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15・日本へ帰る魔法とかありますか?

 その翌日、僕たちはさらなる獲物を求めて遠出することにした。


「オークやミノタウロスを探しに行こう!」


 朝、そんな事を言い出したのは千葉だった。夜もお楽しみだった筈だが、かなり元気である。


「それって、シルッカの鉱山跡に行かなきゃ居ないんじゃないの?」


 という疑問を楠が口にした。その通りだと思う。


「そうでもないらしい」


 と、千葉が説明するところによれば、森はずっと続いており、あくまで氾濫の向いた先が鉱山周辺であったに過ぎず、この先にも森はあるし、当然、イノシシや鹿を超える獲物は存在するらしい。

 まあ、それを嬉々として語る姿に何か思わなくもないが······


 とくに反対もなくその方針に沿って獣人2人がルートを決めて進み出した。


 そして、日が高く昇り昼だろうという頃に高台に辿り着いた。


「小さく見える2つの砦が神聖国と王国の物だ」


 と、スーケが指差す方角には確かに小さく見える砦が2つ。


「あの先で川が二股に分かれて中洲がある。そこを巡って争っているらしい。私たちは向こうの丘までしか行かないことにしている」


 と、教えてくれたが、そこにはある疑問が芽生える。


「じゃあ、ここはどっちの領地?」


 そう、まさか、国境が一直線に引かれているはずもなく、川や稜線に沿って引かれている事を想定すると、ここはどちらであっても不思議はない。


「ここは既に神聖国の領地になる。ただし、冒険者や狩人の出入りはとくに決まっていない。以前、神聖国の兵士に会ったが何も言われなかった。あまり乱獲しなければあちらも咎めたりはしない」


 まあ、中洲を巡る争いはあるが、狩猟には関心が無いのかもしれないな。しらんけど。



 更に神聖国の領地を進んで森の直近まで辿り着いた頃には、今日は野宿確定だと腹をくくる。

 そんな時、ふと風の揺らぎを感じて辺りを探る。イノシシや鹿ならば幾度か気配を感じたが、それより大きいナニカが走っている感じ。


 獣人2人も何かを察知したらしく、聞き耳を立てている。


「あれ、何だ?」


 僕が見つけたのはナニカの頭だと思う。


「オーク?いや、オーガ!」


 バルナがそれをじっと見詰めてそう叫ぶ。


 オーガってのは確か、体高3m級を超える巨人だっけ?


 2Kmくらい距離があるのにスケール感がオカシイな。数百mしか離れていないみたいに見えるよ。しかも、明らかにこちらへと歩みを進めているし


「人の集団が居る!」


 気付いて弓を手に転送し、最強に調整してから征矢を生成する。

 2Km近いので風も複雑だし弾道も霞んでいる。

 それでも胴を狙って弓を引き絞る。


 リリーサーを操作すればドンという衝撃波とともに矢が飛んでいく。しかし、一射で射抜ける気がしないので続けざまに二射目を放った。


 三射目を番えて見守っていると、1射目は右肩口を射抜いたらしく、オーガが仰け反る。更にそこへ二射目を左胸部に被弾し、攻撃した僕を探して立ち止まって辺りを見廻している。この隙を逃さず三射目を胴の真ん中目指して放った。


 オーガも僕を見留めたらしいが距離があるので疑っているらしく動き出さない。そこへ三射目が見事に腹部へと命中し、仰け反るように倒れる。


「エゲツねぇ」


 そんな呆れ声を上げる千葉。既に追われていた人らしき集団へと走り出している獣人組。


「私たちも行くよ!」


 獣人達の動きを見てそう声を掛けるのは、楠だった。


「お、おお」


 遅れて動き出した千葉と大池。それに続く僕や栗原達。


 僕は周囲を警戒しながら進み、先に接触している獣人たちを追う。


 僕らが到着すると、オーガに追われていたらしい戦国武士達?が俄に警戒している。


「コイツラは?」


 と、バルナに問う。


「彼らは召喚者たちですよ」


 と、紹介するバルナ。それを聞いて臨戦態勢に入る武士達。


「スオメニの回し者か!」


 格好は武士だが、顔立ちは日本人ではなく彫りが深い中近東か西洋風。一人は地球人には居ない青系の髪色。異世界武士団だなぁって場違いな感想を抱いてしまった。


「王国は何も支援してくれてないよ。国の支援を受けてる連中なら、大山脈側の国へ行ったけど?」


 と、栗原が妙に冷静に、なぜか嫌味を込めて言う。


「何?では、集団召喚だったのか?」


 と、どうやら事情を理解しているらしい武士団の面々。


「クラス召喚だったから30人超えてるよ。此処に居るのは、いわば『あぶれ者』かな」


 と、栗原が冗談みたいに言った。


「『あぶれ者』の加護持ちなんてのが居るのか?···いや、風の加護ならさもありなん」


 と、何やら納得気味。


「我は鎮西八郎家次男だ!」


 と、中の一人が名乗りを挙げた。


「風精霊の加護持ち、高鉢健太です」


 為朝の子孫を名乗る人物にそう挨拶をし、栗原や楠にも促す。


「地精霊の加護持ち、栗原めい」


「水精霊の加護持ち、楠汐織」


 その名乗りを聞いてしばらく驚く武士団。


「加護持ちが三人も」


 そして、警戒を解いて話しかけて来た。


「加護持ちには厳しかろう」


 って、うんと、何が?


 事情がよくわからない僕ら。獣人2人は何か気づいたらしい。


「教会も敢えて火種は撒き散らさんか」


 と、ため息をつく為朝子孫。そして、違和感に気付いたのは大池だった。


「あれ?為朝公の国は無くなって、信長公の国が残ったって聞いたような」


 それは独り言だが、皆に聞こえていた。もちろん武士団にも。


 一瞬、厳しい目を大池に向けた武士団。しかし、それは一瞬だった。


「帝国陸軍という奴らが以前の氾濫の際に召喚され、我らが幾人か助けたが、その方らはそれ以後の者達か?」


 全滅と聞いたが、違うらしい。


「それより80年後です」


 と、問われた大池が答える。


 どうやら彼らはスオメニ王国による越境攻撃を警戒して巡回していたらしい。

 それが何の拍子かはぐれオーガに遭遇して逃げていたのだから、めぐり合わせとは分からない物だ。


「因みに、日本へ帰る魔法とかありますか?」


 と、空気を読まずに聞いたのは千葉だった。


 武士団も哀れんだ顔で千葉を見つめる。


「その話をするには立ち話では済まん。一度、陣屋へ来られよ」


 と、野宿を覚悟していた僕らを建物がある場所へと誘う。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] ここでは「テンノーバンザー」じゃなくて、ちゃんと「帝国陸軍」って呼ばれてるんだ。よかったよかったw
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