2・脳筋エルフさん
エルフに連れられて行った場所は射場だった。それも部活で使うモノよりまだ広い。
「ここが我らが使う訓練場だ。どれでも良い、狙えると思う的をお前の弓で狙ってみろ」
と、いきなり言われた。
召喚時に僕が弓を召還した事をなぜ知っているのだろうか?さすが、異世界のエルフは物語以上に優れた民族なのかもしれない。
そう感心しながら、僕はバックから弓を取り出した。
「何だ?それは」
エルフが呆れたように僕の弓を見た。まあ、仕方がないだろう。部活で使うリカーブとは似ても似つかないコンパウンドボウなのだから。リカーブなら弓に見えただろうが、さすがにコンパウンドボウという弓はファンタジーではなくSF向きだ。エルフが理解できなくとも仕方がない。それに、詳しく説明するほどの知識も持ち合わせていないので、
「これが僕の世界の弓です」
と、適当に流して的を狙う。
しかしこの射場、一体何mあるんだ?最奥の的など学校の60m射場の5倍はありそうだ。まずは、部活でやる程度の的を狙う。
ゴーン
釣鐘のような音が的から聞こえて来るではないか。この的、金属製らしく一発で矢がダメになってるだろう。いくら何でもこんな使い方をしたら矢がいくらあっても足りないというのに・・・・・・
「そんな手前の的しか狙えんのか?」
と、見下したように言われたので、公式な射場ではやったことが無い中段にある100m越えの的を狙ってみる。
カン
「ほう、一応、あの距離を届かすか、我らならそれで当たり前だが」
などと言い張るので、公式世界記録級の200m付近の的を狙って射る。
ギャン
「何?まぐれとは言え、そこまで飛ばすか」
どうやらエルフも驚いてくれたらしい。コンパウンドボウであれば、この距離でも届かせることは可能だ。本当に届かせるだけなら最奥の的でもイケると思うので、それを射る。
カン
とりあえず、何とか掠りはしたらしく音が鳴った。
「ふむ、そこまで届かせるのであれば、お前には適性があるという事か」
と、たった数射で何かを得心したらしい。流石エルフ。
「我の願いに応え、この者汝の加護を与えん」
そう言って僕へと手をかざすエルフ。すると、体に風がまとわりついて来て突風が吹き荒れるが、どうもこの風は僕の周りだけで吹き荒れているらしい。
声を出すが自分の耳にすら届かない。嵐が10秒?いや30秒かな?続いたかと思うと急激に体が熱くなり、スッと収まった。
「これでお前は風精霊の加護を受けた。まずはこれで試してみろ。的撃ちなど無意味だと悟るはずだ」
と、何か分かったように言うエルフがまた呪文を唱える。
「我の願いに応え動け」
そう、射場に手をかざすと、的の一部が振り子のように動き出した。
「あれを狙え。手前の振り子で構わん。今のお前にはそれで精いっぱいのはずだ」
と、すべてを分かったように言うエルフ。まあ、エルフと言えば弓が得意というのは定番なので、きっと本当に分かっているのだろうけれど……
言われたように振り子型の動く的を狙う。左右に規則的に揺れて・・、時折不規則に揺れているように見えるのは気のせいか?
弓を引き絞ると不思議と目の前に風の流れが浮き出してきた。そして、何となく空戦ゲームのサイトのように矢の軌道がぼんやり伸びていく。
風精霊の加護を受けると風が見える様になる上に、矢の飛ぶ軌道まで見える様になるとは、これは本当にファンタジー過ぎるよ!
その軌道に従い、振り子の動きを風によって掴み、矢を放つ。
ゴーン
真ん中に当たった時特有の音が鳴る。
「ふん。私の与えた加護の力はどうだ?チビよ」
ふと見るとエルフはドヤ顔である。うん、そだね・・・・・・
「おい、耳長!弓も持たせず射場に連れて来てどうすんだこのボケなす!!」
そんな時、野太い声が射場に響いた。ふと見ると、力士を思わせる様な縦にも横にもデカイ髭もじゃがドスドスとこちらへ歩いて来るではないか。アレはドワーフかな?
そんな事を思っているとエルフが吠えた。
「あ”?何の用だ。邪魔だ穴倉」
先ほどまでの尊大な態度とは違い、怒気を孕んだ声音である。
「弓も渡さずに連れて来る様なボケなすに用は無い。お前が無暗に振り回している召喚者に用がある」
エルフには取り合わずに僕へと視線を向けるドワーフ。あ、僕を見てキョトンとしている。
「おい!腐れ耳長。なんでさっき連れて出したはずの召喚者がすでに風精霊の加護を受けている?またヤラカしたのか!!」
と、視線をエルフに移して叫ぶ。
「はん、またとは何だ。コイツは勇者だ。加護を受けるくらい普通の事ではないか。それも分からないならさっさと穴倉へ帰れ!」
エルフも叫ぶが、それを聞いたドワーフが更に怒り出した。
「この腐れ外道が!たまたま成功しただけだろうが。これまで一体どれだけの弓士を潰したと思ってる!!」
え?どゆ事??
「見ればわかると思うが、成功している。私を外道とは片腹痛い」
と、ドヤ顔のエルフ。
「偶然の産物だ。お前がコイツの適性を見抜いたわけでもねぇ癖しやがって、一歩間違えば召喚者を即日破壊してたんだぞ、腐れ外道」
え?ちょ・・・・・・
「それはこれまでの弓士が軟弱だったからだ。風精霊の加護を受け入れない弓士など弓士ではない!」
そこ、今までの話を聞くと、胸張って言う場面じゃない気がする。コイツ、実はトンだ脳筋案件なんじゃ・・・・・・
「もうイイ、お前に聞いた俺が馬鹿だった。で、召喚者よ・・・」
僕を見たドワーフが固まる。
「ナンジョソリャァ!!!!!」
舌嚙んだな。
そして、縮地でも発動したかのように僕へと駆け寄り、弓を見る。
「おい、これは弓なのか?お前の持ち込んだ弓なのか?召喚者の召喚物は色々見て来たが、こんな面白いシロモノ見たのは初めてだぜ!!」
などと騒ぎだす。
「おい、一度撃って見ろ。俺にその弓がどんなシロモノなのか見せてみろ」
喜々としてそう叫ぶドワーフに応じて弓を引き絞るが、鼻息が荒い。顔が近い。圧が酷い。あまりに気が散って的を大外ししてしまった。
「ふん、この程度の邪魔で外すとは情けない」
脳筋エルフがそんな事を言って来る。