体も。
スライムに衝撃を与えると砕け散ったが、コアはモブ二人に取り付き、すでに二人とも一見して回復不可能に見えた。
「・・・・・・」
僕も楠も言葉が出ず固まってしまった。
そんな中で素早く動いたのはスーケだった。2人に取り付いたコアへと矢を撃ち込んでいる。弾かれることなく矢は刺さり、穴からコアの中身らしきものがドロドロと流れ出して取り込まれている2人にも掛かっていく。
コアが完全に形を失った時には、モブ二人の体も半ば溶けてしまっていた。
「万木・・・、井口・・・」
僕らに出来たのは二人の名前を呼ぶ事だけだった。
「カジ、火魔法が使えるんだな?彼らを蒸発させろ」
スーケが唖然とする僕らにそう言った。名指しされた梶が恐る恐る口を開く。
「蒸発って・・・・・・」
死んだという理解は出来ても、だったら遺体を埋葬するのが普通だ。蒸発って・・・・・・
「魔物に呑まれ人は既にその魔力に侵されているんだぞ。こんな姿で彷徨わせる気か?」
スーケが厳しい口調でそう言った。
たしかに、そんな話は聞いている。アンデッドとは少し違うが、魔物の魔力に侵された遺体は魔力によって勝手に彷徨い出すことになる。それを防ぐには、火魔法で焼き尽くすか、肉片程度に砕いてしまうしかない。
「こんなはずじゃ・・・」
呆然とする楠の声が聞こえた。




