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13・なんで僕だけ向こうに行けないの?

 僕にとっては一波乱あった3日間の旅路だったが、キツネ獣人スーケに積極的に話しかけているのは、主に大池だった。やはり、冒険者志望だから話が聞きたいのかな。


 そんな、特に何も起きない旅の先にあったのは、10軒にも満たない小さな集落。スーケは迷うことなく一軒の大きめの建物へと向かい、声を掛ける。


「おやっさん!またよろしく」


 建物から出てきたのは普通のオッサンだった。


「ああ、スーケか。どうした、相棒変えたのか?」


「いや。今回は期待の新人たちの指導だよ。2、3日狩りをするから加工を頼める?」


「それなら構わんよ。取り分はいつも通りか?」


「それで良い」


 と、勝手に話が進んで行くのをボケっと見ている僕たち。


 そうこうしていると、スーケがこちらを振り向いた。


「獲物はここで加工してもらうから、まずは持って来た品を下ろそうか」


 と言って、僕と楠が背負って来た品々を下ろしてオッサンへと見せる。


「今回は多いな」


 と、それを見たオッサンが言うが、スーケは笑って答える。


「たぶん、バルナも来るからそれも込みだよ」


 そう言って食料や道具を渡し、これから泊まる建物へと案内された。


 それは小さな一軒家であり、当然だが個室などと言うものは存在しない。


「うわ、せっかく建物内なのに、また大池や高鉢と一緒かぁ」


 と、楠が嫌な顔をしているが、こればっかりは仕方がない。


「討伐が終ったら優遇も無くなるだろうから、こういう生活にも慣れないと」


 と、僕が励ましたんだが


「アンタが言うな。アンタが。こういう生活って何!」


 と、なぜか怒る楠。


「ひとつ屋根の下だろ?日本だって高三で成人なんだから、一緒だって」


 と、大池がつまらなそうに言う。 


「一緒って・・・」


 楠がそれを聞いてブツブツ言っているが、スーケが荷物を取り出して


「シオリ、一応、着替えに必要な衝立あるから」


 と、ニッコリ笑う。


「いや・・・・・・、・・・うん・・・」


 どうやら納得したらしい。


 そんなことはあったが、狩場の下見に出かけることにした。


 集落の周りは草原が多く、所々に林が存在するような環境で、シルッカよりも森の密度が粗い。その為魔物の生息密度も粗く、食用の狩りには適した環境なんだという。シルッカのように深い森を有する山や丘陵地帯だと、大規模な群れを形成し、それを狙う大型の魔物に遭いやすいため、狩りには向かないという。

 

 と言っても、そうした群れを討伐する必要性も当然あるが、そうした事は年に数度、大人数で行う事なので、通常はこうして狩りやすい場所で狩りをするらしい。


「討伐の時は倒すことがメインだし、大型魔獣の襲撃にも備えなきゃいけないから悠長に解体している時間も無いんだ。大抵は穴を掘って埋めて終わり」


 と、道中スーケが説明してくれた。


 そんな事をしていると、ふと、何か遠くで動く姿が風の流れで分かった。


「何か居る」


 僕がそう言うと、スーケは驚いている。


「え?分かるの?まだ痕跡も見つけていないから探しても居なかったのに・・・・・・」


 と言って、辺りを見回し、耳をピンと立てて音を聞いている。


 その間に弓を準備して見つけた目標へと狙いを定める。狩りが目的だから弱く調整して、弾き飛ばさないように矢じりも雁股を用いて斬り飛ばそうと思う。


 パンという弦の鳴る大きな音と共に矢が飛んで行き、茂みに潜むソレを斬り飛ばす。


「当たったよ。行ってみよう」


 そう言って皆を促して当てた場所へと向かうと、真っ二つになったイノシシみたいなナニカだった肉塊が落ちている。


「ボアって矢が当たっただけで真っ二つになるんだっけ?」


 というスーケの疑問に大池と楠が同意する。


「一応、狙い通り。かな?」


 と、答えてみるが


「やり過ぎ」


 と、楠から突っ込みを入れられた。


「平根や雁股は威力が高すぎる。征矢で貫通狙いで良いんじゃないのか?」


 と、大池からは具体的に指摘された。貫通させて大丈夫なんだろうか?爆ぜたりしないかな?


「それは試してみるしかないな」


 と、大池に言われた。


「とりあえず、狩った獲物は食用部位を持ち帰って加工してもらうよ。いらない部位は埋めるから」


 スーケがそう言って、どこを持ち帰るのかを教えてくれる。


「そう言えば、死体見ても気持ち悪くない」


 と、楠が肉を袋に詰めながら言う。


「今更だろ。ゴブリン真っ二つにして何とも思わなかったんだろ?」


 と、大池から指摘を受けて、ハッとしている。うん、確かにあの時、2匹のゴブリンを鏑矢で弾き飛ばして肉片に変えたけど、特に何も思わなかったね。


「魔法が使えるとかそういう特典がある時点で、耐性スキルも付いてんだろ。だいたいそういうもんだって」


 と、大池は平然とスーケを手伝って解体していた。


 いきなりの獲物をもって帰った僕らは、例のオッサンのところへと向かった。


「ほら、バルナ達が居る」


 建物の前にいる集団を見てスーケがそう言う。なるほど、たしかにあの目立つ黄色の鎧は栗原だ。


 そして、相手の顔が分かるほど近付いた時に、向こうも声を掛けて来た。


「あ、やっぱり言ってた通りだね」


 と、栗原が僕たちを見て獣人に話しかけているところに合流し、早速狩って来た獲物をオッサンへ手渡した。


「早速狩って来たのか。俺は燻製に取り掛かるからこいつらを案内してやってくれ」


 と、あとの事はスーケに任せるらしい。


 僕らも千葉や栗原と連れ立って一軒家へと戻り、近くにある似たような空き家へと彼らが案内されていく。


「やっぱ、振り分け変えようよ」


 という楠の提案によって部屋割りが見直されることになったが、結果は男女別に綺麗に分かれる事が出来なかった。


「何で高鉢が居るの?」


 と、不満顔の楠だが、それはこっちのセリフだ。なんで僕だけ向こうに行けないの?


 



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