閑話
「召喚者に接触したそうだな」
日本では見る事の出来ない色鮮やかな安土城を再現した城郭の主がそう口にした。
「はい。幸いにも我々と刃を交える意思は持たぬ者たちでございました」
答えるのは、先日高鉢たちに接触した為朝の子孫である。
「今回の召喚においては、元服後幾ばくも経ない若者たちばかり30余人。すでにウーシマドッやタンペイレンに囲われた者たちもありますれば、過去のような争いは避けられないかと」
そう続けた為朝の子孫の話を聞き、城の主は嘆息する。
「その方や拙者の先祖は自害寸前。以前の者たちは戦の最中。しかし、今回は戦の無い世から拐されたのであろう?」
頬杖をついてそう問う。
「はい。戦なき世との事でしたが、どうやら事故に巻き込まれていた様子があるとの事です。ハッキリはしませぬが、我らご先祖同様、還ろうにも帰る場所がない境遇にあるようです」
それを聞いてまた溜息を吐く主。
「死の淵に在った者を救っていると言えば聞こえは良いが、かどわかしには違いない。それを元服からそう時を経ない若人が標的になろうとはな」
城の主としても、勇者召喚には積極的支持が出来る心境ではない。
「このように召喚を用いて世の理を曲げて氾濫に立ち向かうというのは、本来はおかしなことだ。その方の先祖を召喚出来たがために、我が先祖、さらには先の者たちと味をしめ、またぞろ成功させてしまった。嘆かわしい事よ」
と、呆れたように言う。
「はい。本来ならばこの世の者たちのみで対応すべきこと。エルフやドワーフを過度に警戒するあまり、人は勇者召喚に頼り切る事になるのです」
為朝の子孫もやり切れない様子だった。
「加護持ち達は鍛冶王の鍛えた業物の武器防具を持っておるそうだな?」
「はい。鍛冶王に限らず、シルッカのドワーフも鍛冶王が拵えし風竜の弓の模倣を企んでいるとか」
それを聞いて主は前のめりになる。
「何?では、相当な威力の武具や硬い防具が出来上がるのか?」
「はい。しかし、企んでいるのは今のところ弓のみ。魔物を使う以上は、早々広まる代物とはなりますまい」
という為朝の子孫。
「だが、ヒナワ並か以上の出来とはなろう?サンパチは弾の量産がどうやっても追い付かん。弓矢より遠く、速く撃てる武器と言いながら、数が揃わんのでは弓矢に勝てる算ができん」
信長が持ち込んだ火縄銃はその後にドワーフが改良を重ね、ドワーフ弓と並ぶ射程、威力を得たが、先込めゆえに速射性では劣っていた。
そこに三八式歩兵銃の知識を持ち込んだ日本軍。ただ、ドワーフによる手工業の世界なだけに、その量産は高価で少量生産に留まり、何より薬莢の大量生産が追い付かない事から神聖国においても一部が保有するにとどまっていた。和弓やイングランド長弓を超える魔物素材のドワーフ弓が相手では、未だ優位を築くには至っていない。
「風竜の弓はそれ以上かと」
「だからこそ、加護持ちとは敵対するな。我ら召喚者の末裔が、同じ召喚者を蔑ろにする事も罷り為らん」
神聖国支配層にとって召喚者とは、自らの祖先の同郷であり、敵対するような謂れは無い。自らも縁者に当たるかもしれない者たちとあって、保護の対象としての意識が強かった。
「はい、我らが祖先の同郷、我らも召喚者を縁者と考え接しております。しかし・・・・・・」
しかし、問題は関わる他の国々だった。
「すでに召喚者を囲う二国か・・・・・・」
二人にとっての懸念は、以前の召喚時に起きた召喚者同士の騒乱だった。
その懸念された王国では。
「どうだ?宰相」
王は囲う召喚者たちの事を宰相に尋ねる。
「はい。順調にございます。シラカワは王女殿下に夢中。他の者たちも同様にて」
と、恭しく答える。
「皆、相応のスキル持ち達よ。領内での討伐を重ね。実績も積み上げておるであろう?」
と、王も自らの娘を与えた召喚者に期待感を持っている。
「それはもう。我が家臣団、そして王家が誇るスキル持ち達ですので」
「ところで、加護持ち達はどうしておる?スオメニは我関せずと突き話したと聞いたが」
と、話題を変える。
「連中は無能を引き連れ、シルッカのギルドにおいて狩猟討伐の生活を送っております。氾濫原より離れた地に居りますれば、我らが囲う者たちほどの実力は無いのではないかと」
宰相の言葉を聞いてより顔がほころぶ王様であった。が
「ところで、アイツらは?」
と、タンペイレンの話を始める。
「タンペイレンは我が国に対抗して召喚者たちを手中にしておりますれば、実力も付けていると思われますが、いかんせん、連中の事ですので、召喚者たちが唯々諾々と従うかどうかは分かりかねます。過去の氾濫の例もありますれば・・・・・・」
適当に召喚者たちに空約束をした結果、国と召喚者の仲違いに加え、召喚者同士でも対立が起り、自国にまで波及した過去を振り返れば、決して安心できる話では無かった。
そんな懸念を抱かれた国では
「どうだ?連中は」
と、どこか後ろ暗い影をもって聞いた豪奢な椅子に座る男。
「はい、全く疑っておりません。80年前よりさらに若い成人すぐとあって、我らを疑う知恵も余裕もないのではないかと」
答えた方は露骨に薄ら笑いである。
「そうだ、それで良い。邪魔をするのは我らではない。同じ召喚者たちが邪魔をしているのだ。幸いにも今回我らの手にあるのはあの一グループのみ。加護持ちにぶつけられるだけの力を蓄えさせ、魔王の再来に備えねば」
明るいはずの部屋でどす黒く部屋の明度すら何段も下げる様な話が行われていた。
自国に伝わる魔王伝説に怯え、過ちを繰り返そうとしている。




