1・気が付くと召喚されていた
高校三年にもなるとどこかそわそわした雰囲気の者たちが出てくる。
二年の時同じクラスだった奴で特進クラスへ行ったのも居たな。そこそこ移動があって、こうして3年の春にはぜひとも国公立を目指す特進の連中と、どこでもいいや、就職か専門学校かも?なメンツで大きくその顔色まで違ってきている。
そんな我が高校の、とても平凡なクラスとなった僕。
そんな、1学期が始まってようやくクラスの全員の名前と顔が覚えられたかな?と言った時期の午後だった。
授業が始まっても皆どこか落ち着きがなく、何だったら教師も何やら具合が悪そうだった。
「ああ、すまん。ちょっと自習しててくれ」
そう言って教室を出ていく教師を見送ると、辺りがいきなり光に包まれ、気が付くと椅子がなくなり尻もちをついてしまった。
何が起きたのか分からなかったが、どうやらどこかへとクラス丸ごと転移してしまったのだろう。教会のような内装へと周りがガラッと変わっていた。
「何だよコレ」
周りでそんなざわめく声が聞こえる。
ずっと座っているのもどうかと思い立ち上がると、室内へと人が入って来るのが目に入った。
皆も何が起きたのか分からず、その人々を見ている。もちろん、教室を出て行った教師ではないし、見知った教員や生徒など一人も居なかった。
「誰?そもそも、ここどこ?」
誰かがそう言った。
「ようこそ、皆さん。私は召喚を担当したスンマネンである!」
いきなりボケをかますとか、ここは関西かな?
案の定、笑いだす者が居る。
「何だよ、スンマネンって」
そんな、場が和んだところで、再度、その人物が言葉を続ける。
「緊張がほぐれた様で何よりだ。さて、召喚と聞いて理解できたとは思うが、君たちは勇者として選ばれ、能力を有しているはずだ。まずは、何か大事なものを思い浮かべてみてくれ」
と、何のイベントかよくわからない事を言い出したので、みんな困惑している。僕も困惑しているが、大事なものと言われて、ふとひとつ思い浮かんだものがあった。
少し話は変わるが、僕は自転車通学である。
特に珍しくないと思うだろうが、案外そうでもない。高校が丘の上にあるという立地から、多くの生徒が電車やバスを利用しているので、うちの高校に関しては自転車通学は少数派だったりする。
なぜそんな少数派かというと、家から最寄りの駅までは結構遠いし、バス路線もまるで高校へ行く路線とは掠りもしないからだ。
僕の家から電車通学しようと思えば、一度学校と真逆へとバスで向かい、そこから電車に乗り換える必要がある。バスの場合もっと大変だ。街のバスターミナルへ出て、学校へ向かう路線へ乗り換えないといけない。
そのどちらを利用しても1時間以上かかることになるが、自転車で学校へ向かうならば40分で行ける。
そう、直通路線が無いので公共交通が遠回りになるんだ。
それが、親にとっても周りの通学費が掛かる連中の親からの苦労話を聞いて、小遣い額アップの理由になったらしいから、嬉しい話だった。
そんな事もあって、割とフラフラ自由に遊びに行けるし、部活は入っているがガチ部員でもないしで、ちょっとバイトをして、部活用ではないモノを買っている。それが僕にとって「大事なもの」だった。
ざわつく周り。
僕は大事なものという事でそれを思い浮かべるといきなりバックが肩に現れた。
そして、他にも「大事なもの」をすぐに思い浮かべた者たちが居たのだろう、幾人かが手に持ったり、あれ?服が変わったりしている。
ガチャ
音がした方を向くと、裸の女性が表紙にデカデカとあるDVDを取り落とした奴がいる。いや、この状況でソレ?
「どうかな?大事なものは召喚できたかな?君たちの能力に関わる重要なものだから、慎重に考えてくれ」
先に言ってやれ、どうすんだよあのDVD君とかさ・・・・・・
それを聞いて後悔するような顔をする面々も幾人か居た。そして、本当に慎重な幾人かは、冗談みたいな名前の人物の発言を最後まで聞いて召喚する「大事なもの」を決めているらしい。
それから少しして、みんな召喚が終ったらしい。
「では、召喚した物をもって、それぞれ関連がある人物の下へ集まって欲しい」
そう言って、魔法やら剣術やらなにやらと彼と共に入室した人たちの能力が紹介される。何だか部活の勧誘か新任教師の紹介みたいだな。
それが終るとぞろぞろと皆関係ありそうな人の元へと散っていく。僕は、どうやらあの眉目秀麗なイケメンのところみたいだな。
「弓は貴方のところだというので、よろしくお願いします」
そう言って、頭二つ分は高いだろうか、海外の映画俳優のような人物に挨拶をする。耳が長い事を見ると、きっとエルフなんだと思う。
「何だ、チビ一人か」
僕の後に続く者がいないことを確かめて彼はそう言った。
よく小説でもある様に、やっぱりエルフは気位が高い種族という事で間違いなさそうだ。やって行けるのか心配になってくる。
「何だと!もいっぺん言ってみろや!」
そんな声が聞こえた方を見ると、クラスのヤンキーグループがプロボクサーのような人に啖呵切っていた。
「おふぉ」
次の瞬間、啖呵を切ったヤンキーが声にならない声と共に崩れ落ちる。
「おい!オッサン。暴力振るっていいのかよ!」
と聞こえたが、次の瞬間にはソイツがものの見事に吹き飛ばされ、反撃しようとした最後の一人は何もできずに崩れ落ちた。
「威勢だけはいいな、鍛えがいがありそうだ」
そのボクサーはそう言ってその三人を担いでどこかへと向かうらしい。南無・・・・・・
それを見て周りもシンと静まり返ってしまう。いや、ようやく我に返ったと言って良いかもしれない。僕も、なぜこうも従順にあの冗談みたいな名前の人の指示に従ったのか理解できないくらいだ。
「おいチビ、こっちだ」
エルフにそう言われて付き従っていくしかない。もはや何が何だかわからないが、クラス召喚と言えばそういうモノと受け止めるしかないらしい。
説明?チュートリアル?何それ、おいしいの?
 




