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17・とんでもなく身も蓋もない話になった

 それを聞いて僕らは言葉が出なかった。


 そもそも帰れない?


「でも、今から返送の魔法陣を組んで送り返すなら・・・・・・」


 と言ったのは、モブ女子だった。


「聖君もその様な考えは持っておったらしい。謀反に遭ったそうだな。それならば還って謀反人を成敗するという考えも自然と出てくる」


 まあ、それはそうだ。そう考えるのが自然というモノだと思う。


「という事は、帰す魔法の研究はしているんですよね?」


 と、千葉が畳みかける。


「そうだ。試行錯誤を重ねはしたが・・・」


 そう、色々魔法陣の研究やそもそもの理論研究がなされたらしい。


「まず、召喚陣というのは任意の場所に出現させるものではない。いわば運を天に任せる類のものだ。たまたま精霊公を召喚できたことで、その周辺へと展開する技法が確立され、以後、実施されている。結果、二人目の成功が聖君であったのだろう。その間の事は分からん」


 との事だった。


「召喚された聖君は魔術師に還る術を模索させた。そこで出て来た結果が、『任意の場所に出現させる術がない』というモノだった」


 そりゃあそうだ。任意にいつでもどこでも出現させることが出来るなら、当然帰すこともできるだろう。


「だが、論理的には二つの可能性が考えられた」


 帰すことが可能だとして考え出されたのが、


「まず一つは、召喚されたその時、その場所への還送だ」


 これは帰る事は確かに出来るかもしれない。しかし、信長が帰る場所は燃え盛る本能寺、まさに自害しようとした瞬間。そんな場所に帰っても、自害以外の選択は無い。


「もう一つは、場所や時は還送時の時間になるが、召喚者に起きつつあった事象は変えられないというものだ」


 ちょっとよく分からなかったが、自害であれ、沈没であれ、僕らであれば中毒や爆発に起因するケガ。それらの事象を避ける事は出来ず、遠からず命を落とすというもの。


「仮に還る術が確立されたとしても、召喚時に起きようとしていた事象は止められぬ。遠からず命を落とすであろうな」


 それはまさにタイムパラドクスの考え方と同じだった。そこに居るはずがない人間は、時を超えて存在し続けることが出来ない。

 そもそも、僕らが召喚された「その時」の教室に戻るとして、それが今。そう、すでに何週間も経った今、その場に帰って果たして、同じ様に自らを維持できるのか?

 校舎がそのまま在るのかも分からない。もし、僕らの学校に異常がなくとも、では、教室の状態は?


「先の召喚者らは、もし還っても、そこは船も沈んで頼る術も無き大海原であっただろう。その方らも、屋敷が壊されておれば空中ぞ?屋敷があろうと、部屋の内部が変わっておれば置物や柱の下敷きぞ?」


 うん、ソイツはエゲツナイ事になりそうだ。当然、教室が片付けられているだけなら良いが、ロッカーなどが移動されていれば下敷きになる事にもなりかねない。本当に事故で壊れたり解体された後だったら、目も当てられない事態も想像できてしまう。


「だが、あくまで仮定の理論でしかない。召喚自体が狙った場所に魔法陣を出現させられん。精霊公と聖君では自害した場所が異なるし、先の召喚者など、国を何日も離れた海原だ。その方らも伊豆や京からは離れた地ではないか?」


 そう、たまたま、本当に偶然にも為朝の召喚に成功したから、その召喚魔法陣が成功と証明され、同じものを使いまわすことで、信長や陸軍軍人、僕たちの召還に成功している。


 しかし、還送魔法陣の成功を誰が確認するのか?


「なにより、召喚魔法陣の発動には多大な魔力を要する。それがために必要な魔力を集めるのに少なくとも100年近くを要している。同じ場所に返すには同じ魔力量が必要であろう?どうやって魔法陣を発動するのだ?」


 そう、結局はそこへと行きつく。


 そもそも成功するかどうかもわからず、この世界には何の利益も無く、ましてや短期間で連発できるようなシロモノですらない。50年ではきかない充填期間を要する還送魔法陣の発動を悠長に待って帰る。いや、発動まで寿命がもつ保証すらない。


「最終的に、『召喚者が生きているうちに魔法陣を発動できる保証がない』という結果にしかならなんだ」


 あれこれ帰る困難さや危険性、不確実性を論じてみても、「可能だと仮定して」さらに、「それは生きているうちには無理かもしれない」という、とんでもなく身も蓋もない話になった。


「それは確かに、言われてみればその通りだ・・・・・・」


 そう、もし80年や100年かかるならば一体何人生きているのか?という話だし、それが40年や50年としても、もはやこちらで家族や資産を得ている状態で帰る意味とは何なのか?という事になる。


「ワープホールや転送陣で行ったり来たり出来る訳じゃないんだから、そうなるかぁ。受験を考えたら半年後ですらダメじゃん」


 栗原が再確認するようにそう言った。


「それ以前に、半年も居なかった奴らが『帰ってきました!』で、卒業できるのか?進学や就職以前の問題でしょ」


 と、もはや楠は諦め顔である。大池はそれを覚悟の上だろうし、僕もそんなモノと思っていたから、特に驚きも落胆も無い。


「まあ、こっちの人間にそこまでハッキリ言われたら覚悟するしかない、な」


 千葉も、確認のために聞いたという顔をしている。


「どうやらおぬし等は聞く前から勘付いていた様だな。惑わされて囲われた他の連中と対立する事は今から覚悟しておいた方が良いぞ?以前がそうであった故な」


 と、どこか諦めた様な、そして憐れむような目を向けながら、武士はそう語り、「冷めないうちに食おうぞ」と、食事を勧めて来た。完全ではないけれど、久しぶりに日本を味わう事が出来る夕飯だった。

 

 

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