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10・風竜の鎧だから無傷だけど

 僕らはモブグループとコミュニケーションを取るとともに、虎さんやメイドさんから「始まりの街」にふさわしい街や村が無いかを相談していた。


「で、氾濫が起きる大山脈から離れた森ねぇ」


 と、どこか不満げな楠が言うが、僕らが全く経験不足なのは皆が認める事なのだから仕方がない。いきなり強力な魔物とやり合えるはずもないし、13人という大所帯を受け入れてくれる様なギルドというのも難題だ。

 単に人数だけならどうという事は無いのだが、少々の支度金しか持たない「お客様」というのが大問題ではなかろうか?


 それに、指導者たちから聞いた話によると、赤石や白川たちのグループは国がスポンサーに名乗りを上げたらしい。

 かと言って、僕らに国のスポンサーが付くことは無いという。では教会が全面支援を申し出るかというと、それも無い。精々が冒険者ギルドにある宿泊施設や飲食の優遇程度らしい。


 そう、冒険者ギルドは教会がその運営を担っている。


 不思議な話だが、この世界では教会が冒険者たちの面倒を見ているんだ。ラノベだと教会はギルドのライバルや下手をしたら敵対組織なのにね。

 だが、ここでは国を超えた組織力を持った教会が救済の一環として貧しい村々を助け、魔物退治にも協力していた。だが、そうやって教会勢力が肥大化するのは多くの国で警戒される話でもあったらしい。


 そりゃそうだ。日本にだって僧兵というのが居たし、戦国時代に寺社勢力は大名にも匹敵する力と領土を有したらしいじゃないか。そうなる事を警戒するのは当然だ。


 そこで、救済の一環で行っていた孤児の職業支援であるとか浮浪者への炊き出しから、そうした孤児や浮浪者への職の斡旋として魔物討伐を行う組織を立ち上げたらしい。ただし、教会自身が組織するのではなく、各国、各領主の領民という立場で行う職業として。


 なので、ラノベやゲームのように各地を渡り歩く冒険者というのは居ない。いや、正確には黄金級冒険者ともなれば教会から地位を得て各地へと派遣されるようになるらしいが、大半の冒険者というのは村や町の近くにある教会が運営するギルドへと属し、自身の村や町を中心に活動する。それを支援するのが黄金級や銀級と言った高位の冒険者であり、銀級にも国内移動の自由があるとの事らしい。


 そして、今僕らが向かっているのは神聖国にほど近く、冒険者の少ない寂れた村であるらしい。


 そんな所に大所帯で宿泊可能なギルドがあるのも驚きだが、もとは大きな街であったが、80年前の氾濫で街の繁栄を支えた鉱山が破壊され、見事に辺境へと逆戻りしたらしい。

 氾濫が収まったと言っても氾濫が発生した地域はしばらく魔物が多く出没するので危険で復興は進んでいない。

 この10年ほどで何とか安全が確保可能な段階まで回復したが、村を治める国と神聖国との関係が思わしくないとかで鉱山再開には至っていないらしい。いや、それって危なくないか?

 そんな事を思いながらゴトゴト馬車に揺られていたのだが、急に馬車が止まった。


「魔獣だ!」


 案内兼護衛として教会から乗り合わせている銀級冒険者がまず飛び出していく。そして、続くように千葉と大池が。


「ほら、行くよ!」


 楠が僕を促してくるのでそれに合わせて馬車を降りた。周囲を見回して風を見る。どうやら左方向に何か居る。


「進路から10時方向!」


 大池の叫ぶ声がした。それから少ししてソレが姿を現した。聞いていた二足歩行の小型モンスターであるゴブリンであるらしい。ちょっと変な色をしたサルといった感じかな?当然だが、食えない魔獣である。


 よくよく見ると魔法を使う個体が居るのだろうか、後方からこちらを窺う個体を発見したので弓を構えてソイツを射る。鏑矢がピーと音を鳴らしながら飛び、


「うわ・・・・・・」


 そこそこ弱く調整して放ったのだが、皆にも知らせるために鏑矢を用いたからか?ゴブリンは見事にはじけ飛んじゃったよ。


 そしてさらに辺りを見回していると、大池から遠話が飛んできた。


『9時方向にもメイジらしき個体が居る』


 そう言われ、横を見ると見えた。ソイツも同じように鏑矢を用いて弾け飛ばす。


「高鉢ぃー!!」


 そんな楠の叫び声と共に左わき腹に衝撃を受けた。


「え?」


 そう思って左を見るとゴブリンが粗末な槍を突き出していた。


「この野郎!!」


 そして、楠がそいつを真っ二つにする。


「高鉢はまりかのヒールを受けて!」


 それだけ言ってまた走り去っていく。


「いや、風竜の鎧だから無傷だけど・・・・・・」


 もう聞こえないとは思いながらそう呟いて周りを見回すが、もう大方終わっている様だ。


 それからすぐ、また楠がこちらへと走って来た。


「高鉢!早く、まりか!」


 僕を引っ張って柏木のところへと連れて行くが、だから、鎧に傷すらないんだって・・・・・・


 柏木もその声で僕へと寄って来て僕を見回す。


「どしたの?」


 不思議そうにそう言う。


「だから、高鉢がゴブリンに刺されたんだって!」


 必死な楠。不思議そうにそれを聞く柏木は次第に顔が二ヤケ出す。


「沙織ぃ~、よ~く高鉢みてみ?」


 そう言われてまだ怒り出す楠。


「ハァ?だから、ここを刺されたって!」


 傷すらない鎧を指してそう叫ぶ。


「どこ?」


「ここ!」


「へ~」


「まりか!冗談言ってる場合じゃないでしょう!」


「いやいや、沙織、冷静んなろ?」


 そんなやり取りをしていると皆が集まって来た。


 それでもしばらく騒いだ楠だったが、どうやら事態を把握したらしい。


「さっさと言え!このバカ!!」


 なぜか僕が怒られた。なんで!?


「大池!アンタも高鉢の護衛だろう!!」


 と、大池にも飛び火したが他のメンツは二ヤケ顔だった。


 そんな事もあったが、何とか村へと到着した。


 確かにそこは寂れていた。が、ギルドだけは昔の名残か大きかった。




 

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